YouTubeがWebMを正式採用で、WebM VS H.264戦争勃発か
ここ最近、YouTubeの動きが活発だ。ブログでも紹介したYouTube Liveのサービス開始に続き、今度は、動画のビデオ形式をすべてWebM形式に変換することを発表した。今後、ユーザが新たにアップロードした動画は全てWebM形式に変換され、アップロードしている動画の約30%がすでに変換済みとのことだ。YouTubeが、従来まで採用していたビデオコーデックのH.264を捨てて、WebM形式に対応した背景には何があるのか、そして今回のYouTubeのWebM採用は企業やユーザにどんな影響を及ぼすのか、簡単に整理してみることにした。
今回発表されたYouTubeのWebM形式採用は、業界筋の間では時間の問題だと見られていた。なぜなら、今年1月14日にGoogleが、Chromium Blog内で、今後H.264ビデオコーデックをサポートしない方針であることを宣言していたからだ。また、GoogleはH.264ビデオコーデックをサポートしない理由として、「自分たちの目的なオープンなイノベーションを実現させることにあり、そのためにはH.264へのサポートを終了し、開発リソースはすべてオープンなビデオコーデック技術に集中させることになる」と語っている。ただし、この1月の時点では、H.264をサポートしないことについては明言しているが、WebM形式を採用するとは明言していなかった。
そして、それから3ヶ月ほどしての正式発表。予想されていたとはいえ、今回のYouTubeのWebM方式全面採用の発表は大きな反響を呼んでいる。では、GoogleがYouTubeのビデオ形式にWebMを採用した背景は何か。一番の目的は、WebMに対応しているブラウザGoogle Chromeのシェア拡大ではないだろうか。WebM形式を採用したYouTubeを一番快適に楽しむことができるブラウザGoogle Chrome、これをセールスポイントに、Googleは一気にGoogle Chromeのシェア拡大を狙っていることは間違いない。
では、ここ数ヶ月の間に、WebM形式がビデオ形式のデファクトスタンダードの座を完全に射止めてしまうのだろうか。いろんな意見や憶測が飛び交っているが、そう簡単にことは進まないというのが私の考えだ。なぜなら、マイクロソフトとアップルコンピュータが、WebMではなくもう一方のH.264形式を支持しているからである。一時はビデオ形式の大本命と見られていたH.264が、そう簡単にWebM形式にデファクトスタンダードの座を明け渡すとは考えにくい。
では、そもそもH.264とWebMにはどんな特長・違いがあるのだろうか。簡単に整理してみたので、以下の図を参照してみてほしい。
両者の一番の違いは、H.264がライセンスが必要なのに対し、WebMはオープンソースのためライセンフリーだということだ。しかし、この点に関しても、昨年の夏にH.264のライセンスを管理しているMPEG-LAという団体が、インターネットを利用して動画配信を行う場合に限り、ライセンスフィーを永久無料化すると発表している。また、WebM形式に使われているビデオコーデックのVP8が実はH.264の技術が応用されているという疑いがあったり、不透明な部分が多い。このような事情もあって、有料・無料の違いは今となってはほとんどないと思っていいだろう。
次は、両陣営への支持を表明しているブラウザ。WebMへの対応を表明しているブラウザは、Google Chrome、Firefox、Opera。一方、H.264への対応を表明しているのは、MicrosoftのInternet Explorer、Safariである。Google Chrome、Firefox、Operaであれば、問題なくWebM形式の動画を再生することができるが、MicrosoftのInternet Explorer(IE)は、拡張機能をプラグインとして追加しないと、WebM形式の動画を再生することはできない。これは、Internet Explorer(IE)ユーザは、YouTubeで動画を視聴する目的のためだけに、Google Chromeをインストールしておく必要があるということを意味している。
今後、WebMがビデオ形式におけるデファクトスタンダードの座につくことができるかどうかは、マイクロソフトとアップルの支持を得られるかどうかにかかっている。ブラウザのデファクトスタンダードは、企業内利用に限って言えば相変わらずInternet Explorer(IE)である。また、大企業になればなるほど、まだIE6を利用している企業が意外なほど多い。大企業が、YouTubeを視聴するためにGoogle Chromeを採用するなんてことは、とてもじゃないが考えられない。マイクロシフトの支持を取りつけ、Internet Explorer(IE)がWebMを採用することが必要になってくる。
iOSが搭載されているiPhoneとiPadの存在も大きい。特にiPadはタブレットPCの本命と見られており、動画再生用の端末として無視することができない存在になっている。PCからスマートフォンやタブレットPCに人気が移っていることから、早急にSafariがWebMを採用するよう指示を取り付けておく必要がある。
以上のことから、簡単にWebMがビデオ形式のデファクトスタンダードの座につくとは考えにくいというのが正直な感想である。ただ、一つだけ望みたいのは、ユーザの利便性を一番に考えてほしいということだ。