明日をつくる気鋭の女性起業家たちに学ぶ、これからの時代を生き抜く14のヒント
連載「明日をつくる女性起業家」 (講談社・現代ビジネス)に本年二月掲載の「明日をつくる気鋭の女性起業家たちに学ぶ、これからの時代を生き抜く14のヒント」前後編の再掲です。以下に出てくる事例は、連載に詳しく書いてますので、そちらもご覧ください。
<前編>
これからが楽しみな素敵な女性起業家の方に経営コンサルタント・多摩大学客員教授の本荘が話をうかがう本連載の第二十三回は、これまでのまとめを二日連続前後編にわたりお届けする。
二年余り前にスタートした本連載では、22人の女性起業家を紹介してきた。事業そのものだけでなく、なぜこの人は今こういう挑戦をしているのか?という視点で、起業家個人について紐解くことを試みてきた。
前回、本連載に登場した三人の女性起業家に登壇いただいた12月頭に開催したイベントを全4回にわたりレポートしたが、これまでの内容の一部を総括するものとなった。さらに今回、筆者の視点を加えながら、22回の振り返りと、そこからの示唆を導きたい。
それぞれに個性があり、ひとくくりにすることは容易ではないが、輝いている女性起業家たちの個性や共通点から、これからの時代を生き抜くヒントを導き、お伝えしていきたい。
強い生命エネルギーを持つ
本連載のインタビューは楽しい刺激に溢れていた。話が面白いのだ。多様な個性はもちろん、これまでやってきたことや今やっていることに対する気持ちが力強く、筆者も話を聞いていて触発された。自由に生きるって素晴らしいとあらためて感じることの連続だった。
企業採用でどういう人材が欲しいかというと、よく「地頭がいい」と言われる。しかし、起業家に求められるのは、まず「生命エネルギー」だ。これは筆者の持論でもあり、本連載でも再三確認させられた。
生命エネルギーが弱くては、コレだ!と思っても、実現まで持っていくことは困難だ。ごちゃごちゃ言ったり考えてばかりでなく、行動を起こすには、エネルギーに満ちていなければならない。不確実性にあふれた新事業を、思わぬ障害を乗り越えて取り組み続けるには、生命エネルギーが不可欠なのだ。辛気臭い蕎麦屋に客は行かないというが、人、顧客、パートナーを惹きつけるには活気やオーラが鍵となる。
もっとも、やたら声が大きかったり、アグレッシブな態度の人のことを指しているわけではない。本連載で取り上げた起業家のなかには、幼い頃は無口だったという方もいた。ちょっと前まで、女性起業家というと、どこかおっかないイメージもあったが、そんなことはない。口下手でも、生命エネルギーが溢れる人はいるものだ。
しかし、社会は自分の生命エネルギーを下げるような力が様々な形で働く。本連載に登場の女性起業家は、そういった力を跳ね飛ばしたり、自らを育んだり、常に挑んでアクセルを踏んだり、人にインスピレーションを受けたりして、結果として生命エネルギーを増すような努力をしている。
前例がないものに挑む
取組む事業のテーマは多様、言い換えれば、自由だ。
ベンチャーというと、まず人がやらないことをやるという印象を持っている人は多いだろう。
人が行かないところに行くから面白いと言うインフォブリッジグループの繁田奈歩さんは、インド市場を紐解くサービスを提供し、企業への案内人を務める。Lalitpurの向田麻衣さんは、前例がなく他人がやらないことでも、意味があると実感したネパールで化粧品をつくる事業に挑んでいる。
そして、「自分の問題を解決するものがなのなら、作ってしまえ!」と特許を取得しピアスキャッチを開発したChrysmelaの菊永英里さんの創業エピソードはビジネスを起こす上で次のような重要な示唆に富んでいる。
まず、身近な問題をひたすら見つめると、解決策が見えてくる。問題はゴロゴロ転がっているが、それをとらえて、いかに深掘りするかが重要だ。
次に、アイデアだけでは無価値であり、ビジネスの機会に練り上げねばならない。外れないピアスキャッチは、発明と生産による具現化の組み合わせで実現された。
三つ目は、商品開発プロセスだ。市場との対話を重ね、プロトタイプ化して支援者やパートナー候補にぶつける手法は、IDEOはじめ商品開発のプロのやり方とも共通している。
