「推しの子」ユーチューバーMEMちょから学んだ、入れ歯修理のプロの仕事
杉並区、西荻窪で、入れ歯修理を数多く手がける
いとう歯科医院の伊藤高史です。
「番組内での言動について炎上中の未成年女優が自〇未遂」
恋愛をテーマにしたバラエティ番組「恋愛リアリティショー」で事件が起きる。
女優の文字通り生命の危機と番組存続の危機。
そんな世論をひっくり返す策を講じるのは出演者の役者、アクア。
とはいえ炎上の勢いは凄まじい。
果たして上手くいくのだろうか。
私も手に汗握りながら読み進めていました。
双子の役者と歌手が繰り広げる芸能界の物語。
映画にもなり大ヒットしたマンガ「推しの子」の話です。
(赤阪アカ、横槍メンゴ著、集英社)
娘が好きなので私も読んでみました。
正月に吉祥寺で映画も観ました。
世論をひっくり返す策とは、出演者の目線での動画作製を作ることで炎上した女優のイメージを変革する試み。
アクアが相談したのは出演者のユーチューバーMEMちょ。
分の悪い賭けと思いきや、MEMちょは目を輝かせて言う。
「今のこの状況って、
広告代理店風に言うと
『能動視聴者が多く
強いインプレッションが期待出来る状況』
ってやつなの」
くわしくその根拠を分かりやすく説明していました。
仮に私が同じ状況に追い込まれたら足がすくんで何も出来ないでしょう。
ー 保険治療で入れ歯調整できます ー
しかしMEMちょは勝てる勝負と見込む。
他にも出演者のミュージシャンが泣かせる曲を作りファッションモデルがカメラ映えするシーンを演出。
みんなで協力した策は大成功。
このような炎上に完全な解決はないものの女優は復帰し番組も人気が跳ね上がった。
そんなMEMちょに強く心惹かれた点があります。
それは逆境を逆手にとって自分の勝ちパターンへと持っていく、プロとしての技術と思考です。
自分は「保険治療の入れ歯修理」を数多く手がける歯科医師です。
・入れ歯のピンク色のボディ(床)が割れている
・部分入れ歯の金属バネが壊れて無くなっている
・残っている歯がグラグラ
・まともに噛んでいる歯がない、すれ違い咬合
・中途半端な位置にインプラントが屹立している
それらを全て含んだ難症例。
これまで一般的な歯科医院では断られる逆境のかたまりのような症例をひっくり返して、入れ歯を使える、噛めるようにしてきました。
なぜそんなことができたかというと、部分入れ歯を残っている歯に引っかけて入れ歯を口の中に維持する金属バネ(クラスプ)を歯科医師が自分で作れるからです。
ー 壊れた入れ歯も保険治療で修理できます ー
動画を自分で投稿すると言うアクアにMEMちょが問う。
「何曜日の何時にアップするのが一番RT稼げて
何文字程度の投稿が一番インプレッション高いか知ってるの?」
答えられないアクアにMEMちょは
「私はネット上の
マーケティングと
セルフプロモーションで
ここまで来たんだよぉ?」
「こう見えて
バズらせのプロ
なんだけどぉ?」
と自信満々の表情でたたみかける。
確かに難しい入れ歯修理の症例を他の歯科医師が手がけるとしたら私も問うでしょう。
・クラスプは何を使うの?
・クラスプはどの歯に引っかけるの?
・補強の金属線は、どこに入れるの?
・咬み合わせは、どう作るの?
・人工歯の選択は、どうするの?
・修理後の治療方針は?
・入れ歯は新しく作るの?
・歯科専用の入れ歯安定材ティッシュコンディショナーは、どのタイミングで使うの?
