ESPNのモバイル戦略。そしてESPNは言う、モバイルは1番目のスクリーンになったと
ウォルト・ディズニー・カンパニー傘下の米国大手スポーツ専門チャンネルESPN(日本語ではイーエスピーエヌと発音する)のモバイル事業部門の責任者マイケル・ベイルが、先月(2012年1月25日‐28日)開催された「MediaPost's Mobile Insider Summit」 カンファレンスで、「モバイルが1番目のスクリーンである」と発言したニュースが米国でちょっとした話題になっている。
モバイルが1番目のスクリーンだという発言は、モバイルがテレビとPCよりも重要な端末であることを示唆する、モバイルにとって非常に重要な意味を持つ発言だ。遡れば、グーグルの元CEOエリック・シュミットが、2010年2月にバルセロナで開催された「Mobile World Congress」カンファレンスで、”Mobile First”という言葉で来るべきモバイル時代の幕開けを宣言してからわずか2年でそれが実現したことになる。
今回は、ESPNが最近ローンチしたアプリを参照しながら、ESPNのモバイル戦略とスポーツビジネスにおけるモバイルの可能性について考えてみたい。
【1】 ESPNのモバイル戦略について
ESPNにとってモバイルがいかに重要であるかを示す数字がある。まず、2011年にESPNのモバイルコンテンツの利用に消費した時間が前年より45%も増えているという。また、ESPNのモバイルからの視聴者は2,000万人を超えており、その上常に15万人が接続されているENPNにとって4番目に大きなネットワークに成長しているとのこと。
● 数字で見るESPN
① 2011年のモバイルの利用時間は前年度より45%増えている。
② モバイルからの視聴者は2千万人を超えている。
③ 15万人が常時接続されている。
ESPNにとって、モバイルはコンテンツ戦略の根幹を成すものであり、新しい番組を企画する場合でもまずモバイルへの対応を1番目に考え、その後にテレビ、ウェブ、印刷物への対応を考えるという。つまり、コンテンツの企画を考えるスタート地点がモバイルになっているというのだ。そして、こうした背景が「モバイルが1番目のスクリーンである」との発言につながっていく。
● コンテンツの企画はモバイルへの対応を1番目に考える
また、モバイルは視聴者を増やすためにも重要であり、特に海外市場を見据えた国際的観点から見た場合、モバイルは視聴者を増やすために欠かせないという。つまり、海外市場の観点から見ても、モバイルは最優先するべきメディアになっているということだ。
では、ESPNは実際にどのようなモバイル戦略を実行しているだろうか。ESPNが最近ローンチとしたコンテンツを見てみたい。
【2】 ESPNのモバイル戦略にとって重要なアプリ
ESPNのモバイル戦略を語る上で外せないのが、昨年から力を入れているタブレット用のアプリ開発だろう。
① WatchESPN
WatchESPNは、アップルストアから無料で入手ができるが、残念ながら日本ではダウンロードができない。よって、ウェブで調べた記事をベースに概要を伝えたい。
WatchESPNは、タイムワーナーケーブル、ブライトハウスネットワークス、ベライゾンFiOsテレビの会員であれば、iPadからライブイベント映像が見れることから、米国のユーザの間ではかなり話題になったアプリだ。日本で利用できないのが本当に残念。
現在はiPhone用アプリも提供されているらしく、WatchESPNでは現在以下のビデオコンテンツの視聴が可能だとのこと。
・NBAのレギュラーシーズンとプレイオフ
・メジャーリーグベースボール
・アメリカンフットボール
・マスターズ、USオープン、
・大学のフッボール、バスケットボール、バークレイプレミアリーグ
・テニスの4大大会他
これらのコンテンツは、全てライブストリーミング配信されており、会員は、お気に入りのESPN番組にアクセスしてライブビデオを視聴することができる。
尚、WatchESPNのコンテンツは、ウェブサイト上でも視聴することができるので、内容はこちらで確認してほしい。
● WatchESPNアプリのキャプチャー画面
② ESPN The Mag
ESPNは、WatchESPN以外にも有料・無料のアプリを数多くローンチしているが、日本でも利用できるアプリとして、ESPN The Magがある。ESPN The Magも無料で提供されており、特に会員登録などをしなくてもビデオコンテンツの視聴やマガジンのダウンロードができる。ESPNのコンテンツを手っ取り早く体験してみたいというユーザには持って来いのアプリだ。
※ ESPN The Magはアップルストアから無料でダウンロードできる。
● ESPN The Magのキャプチャー画面
ESPN The Magで一番お薦めのコンテンツはやはりビデオだ。スポーツファンの興味を離さない試合のハイライト、ダイジェスト、インタービューなどの高品質なビデオがたくさん用意されている。
ESPNがアプリに比重を置くのには理由がある。モバイルからコンテンツにアクセスするトラフィックを調査したところ、トラフィックの大部分がアプリからだったという。ESPNの場合、メインコンテンツはライブとオンデマンド両方の形式で提供するビデオになる。ビデオへのアクセスには、モバイル専用サイトよりもアプリが向いているということなのだろう。
ESPNによれば、今後もアプリ開発への投資は増えるだろうとのことだ。
【3】 今回のまとめ
ESPNにとって、モバイルは、大量のビデオコンテンツと消費者、そしてテレビ、ウェブ、紙媒体などのメディアを接続するゲートウェイの役割を果たしている。モバイルはESPNのクロスプラットフォーム戦略の中心として機能しているのだ。
ESPNは、テレビの視聴率を増やすためにも、モバイルへの投資は今後も欠かせないと判断している。ESPNにとって、モバイルとテレビは視聴率を奪い合うものではなく、お互いを補完し合う関係になっていると言っていいだろう。モバイルをきっかけにESPNを知ったユーザは、違う目的のためにテレビの視聴を検討するようになるのだという。
ESPNによれば、モバイルを中心としたクロスプラットフォーム戦略は、消費者だけではなく、広告主の企業にもメリットをもたらすという。ESPNの番組に広告を出稿したいが、テレビ、ウェブ、印刷物に出稿する予算がない企業にとって、モバイルはコストをあまりかけずにESPNのスポンサーになるベストな方法だという。
“Mobile 'First Screen‘(モバイルが1番目のスクリーンである)”は、現時点ではスポーツビジネスに限ったことなのかもしれない。しかし、スポーツ以外のコンテンツ、音楽、映画、アニメなどの分野で“Mobile 'First Screen‘(モバイルが1番目のスクリーンである)”が叫ばれるようになるのは、もはや時間の問題だろう。
最近のモバイルの勢いを見ていると、そう思わざるおえない。