前人未到でも道を切り開くことは可能なのだ。こうしたチャレンジは大切にしたいものだ。
素人が挑戦する
一方で、その分野の事業者が多数いる中で、未経験の素人が切り込んでいる例がいくつもある。
求めるものがないのなら自分でつくろう、とデザイン性が高い新しい子供用のブラジャーを開発したFANCTIONの本間麻衣さん。ユーザーの視点で、働く女性向けの身体が楽で美しいワンピースをつくるmaojian worksの毛見純子さん。
普通ならあきらめたり、手に入るもので済ますところを、自らとことん追求した。もとは素人ゆえ徹底的にユーザーの視点でつくった。経験がなかったから、常識にとらわれない自由な発想ができたのだ。
新たな市場でも、素人が先駆者になれる。食品・飲料の"お取り寄せ"をテーマにした日本最大級の口コミ・サイトを運営するアイランドの粟飯原理咲さんは、NTT時代にITスキルでは落ちこぼれでも、素人から消費者マーケティングの第一人者になれることを示した。そして、他がまだ言わない頃に、絶対流行る、これやりたい!と「おとりよせネット」を事業化した。
また、起業は、素朴な疑問がきっかけになることが多い。「何か変だな」という違和感から、新たな解決策が生まれる。地域も日本も元気にする青森の農産物販売ベンチャーノースビレッジ農園代表の栗谷川柳子さんは、疑問を抱き、自分が思った通りの農産物販売を目指した。各分野の専門家がつくる商品や事業は、しばしば市場とズレ、満たされないニーズが手付かずなままだ。そこに、なぜ、なぜ、なぜ、と疑問を持つことが創造の源泉となる。
徹底的にやる
好きだからと、迷うことなくあられ会社つ・い・つ・いを興した遠藤貴子さん。最高のあられを、それも国際的に通用する商品を追求した。遠藤さんは、品質のために小分けにして窒素充填のパッケージにしようと、いくつもの工場から相手にされずとも妥協せず、商品づくりに一年以上かけてベストの品質を実現した。
職人の技術でひとつ4,500円の食器など高価格の子供用商品をつくる和えるの矢島里佳さん。最高の商品を追い求め、価格のために品質を妥協する気などみじんもない。
常識を超え、商品を開発する彼女たちが、あたかも当然のように、徹底的に深堀する姿が印象的だ。
それぞれ個性が明確な商品だが、ベンチャーには「らしさ」が問われる。例えば、白木夏子さんのエシカルジュエリーHASUNAは、ブランドも、経営も「らしさ」が体現されている。矢島さんの「和える」もそうだ。他の真似では、いずれアイデンティティーの弱さが露呈し、揺らいでしまう。ベンチャーは「らしさ」を徹底的に実践するのが大切だ。
ピンときたらスグやる
「あ、はい、私やります」...ノースビレッジ農園の栗谷川さんは、八戸大学起業家養成講座を見学にいったその場で、先生が幹事役を募るとスグ手をあげた。ピンときたらすぐに行動する。なにかを感じて、すぐに行動することが彼女たちの常であり、結果をもたらしている。
食べ物由来の化粧品を開発するANECCA代表の北川幸奈さんは、「これは面白い」と思うと、スグに実行に移している。カラー・マーケティングというテーマを追求して、米国に渡ったのが北川さんの大きな転機となった。
チャンスに出会って、インフォブリッジグループの繁田奈歩さんは「これもらい!」、IT関連製品などの新商品開発に伴う検証サービスを提供する株式会社ヴェスの久田真紀子さんは「じゃあやってみよう」と動いた。
立ち寄っただけのベトナムに開発拠点を設けて住むことにしたCinnamon平野未来さん。気がついたら行動している姿には、驚くばかりだ。
運も作用しているが、運を呼び込む才能とは行動だと、あらためて知らしめてくれる。振らないバットにボールは当たらない。迷わぬ即答と、めげないタフさが、これに役立っている。
「最近勝ち組とか負け組みとか流行っているけど、スタート切っているかどうかが僕は大事だと思うけどね。」とはシンガー矢沢永吉の言葉だが、コレだと決めると突っ走るというか、気がついたら行動している女性起業家の姿に触発される読者の方は少なくないだろう。
決定的瞬間を活かす
HASUNAの白木夏子さんは、短大の講演会で、フォトジャーナリストの桃井和馬さんの話を聞き、環境破壊や貧困などの現場を切り取った数々の写真を見て、「あ、これだ」と思って、将来は国際協力をやろうと心に決めた。
ネパールで支援活動をする高津亮平氏の講演に、雷に打たれたようなショックを受けたLalitpurの向田麻衣さん。話を聞くだけでは終わらずに、ネパール現地に行って体験した。現場で実際に見聞きしたものは迫力をもって人を動かす。既成の概念ややり方にとらわれない素直な向田さんは、この気づきにまっすぐに取り組んだ。
映画マーケティングのデータ収集・分析とアドバイスを提供するGEM Partners梅津文さんは米国留学中に自分は何がしたいのかを考えるようになったという。友人と行ったディズニーランドで、「そうだ、エンターテインメントだ」とスイッチが入った。この感動は信じられる、この瞬間を創り出すために人生を捧げる、と思いを強くした。
3人は、moment of truth = 決定的瞬間を引き寄せた。何かしたいという生命エネルギーとともに、心をプレーン(まっさら)にしていたからこそ、素直に「いてもたってもいられない」スイッチが入ったのだ。閉じこもっていないで新たなものに触れたり体験をして、自分と対話して心の声を聞くことで、その決定的瞬間を引き寄せる。
また、そこで立ち止まらず、気づきを事業コンセプトへと発展させている。白木さんは国際協力をエシカルジュエリーに、向田さんはネパールとの出会いから紆余曲折して化粧品事業への進んだ。梅津さんはエンターテインメントの感動から、映画マーケティングに取り組んでいる。
熱中する!
スポーツ選手が「ゾーンに入った」と言ったり、研究者が寝食を忘れたり、というフローあるいはエンゲージメントとも言われる熱中状態で、人は幸福を感じ、パフォーマンスも上がるという。本連載に登場の女性起業家はみな、フローになりやすく、集中して打ち込むことができている。
iemo株式会社CEO村田マリさんは漢詩を白文で読んでいたという。興味あるテーマに徹底的に打ち込むのは、小さい時からの性分のようだ。彼女たちの生活ぶりに、あっけにとられるのは筆者だけではないだろう。本連載に登場の女性起業家たちはフロー状態に深く入りやすい。
フローに入るから、どんな状況にあってもなんとかしてしまう。これがあるから、レジリアンスも強くなる。そして生命エネルギーにつながる大切なことだ。
<後編>
これをやるんだ!という起業にフォーカスした前編に続き、後編は女性起業家の生き方を中心にエッセンスをあぶり出す。起業するまでの生き方、起業後の取り組みなどは読者のみなさんにとっても刺激になるだろう。ご自身を振り返り、これからのヒントにしていただけたら幸いである。
まず行動し、仮説を試す
何がしたいか分からないという人がよくいるが、本連載に登場した女性起業家はその対極にいる。
アイランドの粟飯原理咲さんは、小学生のときに行った筑波万博で未来都市のイメージを抱き、筑波大学に進んだが、「まるでそうじゃなかった」となる。maojian works毛見純子さんは、メディアを志望してベネッセに就職したが、「入ってみると教育の会社で、あまりメディアじゃなかった」という。しかし、これが結果オーライとなる。
GEM Partnersの梅津文さんは、警察庁に入って、いまは映画のマーケティングをやっている。プレミア・リンクス関谷英里子さんの場合は、転職もベンチャーもこれだと決めて、そこに進む。しかしその後、やってみてから転換する、というパターンだ。そしていま、関谷さんはスタンフォード大学に留学中だ。
あたかも、人生そのものがスタートアップ=新興企業のやり方のようだ。やれば失敗するかもしれないが、やらないままでは後悔しかねない。自分の人生、信じるようにトライすればよいのだ。
しかし、一つのテーマに盲信してはいけない。リーン・スタートアップという事業創造の手法があるが、すぐ試してみて軌道修正やfail fast(早くあきらめる)するのだ。和えるの矢島里佳さんは、OB・OG訪問でマスコミ志望だった就職先の仮説を検証したことで、早期の転換ができた。Cinnamonの平野未来さんは、留学しようと早く大学の単位をとり、MITの授業に潜り込んだが、期待はずれで結局留学しなかった。とにかく行動して仮説を試すことだ。やったことがハズレでも、すぐに次のテーマは見つけられる。
