ケータイ小説ブームの意味するところ(音楽との関連)
最近、携帯電話で一般の人が小説を書き、そこで盛り上がったものや出版社などの人が目をつけた小説が書籍化されてベストセラー化するような現象が注目されていますね。マスコミの取り上げ方は若干ブーム的な雰囲気もありますが、この状況の意味するところは非常に大きいと思っています。
ケータイ小説の流行から僕が考えるポイントは以下の3つです。
1.プロとアマチュアの境目が無くなってきていること
2.ネット上で盛り上がっているものを商品化するという流れ
3.携帯電話で無料で見れるのにパッケージ化された書籍が売れていること
これは小説に限っただけのものではありません。音楽やその他の分野でも同じようなことは起こってきているし、今後も加速していくと思っています。
ひとつひとつ解説したいと思います。
◆ポイント1.プロとアマチュアの境目が無くなってきていること
これまでの小説は、それを生業としているプロの小説家が書いたものが殆どだったと思います。もちろん、プロになる前は皆アマチュアなので、その過程にいるという人はいると思いますが、小説家を目指しているわけでもない一般の人が小説を書いて多くの人の目に触れるということはまずなかったことです。ところが、インターネットを通じて一般の人でも気軽に参加できるようになり、そして発表する場までもが与えられたというのがまず大きな状況の変化としてあります。元々小説を書くのにコストは自分の時間ぐらいしかかからないわけですが、インターネットによって、流通コスト、プロモーションコストが一気に下がることで、制作以外の全てのコストが一気に下がったと言えます。これは、ロングテールが形成されるセオリーそのものです。
もちろん、だからと言って小説家という職業が無くなるわけではなく、またプロとアマチュアの差が完全に無くなるわけではないのですが、プロの作品と一般の人の作品が混在する状況へは今後さらにシフトしていくだろうと思います。これは小説に限らず、ブログによって多数の評論家や記者が生まれていることも同じですし、音楽についても同じだと思います。音楽サイトには、レコード会社が運営しているプロミュージシャンの楽曲も売られていますが、monstar.fmを含む多数の音楽サイトでは色々な人が音楽をアップロードすることができ、サイトによっては一切の審査無しに掲載することができるところもあります。こういった流れは、制作コストの小さい分野からまずは広まっていくように思います。逆に言えば、資金力でクオリティに大きく差が出るような分野(例えば映画とか)ではアマチュアがプロの作品のように評価されるのはそう簡単ではないと思います。
◆ポイント2.ネット上で盛り上がっているものを商品化するという流れ
これはマーケティング的な観点からすると非常に大きな意味があると思います。従来、小説を書籍化して店頭に並ぶようにするには、出版社の担当者からの「面白そう」とか「売れそう」といった評価を権限のある人から得られることが必要であり、それでも店頭に並んで実際に販売されるまで、その作品が本当に売れるかの確信はないギャンブルのような要素が強くあったと思います。しかし携帯電話のように気楽にリアルタイムでどんどん作品を公開することのできる場があれば、未成熟の作品でも公開し、商品化する前に読者の反応を見ることができます。そして場合によっては後々の展開を読者の反応を見ながら変えたりもできますし、売り出すマーケッターの人達は、ネット上で人気のある話を書籍化すれば、ある程度売れることがわかっている作品だけを商品化することができることになります。
音楽の分野でもしばらく前から、欲しい人(予約注文)が何人集まれば商品化するといったやり方でCDの制作をするといった動きがあったり、メジャーのアーティストでも未完成の楽曲をとりあえずサイトに乗せて反応を見たりというケースが増えてきていると思います。
◆ポイント3.携帯電話で無料で見れるのにパッケージ化された書籍が売れていること
そして最後は、携帯電話で小説が見れるにも関わらず、書籍化されたパッケージとしての小説がベストセラーになる程売れているということです。携帯でも小説の中身は見れるわけですが、やはり本当に気に入った人は所有欲があり、それを満たすには物理的な本を購入したいと思う人が多いようです。また、携帯では見なかった人でも、携帯で話題になったということでどんな内容か見てみたいという好奇心に駆られるというパターンもあるでしょう。
これを音楽に置き換えた場合ですが、小説で言うところの「書籍」と携帯で見る「ケータイ小説」には利便性等に大きく差があるのに対し、音楽で言うところのCDと音楽配信では実際はそれほど音質に差がなくなってきてはいるので、音楽配信によってCDが一層売れるようになると言うほど短絡的にはいかないでしょう。しかし、少なくともライブといった代替不可能なものについては、インターネットでそのアーティストや楽曲の認知度が上がることで、確実に集客力が変わってくると思います。
というわけで、ケータイ小説のブームは、単なる一過性のブームというよりは、今後の音楽を含むアートの発展を占う上でも非常に重要な要素をたくさん含んだ1つの分野の例であると思っています。