米国小売業界におけるイーコマースビデオの現状。ザッポスだけじゃない、73%のECサイトが商品動画を活用
前回の記事で、ザッポスとマイハビット両ECサイトにおける、イーコマースビデオの活用事例について詳しく紹介したが、米国の小売業界全体で見ればホンの一握りに過ぎない。日本国内でイーコマースビデオを本格的に活用しているECサイトがほとんどないと言って等しいのに比べ、米国では、イーコマースビデオを本格的に活用しているECサイトは珍しくない。今回は、ここ数日かけて米国の小売業界におけるイーコマースビデオの現状について調査した結果を、できるだけ詳しくレポートしたいと思う。
【1】 米国の小売事業者の73%が自社のECサイト上で動画を配信
まず、ECサイト上で動画を配信している小売事業者が米国にどれくらいいるのか調べてみた。eMarketerから調査結果が発表されており、それによれば、2010年の第4四半期時点で、小売事業者全体の73%にあたる企業がECサイト上で動画を活用しているということだ。また、対前年同期比で見ると18%も増えていると言う。
※ eMarketer ⇒ http://www.emarketer.com/
では、この73%を占める米国の小売事業者は、どれくらいの量の動画をECサイト上で配信しているのだろうか。SundaySkyが発表した「イーコマースビデオの現状/2011年第1四半期」によれば、ECサイト上で1,000本以上の動画を配信している小売事業者は、全体の32%(対前年同比10%増)もいる。この数字から、米国の小売業界において、イーコマースビデオが急速に普及していることをうかがい知ることができる。
ECサイト上に動画を1,000本用意してあるということは、動画を探すのにそれほど苦労しなくてもすむということだ。また、ECサイトを訪れた購買者に対するアピールにもなる。この数字だけを見ても、米国と日本の小売業界におけるイーコマースビデオに対する取組み方の違いがわかる。
次に、ECサイト上で配信している動画の本数が多い米国の小売事業者TOP10を表にまとめてみた。1位はオーバーストック社で、なんと95,000本もECサイト上で動画を配信しているというから凄い。2位はアマゾンで、72,635本。尚、このアマゾンの数字にザッポスの数字は含まれていないということだ。ザッポスも含めると、文句なしにアマゾンが1位ということになるだろう。3位と4位には、テレビショッピングチャンネルの大手であるHSNとQVCが、29,620本と17,687本でランキング入りしている。そして、5位が昨年の5月、楽天に買収されたことで日本でもその名が知られることとなったバイ・ドット・コムで、11,198本。ここまでが、1万本以上の動画を配信している小売事業者になる。
こうして数字を見るだけでも、米国の小売事業者がいかに本格的にイーコマースビデオに取り組んでいるかがわかる。このTOP10にランキングされた小売事業は、ここ直近3ヶ月の間に、平均2,500~3,600本の動画を追加で配信しているというデータも公開されていることから、しばらくの間は全体の配信本数も増え続ける一方だと思われる。
下の表の一番右の項目”業界ランク”に注目してほしい。これは、米国のINTERNET RETAILERが毎年発表している、”小売事業者TOP500”のランクだ。業界ランキングのTOP10で動画配信本数のTOP10にもランキング入りしている事業者は、2位のアマゾンのみ。つまり、必ずしも業界トップの小売事業者だけがイーコマースビデオを積極的に活用しているわけではないということになる。米国の小売業界におけるイーコマースビデオの普及が、一部の大企業だけではなく、業界全体に浸透していると考えていいだろう。
【2】 最も効果的にYouTubeを活用している小売事業者はナイキ
次に、自社のECサイトではなく、YouTubeに動画を公開している小売事業者についてもまとめてみた。表の左側が、公開している動画の本数が多い小売事業者TOP10、右側が視聴回数の多い小売事業者TOP10だ。
1位は、自社のECサイト上での配信本数ランキングで3位だったHSNで、79,034本もYouTubeに公開している。HSNは、自社のECサイト上でも3万本配信しているので、合わせて11万本も商品動画を配信していることになる。ただ、2位以下の配信本数を見てもらえればわかる通り、HSN以外は配信本数が急激に減ってしまう。HSN同様テレビショッピングサイトを運営しているQVCにいたっては、ECサイト上で1万7千本以上配信しているが、YouTubeでは1,200本と桁が違っている。
また、1位のHSNはパフォーマンスの悪さが弱冠気になる。8万本近くも配信していながら、視聴回数は4,300万ビューで3位だ。視聴回数1位のナイキが、HSNの70分の1にあたる1,000本しか配信していないにもかかわらず、視聴回数では約3倍となる1億4千6百万ビューも記録している。ナイキ以外にも、YouTubeへの配信本数ランキングではTOP10に顔を出していないアップルやビクトリアズ・シークレットが、HSNの半分くらいの視聴回数を記録していることから、HSNのパフォーマンスの悪さだけがやけに目立ってしまう結果となった。
配信本数を見てもらえればわかると思うが、イーコマースビデオに関して言えば、YouTubeよりも自社のECサイト上で配信する事業者の方が多いということになる。ザッポス、オーバーストック、アマゾン、バーンズ・アンド・ノーブルなどの有力な小売事業者が、YouTubeは使わず、自社のECサイトで配信する方法を選択している。
【3】 商品動画は平均2分間もサイトへの滞在時間を増やす効果がある
米国の小売事業者が、イーコマースビデオをこれほど積極的に活用するのには当然理由がある。それは、イーコマースビデオの効果を伝える数多くのレポートが報告されているからだ。
- オンラインゴルフ・ドット・コムの報告によれば、商品動画を用意してあるページの訪問者は、商品動画のないページの訪問者よりも85%購入する可能性が高くなる。※(Internet Retailer, April 2010)
- 商品動画を視聴した訪問者は、それ以外の訪問者に比べ、平均にして2分間も長くサイトに留まり、さらに64%購入する可能性が高くなる。※(Comscore, August 2010)
- シューライン・ドット・コムの報告によれば、商品動画を用意すると、オンライン販売のコンバージョンが44%増加する。※(Internet Retailer, January 2009)
- ザッポスの報告によれば、商品動画を用意すると、オンライン販売の売上が6%~30%上昇する。※(2009年12月のReelSEO)
- デルによれば、商品動画を用意することで、電話による問合せが5%減少する。またバージンモバイルによれば、商品動画を用意することで、2011年の電話による問合せが14%減少すると予想している。※(source The Australian)
【4】 今回のまとめ
ECサイト上で商品動画を配信して、コンバージョンを高めることに成功した米国の小売事業者と言えば、日本ではザッポスの名前しか耳にしない。ザッポスは、イーコマースビデオを活用した成功事例として、米国でももちろん注目度は高い。しかし、調べてみると、ザッポス以外にもイーコマースビデオを活用して業績を伸ばしている小売事業者がたくさんいる。次回以降は、ザッポス以外の小売事業者の事例を取り上げてレポートしたいと思う。
今回、米国の小売業界におけるイーコマースビデオの現状を調査してみてわかったこと。米国においてイーコマースビデオを活用する小売事業者は、今後も増え続ける一方だ。米国のECサイトにとって、イーコマースビデオはもはや必要不可欠の存在になっており、日本とは明らかにレベルが違っている。
しかし、日本の小売業界の中にも、イーコマースビデオを本格的に活用したECサイトを展開しようと考えている小売事業者がいるはずだ。このレポートが、少しでも本格的なイーコマースビデオの導入を検討している小売事業者の参考になることを願っている。
■ SundaySky ⇒ http://www.sundaysky.com/
■ TOP 500 GUIDE ⇒ http://www.internetretailer.com/top500/list/