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自由時間という浪費

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「忙しいのに、よくこれだけの資料を作ったり、文章を書いたりできますね?」

時々、こんなことを言われることがあるのだが、これには違和感を禁じ得ない。

確かに、スケジュールは過密であって、その意味では「忙しい」と言えるかもしれないが、だから資料を作り、文章を書けないほどに時間がないわけでもない。移動中や打ち合わせの合間にも時間はあるし、早朝は誰にも邪魔されない時間が手に入る。決して、「忙しい=時間がない」わけではない。

そんな時間さえとれないほどに忙しければ、「忙しい」ことさえ感じられないものだ。最近は、そんな経験はしていないので、そういう意味でも忙しくはない。

「忙しい」と感じるかどうかは、とても主観的なものだろう。講義や講演、打ち合わせなど、確かに時間的にはいろいろと詰まっているが、自分の言葉や資料が、こちらの思い通りの反応や行動を引き出そうものなら、むしろそれは快感だ。もし、思わぬ反応が返ってくれば、それはそれで「どうしてそうなったんだ」と興味がわき、さて、どう対処すれば良いだろうかと思いを巡らせることは、好奇心を刺激する。

だから、「忙しい」ことで、自分の大切なものをなくしたり命を削っていたりというような後ろ向きな感覚はない。むしろ、忙しいからこそ、どうやって時間を作ろうか、この限られた時間でどうすれば、成果を出せるかを考えなくてはならないので、ちょっとスリリングなエンターテイメントでもある。

「自由な時間があるんですか?」などと言う人もいる。「仕事vs自由時間」という構図で捉えているのだろう。「仕事の時間は楽しくない、だから、自由時間でリフレッシュしないといけない」という前提で話をしているようだが、この感覚もまたどうも自分には当てはまらない。自分にとっては、仕事もまた自由であって、チャレンジがあって、とても楽しい時間なのだ。だから、そういう感覚を得られない時間を「自由時間」だというのであれば、それは「浪費」以外の何ものでもない。ワーカーホリックとか時間貧乏とかいわれるかもしれないが、結局はそれが楽しいから没入するのであって、嫌々やっているわけではない。

「仕事には目標が組込まれており、フィードバック、ルール、挑戦があり、それらのすべてが仕事に没入し、集中し、我を忘れるように仕向けるからである。」

心理学者M.チクセントミハイは、仕事にはこのような側面があると述べている。

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著作:Neil Scottuk

彼の言う「フロー体験」とは、自分の心理的エネルギーが、今取り組んでいる対象に100%注がれている状態であるといい、没入感と楽しい感覚が生み出されているという。この状態にある間、人は時間の流れを忘れ高揚感に包まれる。人は、このような状態の時に、自分の持てる能力を最大限に発揮しようとする。そして限界に突き当たり、さらにそれを克服しようと、より一層心理的エネルギーを注ぎ込もうとする。このような過程を繰り返し経験し積み上げてゆくことで、人は成長を実感し、「幸福感」をいだくことができるという。

仕事をそのように感じられると、「仕事(楽しくない)vs自由時間(楽しい)」という対立関係は成り立たない。むしろ、自由時間が「フロー状態」になれない時間だとすれば、むしろ自由時間は浪費でしかない。

ただ、仕事の時間がお金を稼ぐための時間であり、お金を稼ぐことにならない時間を自由時間というのであれば、そういう意味での自由時間はそれなりに必要だと思う。人とのつながりや教養という「フロー体験」を生みだすための材料を仕入れる時間だからだ。また、自転車レースやトレイルランニングなど、趣味もまた自由時間であるが、それも、「目標が組込まれており、フィードバック、ルール、挑戦がある」など、フロー状態を生みだす条件が用意されていて、自分にとって楽しい時間となっている。

何もしない、ボーッとしている時間がほしいことはある。「何も考えたくない時間」というのは、自分をとても冷静に捉えられる時間であり、何の制約も受けることなく自分の状態を客観視できる。そんな「なにも考えたくない時間」を自由時間というのであれば、それは是非とも必要であるが、あまりその時間が永く続くと結局は何かを考え、何かをはじめてしまうので、そこそこが自分にはふさわしい。気ぜわしい人間だと自分でも思うのだが、それが性分というものだ。

「自由時間は構造化されておらず、楽しめるように形作るためにははるかに多くの努力を要する。」

M. チクセントミハイのこの言葉もまた、なるほどと思う。自由時間を楽しむためには、このような努力が必要だ。しかし、この感覚は、仕事で得ようとするものと区別がない。だから、それがない自由時間は浪費と思えてしまう。

人材育成とは、そういう「フロー体験」を自ら感じられる能力を育てる取り組みだ。マネージメントの役割もまた部下にフロー体験ができる環境を整え、やる気と潜在能力を引き出すことである。競合他社との競争も、競合を打ち負かすために自身の心理的エネルギーを傾注し最高のアプローチを行う取り組みであって、そういう状態で取り組んでれば、失敗もまた次につながる「学び」を与えてくれるだろう。

決して、そんなにきちんと時間を区別して生きているわけではないが、意識の根底には、彼の言う「フロー体験」を求めている自分がいる。だからこうやって、いまもブログを書いているのだろう

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目次

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  • 第4章 IoTとビッグデータ
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