ハウルビデオ(消費者が作成する本音ビデオ)とソーシャルコマースに関するまとめ
最近、ハウルビデオ(Haul Video)に注目している。理由は、ハウルビデオが消費者自身の手によって作られるビデオであることと、ソーシャルコマースにおけるキラーコンテンツとなる可能性を秘めているからだ。そこで今回は、ハウルビデオの事例を紹介しながら、ハウルビデオとソーシャルコマースの可能性について考えてみたいと思う。
【1】 消費者が商品に対する本音を自ら語って作成するハウルビデオ
まず、ハウルビデオについて説明しよう。ハウルビデオというのは、購入した商品についての意見・感想を消費者が自ら語ったビデオのことである。撮影、編集、アップロードといった全ての作業を、商品を購入した消費者自ら行うのが特長だ。消費者は、正直に自分の意見・感想を語ることから、場合によってはマイナスの意見・感想が語られることもある。つまり、ハウルビデオには、消費者の本音トークがいっぱい詰まっているということになる。
では、ハウルビデオは一体誰が作成するのだろうか。ハウルビデオを作成するのは、圧倒的にティーン・エイジャーから20代前半の女性だ。買い物することが好きで、ビデオを自分で作成することに抵抗がなくて、ソーシャルで交流することが好きなティーン・エイジャーが、ハウルビデオの主役となる。
例えば、19歳のインターネット起業家として一躍有名になったクロエー・スペンサーは、同世代であるティーン・エイジャーとオンライン・ビデオの関係について非常に興味深い発言をしている。以下は、その要約になる。
● ティーン・エイジャーとオンライン・ビデオの関係
- 中学生の時からYouTubeに慣れ親しんでいるため、オンライン・ビデオに対する抵抗感がまったくない。テレビよりも接触する時間が多い。
- お気に入りのオンライン・ビデオは必ずフェイスブック、ツイッター、メッセンジャー、メールなどでシェアする。
- 見るだけではなく、オンライン・ビデオを作成することに対しても抵抗がない。ティーン・エイジャーにとって、オンライン・ビデオを作成することは、学校の宿題のエッセイを作成することと同じレベル。
- 幼少期からYouTubeとオンライン・ビデオ慣れ親しんでいることから、責任ある行動を取ることが自然とできる。
※ 原文:「How Teens Use YouTube & Social Media:The Online Generation Gap」
つまり、最近のティーン・エイジャーは、見て楽しむだけではなく、供給して楽しむものとして、オンライン。ビデオに当たり前のように接しているということになる。実際、このクロエー・スペンサーの発言を裏付けるものとして、世界で一番有名なハウルビデオの供給者ファウラー姉妹の存在があげられる。
このファウラー姉妹、ハウルビデオの世界ではすでにスターだ。YouTubeチャンネルのファン登録者数は150万人以上、ビューにいたっては1億5千万回以上も記録している。ビデオの内容もいたってシンプルだ。二人のお気に入りのブランド、フォーエバー21、べヴァリー・レーンなどで買った商品を箱から出して、その時の気持ちを素直に語るという内容が多い。
実は、今回ゆっくりビデオを見て驚いたことが一つある。それは、ほとんどのビデオが10分以上もあるのだ。こんな長いビデオを、よくこれだけの本数も作成したものだと感心した。
■ Forever 21 Haul
※ YouTube公式チャンネル ⇒ http://www.youtube.com/user/juicystar07
彼女たちの本音が詰まったハウルビデオは、同じティーン・エイジャーにとって憧れの存在となっている。ブランドが発信するメッセージよりも、彼女たちの発信するメッセージの方が信用されているからだ。それにしても、ビデオの中で取り扱ってもらえるブランドにしてみれば、こんなにおいしい話はない。まさに、ファウラー姉妹さまさまである。
【2】 ブランドも新しいビデオマーケティング手法として注目
ファウラー姉妹が作りだすハウルビデオのあまりの影響の大きさに、最近ではブランドが新しいビデオマーケティング手法として注目し出してきている。
大手小売ブランドのJCペニーは、YouTubeチャンネルやフェイスブックページを利用して、ティーン・エイジャーにハウルビデオの投稿を呼びかけ、内容によって250~1,000ドルのギフトカードを提供するというキャンペーンを展開して話題になった。この時、JCペニーは、投稿するビデオに正直な感想を述べることを奨励したとして、好感を持たれるようになったと言われている。また、アメリカンイーグルも、フェイスブックページやツイッターで定期的にハウルビデオの提供を呼び掛けているブランドとして有名である。
■ Haul Video for JC Penny
■ Clothing Haul!-American Eagle and Urban Outfitters
ハウルビデオは、ブランド側がコントロールできないだけに、かなり大きなリスクを孕んでいることも事実である。全ての消費者が、ブランド側が望む好意的なコメントを発言してくれるとは限らないからだ。ある意味、誹謗・中傷も覚悟の上で取り組む必要がある。一方で、成功した場合の効果は絶大である。自社ブランドのファンの発言ほど、信頼のおけるメッセージは他にない。
【3】 今回のまとめ
ハウルビデオは、果たしてソーシャルコマースのキラーコンテンツとなり得るのだろうか。やり方次第ではあるが、キラーコンテンツになり得る可能性は十分あると考えられる。そもそも、ソーシャルコマースは、自社ブランドのファンに対して特別なオプションを提供しながら信頼関係を育んで行くことが目的である。ファンとのコミュニケーションなしでソーシャルコマースの成功などあり得ない。
ハウルビデオは、ファンとのコミュニケーションに最適である。ファンの買い物エクスペリエンスをビデオで提供してもらうことほど、信頼関係を構築する上で効果的なことはない。ファンは、好きなブランドのことを誰かに教えたくてしかたがないのである。そして、その方法もテキストや写真では物足りない。ブランドに対する感情をストレートに伝えることができるビデオでないと意味がないのである。
ハウルビデオを提供する権利を自社ブランドのファンに限定することで、前述したリスクもだいぶ軽減できる。そういう意味では、ハウルビデオは、まさにソーシャルコマースのためにあるコンテンツだと言っても過言ではないだろう。
ただ、全てのブランドが、ハウルビデオを導入して成功を収めることができるわけではない。ティーン・エイジャーのファンが必要だ。ティーン・エイジャーのファンがいるブランドは今すぐ始めた方がいい。ファンが自ら作成してくれるビデオは、最強のコンテンツになるのだから。
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