成長分野のビジネスはふたつの軸の周辺に拡大してゆく
ITの技術革新の歴史は、ITのコモディティ化の歴史でもある
新しい技術が世の中に出現すると、最初はその技術そのものが差別化の源泉となります。そして、それを使いこなす人もまた高度な技術が求められ、その高度な技術に対応するためのスペシャリティがビジネスを生みだします。
その後、その技術の普及がすすむと、機能や性能の向上を競う技術競争が始まります。その結果、各社の製品はどれもが実用以上の水準に達し、それ以上完成度を高めても実用のレベルを越えてしまい、ユーザーに対する差別化を生みだすことができなくなります。そうなるとこんどは価格競争へと移り、さらに普及してゆきます。
また技術競争は、同時に技術を隠蔽化する競争でもあります。高い技術力がなくても、誰もが使えるものを創り出そうという競争です。見方を変えれば、その技術が実現する機能をどれだけ簡単に使えるかを競うものです。これにより、さらに普及に弾みがつくと共に、利用者の裾野が拡大してゆきます。
行き着くところ、「なくてはならないが、どれを選んでも同じ」ということとなります。これがコモディティ化です。
コモディティ化された技術は、技術そのものでは差別化ができなくなってしまうため、差別化の源泉は、その技術を使ったサービスやビジネス・モデルへと変わってゆくことになります。
例えば、サーバーやストレージ、ネットワーク機器などのインフラ製品は、コモディティ化のステージにステージに立たされているといえるでしょう。これは、標準化、オープン化の流れと合流し、ますますコモディティ化を加速しています。そして、この流れの中で、SIやシステム運用などのITサービスも同様に、技術力や開発力がコモディティ化し、グローバルな価格競争の中で収益を確保できない時代になりつつあります。
新しい技術の創出が廃れることは無いでしょう。しかし、それは同時にコモディティ化への動きを加速します。ITビジネスはこのような歴史のサイクルの中にあるのです。
この歴史の必然の中で、ビジネスを拡大するためには、ふたつの戦略が考えられます。ひとつは、技術の創出に関わるか、あるいは未だ黎明期の技術にいち早く係わり、技術そのものを競合優位の源泉とする戦略です。例えば、人工知能やIoTなどは、今まさにそのステージにあります。しかし、その技術が本当に普及するのか、あるいは普及の見通しはあるにしてもどれほどのスピードで普及するのかを見誤れば、大きな損失となりかねません。
もうひとつは、コモディティ化した技術や新しい技術を組み合わせた新しいサービスやビジネス・モデルを競合優位の源泉とする戦略です。つまり、技術そのものではなく、技術の応用であり、技術の組み合わせによる新しいビジネス・プロセスやビジネス基盤の創出です。これには、社会や産業についての広い知見も必要ですが、既存のものにとらわれない発想力や構想力などが必要となります。また、それはこれまで世の中に無いものを生み出そうというわけですら、それが普及する保証はありません。
このような成長分野の戦略となるといずれにしてもリスクを冒す覚悟と挑戦が必要になります。しかし、多くの成長分野のビジネスは、このふたつの軸の周辺に拡大してゆくことになるので、そのための覚悟をしなくてはなりません。
ITビジネスの歴史の起点を1964年の汎用機/メインフレームの出現とするならば、すでに50年の歴史を刻んでいます。そこに出現するキーワード、機能や性能はかつてのものは明らかに異なります。しかし、その背後にある上記のような歴史のサイクルは大きく変わってはいないようです。
改めて、これからのITビジネス戦略を考えるとき、この歴史の必然に目を向けるべきでしょう。そこに次のステージへの切っ掛けが見つかるのではないでしょうか。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン