営業職採用の新人研修で教えなくてはならいこと
まもなく新入社員を迎える季節になる。そのための研修準備はととのっているだろうか。
これまでSI事業者では、まずは全員エンジニアで採用し、何年かしてから営業職をやらせるといったケースが多かった。しかし、営業力不足が業績を左右するとの認識が高まる中、営業職として新入社員を採用するケースも増えている。
しかし、その研修の実態を伺うと、エンジニア向けの基礎的研修の一部を一緒に行い、あとはOJTに委ねるといったケースも多いようだ。
研修担当者に話を聞けば、「営業研修といっても、何をすれば良いのかわからないから、OJTしかやりようがない」といった本音がもれる。しかし、OJTとは名ばかりに雑務を任され、時には、「ほったらかし」にされていることもある。これでは育つかどうかは運任せも同じだ。誰についたか学ぶ機会や内容にばらつきができる。結局は、「育成」とは名ばかりに、本人の自助努力に期待するしかない。そうなれば、即戦力は期待できず、ただオーバーヘッドを増やすだけになりかねない。
では、営業新人にどのような研修をすれば良いのだろうか。私は、「プロセス」、「知識」、「スキル」の三本柱を提案している。なお、ビジネス・マナーや企業の仕組みといった、新入社員に共通する研修は、別途行うものとする。
プロセス
営業のミッションは、数値目標を達成することだ。そのためには、案件を発掘し、お客様の意志決定プロセスに係わり、受注しなくてはならない。しかし、その方法が、先輩達の暗黙知や経験知に留まり、精神論や根性論しか教えられないとすれば、現場の実践にはほとんど役に立たない。また、営業研修と称して「営業事務」しか教えないとすれば、営業実践は暗中模索の行き当たりばったりで、お客様に対する営業品質さえ保証できない。
この事態に対処するには、営業という仕事をプロセスに分解し、それをこなす手順やノウハウを系統的、理論的に教えなくてはいけない。
旅行のガイドブックのように、どこに何があり、どのように目的地に行けば良いのか、そのためにはどんなルートを通れば良いかを教えることだ。いざ、現地に行ってみれば道に迷うこともある。それでもガイドブックをもっていれば、正しいしルートに戻ることができる。
営業の仕事にはじめて関わる者にも、そんなガイドが必要だ。これが、「営業活動プロセス」だ。案件の開拓から絞り込み、提案から交渉や説得、稟議を確実に通してもらい受注に結びつける。この一連の作業プロセスを時系列に沿って整理し、その実践の方法を教えなくてはいけない。実践の現場に迷っても、原理原則を知っていれば、自分の行ったことを客観的に評価でき、元の場所に戻って改善の道を自ら探すこともできる。そんな営業活動の基本動作を教えなくてはならない。
知識
営業は、プログラムを書くことやネットワーク機器のパラメーター設定ができなくてもいい。しかし、ITに関わる常識を体系的・俯瞰的に知っておく必要はある。
一般に、新入社員研修で、「情報処理の基礎」を教えているところは多い。また、プログラミング実習を経験させたりもする。このような基礎を学ばせることは大切だ。しかし、そこで終わってしまうことが多い。クラウドやモバイルなどが語られることはなく、仮にあったとしても、一昔、あるいは、二昔前の出来事がさらりと語られているに過ぎない。ITの一昔とは1年前、二昔とは3年前といったところだろう。このスピードこそが、この業界の特性だ。そのためには、この変化を踏まえた最新のトレンドを新人研修でも教えなくてはならない。
モバイルファーストは当たり前となり、サーバー・リソースが5分で調達できる時代に、その常識を教えないようでは、現場実践には役立たない。お客様との会話もままならず、むしろ学んだことと現実とのギャップに当惑するだろう。説明はできなくても、お客様が何を話しているかくらい分からなくては、現場での不安は募るばかりだ。
また、このような「変化の学び方」も教えなくてはならない。そうでなければ、変化に追従し、その先を見通すことはできない。
また、テクノロジーの未来を伝え、彼らが関わる仕事の可能性にわくわくさせなくてはいけない。そうすれば、自ら学ぼうという意欲、さらにはこの職場で働こうという意欲を引き出すことはできない。
知識は、彼らに自信を与える。IT企業の新入社員研修にとって、この点は絶対に譲ってはいけない。
スキル
営業の仕事は、お客様に「価値」を提供することだ。この価値は、「成果価値」と「プロセス価値」に分けることができる。
「成果価値」とは、お客様との合意に従いQCDを守って、成果物を提供することだ。アプリケーションの開発、インフラの構築、システム運用などがこれにあたる。この価値は、基本的にはデリバリー・チームまたはエンジニアが主導的な役割を果たす。営業は、それを支援する立場にある。
一方、「プロセス価値」は、態度や印象の良さといった価値だ。わかりやすく綺麗な資料や簡潔明瞭な説明、相手の期待を正しく理解し、確実に応える。このような、お客様応対を適切に行うことで、顧客満足を生みだし、ビジネスを進捗させ、成果に結びつけることができる。営業は、ここで主導権をもたなくてはいけない。そのための能力が「スキル」だ。
営業の能力は、「プロセス」、「知識」、「スキル」の総合力だ。この3つの能力を身につけさせる必要がある。OJTを否定するつもりはないが、そこは、これら学んだことを実践で体験し、その定着を図る取り組みだ。その前提がなく、達成の基準もないままにOJTを行っても、効果的な営業人材の育成には結びつかない。また、誰につくかによって、結果に大きなばらつきが生じてしまう。
「OJTというほったらかし」にならないためにも、営業としての基礎的な能力は、しっかりと教える必要があるだろう。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン
最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年1月版】を公開しました
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションです。毎月1回、「テクノロジー編」と「戦略編」に分けて更新・掲載しています。
【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。
「テクノロジー編」(182ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 「クラウド・コンピューティング」の追加修正
- Webスケールとクラウドコンピューティングについて追加しました。
- パブリック・クラウドとマルチクラウドの関係について追加しました。
- 「IoTとビッグデータ」の追加修正。
- M2MとIoTの歴史的発展系と両者の違いについて追加しました。
- ドイツのIndustry 4.0について追加しました。
「ビジネス戦略編」(49ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 2015年問題の本質というテーマでプレゼンテーションを掲載致しました。
- 人材育成について
- 生き残れない営業を追加しました。
- エンジニアの人材育成について新たなプレゼンテーションを追加しました。
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