ITインフラの空気化とメインフレームの存在意義
テクノロジーの進化は、テクノロジーの難しさやそれを利用する負担を軽減する進化でもある。ITインフラの構築や運用も、SDIやクラウドの登場により、難しさの隠蔽と、そこに関わる作業負担の軽減を推し進めているように見える。
このような動きは、ITインフラに留まらず、開発や実行環境、さらにはアプリケーションへと、より上流にも波及し、もはやビジネスの主戦場は、そちらへと移り始めている。
その結果、ITインフラのコモディティ化はすすみ「空気のような存在」へと向かってゆく。もはや、誰しもが、ITインフラの存在を意識しなくなるかもしれない。
ユーザー企業にとって大切なことは、ビジネスや経営への貢献だ。ビジネスのスピードに同期し、迅速にアプリケーションを提供する。そのための仕組みこそ重要であり、ビジネスにおける競争力はそれによって決まる。
ITインフラは、必要な時に必要な資源を、確実に、安定して提供してくれれば良い。それは、もはや前提であり、誰もが当たり前のものとして関心を払わなくなるかもしれない。
しかし、「空気としての存在」になればなるほど、安心、安全、安定が、重要になる。絶対に止まってはいけない、絶対にセキュリティ侵害を起こしてはいけない、絶対にリソースを枯渇させてはいけない。空気には「絶対」が求められるようになる。
また、急増するモバイル・ユーザーからのリクエストにもミリ秒単位で応答すること、IoTの普及でふくれあがるデータを集約でき、高速に処理できなること、情報系のアプリケーションばかりではなく、基幹業務の処理と一体で連携処理ができることなどの要請にも応えなければならない。
このような、「空気としての存在」に対応できるITインフラとして、メインフレームがもっと評価されてもいいのではないかとかかねがね思っていた。しかし、メインフレームには、なぜか「レガシー」という言葉がすり込まれていて、いまひとつ注目されていない。しかし、そのテクノロジーは、常に最先端であって、他の追随を許さない。
例えば、先日発表されたIBMのzSystems 13は、5GHzの141 wayプロセッサー、10TBのメモリー、アナルティクス専用の並列処理プロセッサーやベクトル・プロセッサーを搭載する。また、ハードウェア機構(正確にはマイクロコード)によりKVMを稼働させ、オーバーヘッドを生じさせず同時8000もの仮想マシン上にLinuxサーバーを稼働させることが可能だという。もちろんOpenStackにも対応する。
また、ハードウェア機構として暗号化処理に対応し、システムは部品レベルで冗長化しているので、機械の故障によるシステム停止はほぼない。MTBF(Mean Time Before Failure:故障が起きてから次の故障が起きるまでの平均時間)は192年と言われている。
また、ハードウェアからミドルウェアの開発をひとつの企業・事業部門で行っていることから、システム全体の安定性だけではなく、障害の回避やパフォーマンスの向上・安定は、ハードとソフトが一体となって対応する仕組みができている。まさに「空気のような存在」にふさわしいITインフラといえるだろう。
x86系のサーバーでこのようなことはできない。その背景には、開発の歴史的な起点が違うことにもある。以下のチャートは、その違いを整理したものだ。
これからも分かるように、メインフレームは、エンタープライズ、大規模ユーザーの同時使用、ミッション・クリティカルをはじめから想定して開発が始まった。これに対し、x86系サーバーまたはPCサーバーは、その名前の通りPersonal Computerを起源とし、複数ユーザーでの使用に対応できるように機能を拡張してきた歴史がある。このような違いを正しく理解した上で、お互いの使い分けをするべきだろう。
x86系のコストパフォーマンスの高さを否定するものではない。ただ、メインフレームをレガシーとするのは、正当な評価ではない。むしろ、「ITインフラの空気化」が、今後益々進むなかで、メインフレームの存在意義をもっと評価してもいいのではないだろうか。
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【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。
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「ビジネス戦略編」(49ページ)
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