やみくもに修理しても上手くいきません。
様々な作業、治療手段に勘どころと根拠があります。
たとえば巷に出ない情報として
「インプラントに部分入れ歯のクラスプを引っかけたい時は、どうするか?」
前提として口の中に歯、入れ歯、インプラントが混在している、というのは良くない状態です。
それぞれが噛んだときに歯グキに沈む量(被圧変位量)が異なるからです。
どこかにそのしわ寄せが行きます。
しかし当院にいらした時には
・すでにインプラントが埋まっている
・インプラントを埋めた歯科医院には様々な理由から戻れない
・今後は保険治療でお願いしたい
そうなると歯がない部分には保険治療の入れ歯しか選択肢がありません。
インプラントに保険治療の入れ歯でクラスプを引っかけるのは、医療機関が保険者に提出する診療報酬明細書(レセプト)に摘要語句を入れることで許可されています。
インプラントにクラスプを引っかける時に気をつけるのはインプラント特有の「不自然な歯の長さ」です。
薄く小さくなった歯グキに無理やりインプラントを埋め込んで、反対側の歯と噛むまで無理やり歯の長さを伸ばしているからです。
普通の歯の倍の長さになっていることも珍しくありません。
だからその長すぎる部分を模型上で、入れ歯用のプラスチックで埋めてしまいます。
その上で通常の長さになったインプラントに金属バネを作ると上手くいきます。
口の中に合わせる時は埋めたプラスチックを削って適合させていきます。
そのようなノウハウは色々とあります。
おそらくユーチューブの動画もサムネイル画像、タイトル、文章の作り方、投稿の曜日、時間、頻度など細かいノウハウがあるのでしょう。
ちなみに私もユーチューブで入れ歯修理の動画を作ったことがありますが全くバズることはありませんでした。
今はもう削除しています。
ユーチューブも、プロとして活かすには勘どころと根拠があるはずです。
普通なら逃げ出してしまうような厳しい状況だからこそ私の出番。
こうして世論を相手に堂々と戦うMEMちょたちに私はマンガを読みながら拍手を送っていました。
「私はクラスプ屈曲と
歯科専用の入れ歯安定材
ティッシュコンディショナーで
ここまで来たんだよぉ?」
「こう見えて
入れ歯修理のプロ
なんだけどぉ?」
私もドヤ顔で言ってみたいセリフです。
参考文献:「推しの子3巻」赤坂アカ、横槍メンゴ著、集英社
ー インプラントと入れ歯が混在していると何が悪いの? ー
口の中にインプラントと入れ歯が混在していると以下のような問題が発生することがあります。
1. 口腔内のバランスと咬合の問題:
インプラントと入れ歯はそれぞれ異なる方法で固定されています。
インプラントは骨と直接結合しています。
だから噛んだ時に基本的には「動かない」とされています。
いっぽう入れ歯は粘膜や残存歯に依存します。
このため咬み合わせが不均等になりやすいです。
インプラントは動かないのに入れ歯や歯は動くということです。
そのせいで食事の際に片側しか使えない、あるいは特定の場所だけに力が集中するといった問題が生じます。
これは長期的に顎関節症や他の歯の過剰な摩耗を引き起こす可能性があります。
また近ごろはインプラントを支えるアゴの骨が吸収してインプラントがグラグラするインプラント周囲炎の害が取りざたされてきました。
また骨粗しょう症の治療薬BP製剤などを服用している方に対して、リスクなどお構いなくインプラントを入れたせいで起こるインプラント周囲の薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)すなわちインプラント周囲の骨が腐ったようになってくる病気も起こっています。
2. 衛生的管理の難しさ:
インプラントは生体材料でできているため歯垢や細菌が付着しやすいです。
専門の器具で完璧な清掃が要求されます。
さらにそこに部分入れ歯が存在する場合は清掃が一層難しくなることは容易に想像つきます。
入れ歯の構造によっては歯ブラシやデンタルフロスが届きにくい部分が増えるため歯周病やインプラント周囲炎のリスクが高まります。
入れ歯とインプラントが混在していると衛生管理が非常に複雑になり口の中の健康を維持するのが難しくなります。
3. メンテナンスと修理の複雑さ:
インプラントと入れ歯はそれぞれ異なるメンテナンスが必要です。
インプラントは定期的なチェックと専門的なケアが必要です。
入れ歯は定期的な調整や壊れた際の迅速な修理が必要になることがあります。
これらが混在していると治療計画やメンテナンススケジュールが複雑になり歯科医師や患者の負担が増大します。
結局は
「インプラントのメンテナンスなどやってない」
ということになります。
ー 総入れ歯を作る費用は保険治療3割負担の方で総額約2万円 ー
4. 審美的な問題:
インプラントと入れ歯の色や形状が一致しないと、見た目に不自然さが出ることがあります。
口元がよく見えるシーン(笑った時など)では審美的な違和感が気になる場合があります。
インプラントなどを行なう患者さんは見た目もこだわると思われるので保険治療の金属バネを引っかけるなど言語道断と思うのですが他に選択の余地がないです。
それでも、インプラントで歯がない、食事もまともに出来ない。
それよりは、入れ歯でまともに食べられるようになった!
という方がうれしいものではないでしょうか。
もちろん全部の歯をインプラントにして成功すれば良いですがトラブルも多いし何百万円かかるか検討つきません。
5. 費用と時間:
入れ歯とインプラントの混在する治療は個々の治療法に比べて費用が高くなることがあります。
さらに治療計画の立案や実際の治療にかかる時間も増える可能性があります。
6. 治療の制約:
既存のインプラントがあるせいで新たな入れ歯の設計や調整に制限が出ることがあります。
逆に既にある入れ歯を考慮してインプラントを追加する場合も、適切な位置や数に制限が出ることがあります。
とはいえ入れ歯を考慮してインプラントを作るなどというシチュエーションはおそらくありません。
インプラントを埋めこむ先生は
「全部インプラントに!」
と息巻いているはずです。
これらの問題を考慮すると、インプラントと入れ歯の混在は、口腔の健康、機能性、そして審美性に影響を与える可能性があります。
近ごろは看板でデカデカと宣伝しているインプラントの歯科医院が多くなりました。
患者さんはデメリットもよく認識して、治療前に専門家と十分に相談し最適な治療法を選択する必要があると言えます。
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