【図解】コレ1枚でわかる今年のビジネス・トレンド(2/2)
前回に続き、テクノロジーのトレンドとこれからのITビジネスの関係について考えてゆきます。今回は、このトレンドを支えるキーワードについて、詳しく見てゆくことにしましょう。
【図解】コレ1枚でわかる今年のビジネス・トレンド
テクノロジーのトレンドを支えるキーワード
SDI(Software-Defined Infrastructure)
サーバーやストレージ、ネットワークなどのITインフラを構成するシステム資源が仮想化できるようになると、ソフトウェアへの設定だけで、システム全体を構成、管理、制御できるようになります。この考え方が「SDI(Software-Defined Infrastructure)」です。VMwareは、これをSoftware-Defined Data Center(SDDC)と呼び、IBMは、Software-Defined Environment(SDE)と呼んで、それぞれの思惑を込めて使い分けています。
SDIでは、予め全体の必要量を想定して、物理的なシステム資源を用意しておきます。これを、「リソース・プール」と呼びます。このリソース・プールから、利用者は必要な機器構成や機能をソフトウェアへの設定だけで、取り出し組合せて利用したり、構成変更や追加、削除したりといったことができるようになります。物理的な導入・据え付けやネットワーク接続といった作業は必要ありません。今後のIT利用は、このようなSDIによって構築されたITインフラの上で展開されてゆくことになります。
コンテナ型仮想化(Docker)
「Docker」とは、Docker社が提供するLinux用のコンテナ管理ソフトウェアです。MicrosoftもWindows AzureでのDockerのサポートを表明しており、今後重要な役割を担うことになりそうです。
Dockerもハイパーバイザ型サーバー仮想化と同様に、物理的なサーバーのシステム資源を見かけ上分割して、個別独立したシステムとして提供するために使われます。しかし、サーバー仮想化で使われているハイパーバイザではなく「コンテナ」と言われる別の方法を使います。
コンテナ型は、ハイパーバイザ型に比べ、システム資源へのオーバーヘッドが少ないため、同じの性能のハードウェアであっても、より多くの仮想化されたシステム資源を作ることができます。また、ハイパーバイザ型で仮想サーバーを提供しているクラウド・サービス(IaaS)は、ひとつの仮想サーバー上にさらに仮想サーバーを重ねて稼働させる(二重の仮想化)をサポートしていないケースがほとんどです。しかし、コンテナ型仮想化では、その制約をうけません。また、コンテナ単位でIaaS間を移動させることも容易で、セキュリティや可用性の必要から異なるIaaSを組み合わせて使うような場合に重宝です。さらに、コンテナは、それを起動させるためにハイパーバイザ型のように仮想マシンとOSを起動させる手間がかからないため、極めて高速です。
このような軽量かつ可搬性の高さは、仮想化の新しい選択肢として注目されることになるでしょう。
新しいハードウェア・テクノロジー(ベアメタル、SSD)
仮想化されたサーバーは、管理の利便性をもたらす反面、性能の安定を確保することは難しくなります。特にバッチ処理など処理の終了が性能に左右されるアプリケーションにとっては課題です。
そこで注目されるのがベアメタルです。IaaSで利用するサーバーを仮想マシンとしてではなく、物理マシンとして調達する仕組みで、IBMのSoftLayerはこれをひとつの特徴としていています。物理サーバーを調達できるといっても、それらは全てソフトウェア的な設定作業、つまり「セルフサービス・ポータル」やAPIから利用でき、物理的作業を伴わない点に於いては、仮想サーバーを扱うのと違いはありません。
もうひとつ注目すべきは、SSDストレージ、あるいは、フラッシュストレージの動向です。ストレージと言えば、モータードライブを必要とするHDDが主に使われています。しかし、高速化、高密度化、低消費電力化では限界が見えています。これをブレークスルーするのが不揮発性半導体記憶素子を使ったフラッシュストレージです。
これまでは、比較的高価であったために用途も限定されてきましたが、低価格が急速に進み、MySQLやPostgreSQL、MongoDBといったIOPS(Input/Output per second)の大きいデータベースのストレージに利用することなどの需要の高まりと共に注目されています。
Google Cloud Platform、AWSなど、主要なクラウド事業者も相次いでSSDベースのストレージ・サービスを提供し始めています。
IaaS
ITインフラを提供するクラウド・サービスがIaaSです。このサービス領域はコンテナ型仮想化、ベアメタル、フラッシュストレージなどを取り込んで差別化を図りつつありますが、コモディティ化がすすみつつあり、価格競争の様相を呈しつつあります。
また、性能が高まり、価格も低下し続けることから、ITインフラを自ら所有する必然性は低下してゆきます。そのため、ITインフラは所有から使用への流れがますます加速してゆくことになるでしょう。
IoTとビックデータ
私たちの日常は様々な「モノ」に囲まれています。PCやスマートフォン、ウェアラブルと呼ばれる身につけるデバイス、家電製品や住宅、自動車や鉄道などの生活に欠かせない設備、道路に設置された機器や気象・環境観測機器、工場で働く産業用ロボットや工作機械などが、私たちの日常を支えています。これらが、いまインターネットにつながろうとしているのです。
インターネットにつながるモノの数は、2009年時点で25億個あったそうですが、2020年には300億個以上になるとか500億個になるとか言われています。いずれにしても膨大な数のデバイスやモノが、インターネットにつながろうとしています。
既に私たちは、PCやスマートフォンで文字や写真、音声といったデータを生みだし、そこに組み込まれたGPSやセンサーが、私たちの動作や行動をデータ化しています。また、モノに組み込まれたセンサーが、その動きや周辺の状況をデータ化しています。私たちの日常生活や社会活動が広範にデータ化され、インターネットを介して、集められる時代を迎えようとしています。このような仕組みは、「IoT(Internet of Things)」と呼ばれています。
膨大な数のデバイスやモノから生みだされ急速な勢いで増え続けるデータは、「ビッグデータ」と呼ばれており、そこには現実世界に関わる様々なデータが集められているのです。これを統計手法や人工知能を使って分析し、わかりやすい表現で「見える化」することで、様々な知見やノウハウを取り出すことができます。
このような一連の仕組みは、もはや一企業が所有できるものではありません。クラウド・サービスの中に組み込まれ、サービスとして提供されてゆくでしょう。また、それを支えるテクノロジーはOSSに牽引されています。データの一部はオープンデータとして提供されるようになります。
PaaS
ソフトウェアやデータは、今後サービスとして利用されるようになります。当然、それらを使用する開発、実行基盤もまたサービスとして提供されるようになります。それが、PaaSです。IaaSが価格競争で利益を確保できなくなりつつある中、主要なクラウド・サービス・プロバイダーは、PaaSに収益基盤を移しつつあります。AWS Elastic Beanstalk、Google App Engine、IBM Blue Mix、HP Helion、Microsoft Azure App Serviceなどがこれに相当します。クラウド・サービスは、開発、実行基盤としての利便性や機能の充実を競う時代へと移り始めています。
SaaS
IaaSからPaaSへとクラウド・サービスの収益基盤は、より上位のレイヤーにシフトしつつあります。この傾向は、さらに上位のSaaSへとシフトすることになるでしょう。上位のビジネス・プロセスにて差別化を進めることで競争優位を継続的、固定的に維持しようという戦略をとるものと考えられます。
主要なクラウド・サービス・プロバイダーが、マーケットプレイスに積極的なのはこのような背景があります。Salesforce.comのAppExchange、AmazonのAWS Marketplace、MicrosoftのMicrosoft Azure Marketplace、IBMのCloud Marketplaceなどがこの動きに対応しています。また、OracleのSaaSビジネスの拡大、SAPのSuccess Factors、 Concurなどの一連のSaaSサービス事業者の買収もまた同様です。
これによって、PaaSも含めた上位レイヤーにおいて、エコシステムを働かせ、サービス全体の魅力を高め、顧客を囲い込もうという戦略であり、今後はこの領域での各社の競争が激しさを増すことになるでしょう。
ソーシャルとウェアラブル・モバイル
TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアが、人のつながりを大きく変えることになりました。面識のあるなしにかかわらず、関心や興味、感性で共感しあえる人たちが、ソーシャルメディアで知り合い、つながり、地域を越えて言葉や写真、動画を共有し、連絡を取り合える仕組みが出現したのです。既に、Twitterのユーザー数は、2億5千万人、Facebookは、13億人を越えています。このような、これまでの人類史上なかった世界規模での人のつながりは、ビジネスばかりでなく、価値観や文化、思想や政治、経済に大きな影響力を持つようになったのです。
これを別のとらえ方をすれば、人のつながり、世の中の話題や関心事、商品やサービスの評価や批判などをデジタル・データ化するプラットフォームであると言うことです。モバイルやウェアラブルも多くのセンサーを組み込んだネットワークにつながるデバイスであり、人間の行動をデジタル・データ化するプラットフォームです。さらにIoTの普及とともに、これらは現実社会をデジタル・データ化する仕組みとして、ますます大きな役割を担うことになるでしょう。
ロボットとスマート・アシスタント
ロボットやスマート・アシスタントなどのスマートマシンは、人と機械との係わり方を大きく変えてしまいます。例えば、話しかけるだけで仕事をこなしてくれる。こちらの意向や行動を先読みして仕事をしてくれる。安全快適にヒトやモノを輸送してくれる。このような快適な未来を実現してくれます。
一方、これまで人間にしかできないと考えられていたことを代替できるようになれば雇用を奪ってしまうかもしれません。そうなれば、私たちの生活はどうなってしまうのでしょうか。政治や経済にも大きな影響をあたえることになるでしょう。
ITの進化は、これまで人間活動の生産性を高め利便性をもたらすものとして、私たちに大きな恩恵をもたらしてきました。スマートマシンもまた、そういう常識の延長線上に生まれてきたものです。しかし、その進化の行き着く先は、本来主体であるはずの人間をも代替してしまうかもしれないのです。
18世紀半ばから19世紀にかけて起こった「産業革命」も、20世紀の「自動化」も、人間の労働のあり方を変えてきたことにおいては、変わりがないという考えもあります。しかし、スマートマシンがこれらと根本的に違うのは、人間にしかできなかった知的な活動が機械に置き換わることです。「産業革命」も「自動化」も、その意味に於いては、人間が主導権を握り、コントロールできたのです。これこそが、スマートマシンが画期的であり、破壊的である所以なのです。
SIビジネスに当てはめてみれば、システムの運用や開発の多くは、スマートマシンに置き換えられてゆくでしょう。そうなれば、これまでの人月積算を前提とした収益構造は成り立たなくなります。この進化の潮流に抗うことはできません。ならば、このスマートマシンをうまく使いこなし、より付加価値の高いビジネスへと自らの役割を変えてゆくしかないのです。
このテクノロジーは、これからのビジネスに広く影響を与え、ビジネスのこれまでの常識を大きく変えてゆくことになるでしょう。
コンテキスト・テクノロジー
「ドアノブに手をかけるとウェアラブルとの通信でロックが解除される。寒い冬の夜、帰宅時間にあわせて室温は自分好みになっていた。ドアを開けると明かりが灯り、お気に入りの曲が流れ始める。風呂も適温だ。帰宅時間は、スマートフォンのGPSや電車の運行情報などから予測されていた。お好みの室温や帰宅したらすぐ風呂に入ることなどは、室温を調整するサーモスタットや給湯器がいつの間にか覚えてしまった。一息ついて、テレビをつけると、自分の好みに合った番組が録画されていて、そのリストが表示される。さあ、どの番組から見ることにしようか・・・」
コンテキスト・テクノロジーが実現しようとしている未来です。コンテキストとは、「文脈」、「背景」、「脈絡」を意味し、コンピュータがユーザーの事情や背景を知り、必要とするサービスを的確に予測したり、判断したりできるようになるでしょう。
この動きは、ウェアラブルやIoTの普及で加速するでしょう。コンピュータはもはや受け身の機械ではなく、個人を識別し、その人が無意識に望んでいるものさえも予測し、手助けするアシスタントになろうとしています。また、ロボットやスマート・アシスタントによって、機械は日常の中により深く組み込まれてゆきます。
一方で、メールで打ち合わせ日程のやり取りをしていた相手が、予定を早めて前日のフライトでこちらに到着することまで、コンピュータが気を利かせて知らせてくれたとしたらどうでしょうか。もしかしたら、秘密の恋人と会うためにこっそりと日程を繰り上げてきているのかもしれません。
コンテキスト・テクノロジーは、生活を便利にし、快適にしてくれそうです。しかし、その一方で、プライバシーをどこまで提供するかは、悩ましいことです。沈黙する権利、情報を削除する権利などが正しく行使され、自らの意志でプライバシーを管理できるリテラシーが求められるようになります。
大きなパラダイム・シフトがすすんでいます。もはや過去の延長線上に未来はないことをしっかりと受け止めなくてはなりません。私たちは、そういう時代の流れを正しく読み取り、ビジネスとしての可能性を模索してゆくことが、求められています。
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「最新のITトレンドとビジネス戦略を最新版に更新しました。
テクノロジー編【2015年7月版】(292ページ)
*新規ページを18ページを追加し、全292ページとなりました。
*最新の解説文を25ページ追加した。
・新たにERPの章を設け、18ページのプレゼンテーションを追加
・IoTおよびITインフラ(仮想化とSDI)に関するプレゼンテーションを一部改訂し、解説文を追加
・アナリティクスに関するプレゼンテーションを改訂し、解説文を追加
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン