■ 伝説を自らの手で切り捨ててしまったルイ・ヴィトン
30年前、私が大学生だった時代の話です。
押しも押されもせぬ一流ブランド「ルイ・ヴィトン」のバッグが売れに売れていたバブルの頃、ある伝説が広まりました。
当時からルイ・ヴィトンのバッグを持ったことはありませんがこの伝説は覚えています。
それは
「絶対に壊れない」
この伝説を知った私は、軽く予算オーバーだったものの、欲しくなりました。
しかし当のルイ・ヴィトンは苦労したそうです。
「絶対に壊れないと聞いていたのに」
「絶対に壊れないと思って使っていたのに」
と、壊れたらすぐに不満へつながってしまうからです。
しかしルイ・ヴィトンはこの評判をブランドの価値を高めるチャンスに変換しています。
「丈夫ではありますが使い続ければ壊れることもあります。でも修理をすることで、いつまでも使えます」
こうして1993年に世界に先駆けて店舗とは別に、大阪と東京にリペア専門のサービスセンターを設けて修理体制を充実させたのです。
ルイ・ヴィトンを日本のデパートに卸し、高級ブランドにふさわしいサービス体制を整えた伝説を描いた秦郷次郎氏の「私的ブランド論」を読みながら私は頭の芯が痺れるのを感じました。
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「ルイ・ヴィトンは他の会社と何が違うのか」と聞かれた著者の秦氏は「パッション(情熱)だ」と答えています。
「社員一人ひとりが持つ、商品に対する情熱、ブランドに対する情熱が違う」と断言。
ブランドの価値とは、物として良いのはもちろん、数々の伝説を生み出す人の情熱にあります。
たとえば歯科インプラントなどは数十万円から数百万円とルイ・ヴィトン並みの高額な商品です。
それなのにリペアサービスセンターのような体制がないのが私は腑に落ちません。
「歯科インプラントの修理専門」という看板を掲げた医院は調べた範囲では存在しませんでした。
専門ではありませんが、インプラントを修理した話は他院のホームページ上で散見されます。
私もインプラントに入れ歯のバネを引っかけて入れ歯を安定させる保険治療を行なうことがあります。
口の中に「歯」「入れ歯」「インプラント」とごちゃ混ぜになるのは良くないことがわかっています。
しかし適切な価格で歯並びを回復する治療法が他にないことも事実です。
私は施術しませんがインプラントを全否定するわけではありません。
他の歯科医で施術された揺れもなく使えるインプラントを遠慮なく使わせていただいています。
インプラントに金属のバネを引っかけるのは保険治療で普通にできるのですが形に少々の工夫が要ります。
最近はインプラントを入れている患者さんが増えているのでそうしたノウハウも確立してきました。
近年では他の服飾ブランドでも修理サービス体制を整えていることを売りにしている企業もあります。
歯科業界でもインプラントを修理する話がもっと広がって安心できるものになれば良いと思っています。
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バッグより遥かに厳しい条件の中に置かれている口の中ですから「歯」も「入れ歯」も「インプラント」も必ずいつか壊れます。
壊れること自体は仕方のないことです。
ルイ・ヴィトンでさえ「壊れます」とルイ・ヴィトン自身が認めているのです。
その上で「よいものは大切にして長く使い続けるという、古くからある日本文化のよさを生かしながら、どんな修理であっても、まずは修理する方向で考えます」と表明している姿勢に拍手喝采です。
当院は入れ歯の修理を数多く手がけています。
他の医科と同じく、まずは保険治療で行なうのが当然だと思っています。
私の治療が伝説となるかどうかは分かりませんが、ルイ・ヴィトンに負けないパッションを持って、これからも入れ歯修理に取り組んで参ります。
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と、ここまでルイ・ヴィトンの素晴らしさを紹介しておきながら言うのも恥ずかしいのですが、連休で遊びに来た親戚から聞いた話にビックリ仰天!
親戚は大学卒業記念にルイ・ヴィトンのボストンバッグを購入。
旅行や会合に、20年以上も修理しながら使っていました。
破れた部分には同じ皮の材料で継ぎを当て、ファスナーが壊れたら交換し、縫い目のほつれはきれいに縫い直し、それはそれは丁寧な仕事をしています。
ボストンバッグを横に修理の工程を滔々と語る親戚はいつも誇らしげで、ルイ・ヴィトンへのパッションを感じました。
ところが今年になって底が破れたので、いつものように銀座本店へ修理に持ち込んだところ、店員から想像もしないことを言われたのです。
「もう修理は辞めました」
それではどうすれば良いか尋ねたところ「新しい物を購入してください」とのこと。
検索してみると uassu のブログにも「修理できないルイ・ヴィトン」に修理ができなかった状況が詳しく紹介されています。
なんと、ルイ・ヴィトンはあの本に書いてあった伝説をきれいさっぱり捨て去ってしまったのです。
世知辛い世の中になってきましたね。
あまりにも冷たい対応にルイ・ヴィトンへのパッションをすっかり失ってしまった親戚は今もバッグを探して放浪中です。
しかし
・エルメス → 予算オーバー!
・ボッテガ・ヴェネタ → 予算オーバー!!
・クリスチャン・ルブタン → 予算オーバー!!!
まあ気長に探していただくしかありませんね。
ルイ・ヴィトンは修理を辞めてしまいましたが、いとう歯科医院は今も、そしてこれからも入れ歯の修理を続けていきます。
そのパッションは燃えさかっていますのでご安心ください。
※「私的ブランド論」:秦郷次郎著/日経ビジネス文庫
※「修理できないルイヴィトン」:uassu のブログ
──> https://ameblo.jp/uassu/entry-11890515444.html
西荻窪 いとう歯科医院 ホームページhttps://www.ireba-ito.com