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会社の成長とベンチャーらしさを失うジレンマについて

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つい最近、営業を開始した2008年から、3年以上もずっとサービスを利用いただいていた顧客との契約が終了した。結論を先に言うと、請求できるサービスの料金と顧客が要求する機能の折り合いがつかなかったからだ。契約開始当初から、請求していた料金以上の内容を提供していたのだが、会社を設立して間もない頃ということもあって、実績と天秤にかけて多少の無理を承知で自分の独断で受注した仕事だった。

ところが、今回の契約更新時の顧客からの新たな要求は、請求している料金で提供できる内容を遥かに超えた内容だった。今回、その顧客への提案に私は加わらなかった。現在は営業の第一線から離れているせいもあって、全ての対応を営業部門に任せることにした。全てを独断で自分が決めていた3年前とは会社の状況が違っている上に、余計な口を出しで社員のやる気を失わせたくなかったからだ。

営業チームが出してきた結論は、今回は正規の料金を提示し、無理な契約更新はしないというものだった。つまり、こちらの提案が飲めないのであれば解約もしかたがないという判断。そして、その結果、顧客は他社のサービスに切り替える選択をした。

それは、提案した内容からして、ある程度予想できた結果だった。ちょっと意外だったのは、その顧客が、断わりの電話を営業担当ではなくわざわざ私宛てにかけてきたことだった。電話口で、その顧客は料金が上がるのであれば他のサービスに切り替えるしかないと言った。

私は3年以上もサービスを使ってもらったことに感謝の言葉を述べた。相手は何か言いたそうにしていた。もしかしたら、なんとかならないのか、本当にこれでいいのかと言いたかったのかもしれない。私は、他になんて言っていいのかわからなかった。ただ感謝の言葉を繰り返すしかできなかった。

その時の私の対応は、間違いでなかったはずだ。会社の決定を経営者の依存で覆すことなど許されないし、その顧客の要求通りにしてしまったら、同じ内容のサービスを正規の料金を支払って利用いただいる顧客への裏切り行為になってしまう。その顧客とサヨナラする方法は、それしかなかったはずだ。

その一方で、どこか釈然としない感情が心のどこかにずっと残ってしまった。まだ知名度のほとんどなかったサービスを、私の気合と勢いだけを評価して発注してくれた顧客だった。最初の訪問から何度も足を運んだ。そんな昔から使っていただいている顧客を失ってしまうというのは、苦労をして契約までこぎつけた人間としてやはり寂しさを感じてしまう。

黒字を達成し、会社が成長することは良いことだ。経営者が現場に介入しなくても、組織でいろいろなことが決められるのも良いことだ。しかしその反面、昔のようなスピード感や熱い対応で顧客にWOWが提供できなくなっているのも確かだ。実際、年末の挨拶で訪問したある顧客から、WOWがなくなってきていると指摘された。

最近、こうした会社の成長とベンチャーらしさを失っているのではというジレンマを感じる局面にたびたび直面する。会社のいろいろなプロセスが、効率やルールだけで決められて行く中で、ベンチャーらしさを発揮することに悩んでいる。成長を続けて行きながら、ベンチャーらしさを失わない会社にするためにはどうしたら良いかを毎日のように考えている。

会社が成長しても、プロセスが組織で動くようになっても、今まで会社の生命線であったスピード感と熱い対応を続ける方法が必ずあるはずだから。そこに、顧客に新しいWOWを提供できるヒントがあるのかもしれない。

新しいWOWを提供できる方法が見つかったら、他社のサービスを利用している例の顧客を訪問して、もう一度サービスを使ってもらうようお願いしようと思っている。アメリカの作家レイモンド・チャンドラーは、小説の中で主人公のフィリップ・マーロウにこう言わせている。「さよならを言うのは、少しの間だけ死ぬことさ」。

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