失敗もあるが、前に進むことが不可欠だ。先のことはわからないのだから、無理に探したり追い求めたりはせず、そのとき信じたものに全力投球する。遠い先までキャリアを設計するというアプローチとは異なる、これからの時代の新しい生き方ではなかろうか。
セレンディピティ(偶然から得る力)を持つ
人生はセレンディピティ(偶然から得る力)が大切という。
Empactのサラグリーンさんは、特に理由もなく、インターンでもらったお金で航空券を買い、アフリカのウガンダに行った。そしてウガンダで、「私も何かをしなければ」と思い立ち、アントレプレナーシップの啓蒙活動を始めた。
ジャパントラディショナルカルチャーラボの神森真理子さんは、大企業からベンチャーへの転職で、かつてないカルチャーショックを受けたが、結局は経営者のそばで仕事をして多くを学ぶことが出来た。毛見さんは、東北大震災でコンサルティングの仕事がなくなって、新しいことをやろうとジャージーワンピースを商品化した。本連載に登場した女性起業家のほとんどが、偶然からひらめきやスキル、人のつながりなどを得て、事業につなげている。
一見関係のないようなことでも、後でつながってくるという人のキャリアの面白さ、不思議さがある。人生に無駄はなく、すべてに意味があるという。偶然の機会を生かすも殺すも、それはその人次第なのだ。オープンマインドで体験やインスピレーションを自分のものとして活かすことだ。
こうした生き方は、「計画的偶発性(Planned Happenstance)理論」というスタンフォード大学のJ.D.クランボルツ教授が提唱する新たなキャリアの考え方にとても近い。そのためには、偶然を生かす力が必要であり、クランボルツ教授は、好奇心、持続性、楽観性、柔軟性、リスクテイキングの5つが重要と指摘する。これらは本連載に登場する女性起業家たちの生き方と符合する。読者のみなさんも、自分のキャリアを考えるうえで、参考にされてはいかがだろう。
袖振り合うも縁とする
筆者は、起業にあたりパートナー探しで壁にぶつかる例をあまた見てきた。日本にないファッション性が高い子供用下着を開発したFANCTION本間麻衣さんのタレント特定力と手繰り寄せ力はすごい。世界のどこにいようが、これだという人をみつけて、たぐりよせてしまう。前職の経験と類まれなる直観で、人でも国やイベントでもこれだというものを見つけ、そこから自分のものにしてしまう様は印象的だ。
つ・い・つ・いの遠藤貴子さんやChrysmelaの菊永英里さんは、業界の非常識商品に先入観なきパートナーを得ることに苦労した。特に、いままでなかった商品は、説明しないと分からない。あるいは、従来のやり方を変えることが求められる。これを乗り越えるには、よき理解者=パートナーが肝要だ。
これだけではない。リンクトイン創業者リードホフマン著『スタートアップ』に、思わぬ人との巡りあわせと、後でそういう人々に助けられるという話があるが、思いを実現するために、様々な縁を築いて活かすしなやかさが大切だ。
柳生家家訓に、「小才は、縁に会いて縁に気づかず。中才は、縁に気づいて縁を生かさず。大才は、袖振りおうた縁をも生かす。」という言葉があるが、まさにそういうことを言っている。
しかし、独りよがりや猪突猛進ではだめだ。共に進む人たちや応援団を得ることが大切であり、顧客の支持を得ることが基本だ。
人を惹きつけ、人が寄ってくるように努力し、コミュニケーションをするのは、エコシステム(生態系)戦略というと大仰かもしれないが、大切なことだ。身近な人に刺激をもらい、それがネガティブなものでも、力に換えヒントとする。懸命な姿と事業の前進に、周りも助けたくなり、応援したくなる。育まれ上手になりたいものだ。
海外で触発される
22人の女性起業家で海外に影響を受けた方は、(4人の米国起業家を除く)18人のうち、11人に上る。
海外に居住3人(繁田・村田・平野)、海外で育った2人(神森・関谷)、留学6人(遠藤、栗谷川、白木、梅津、北川、向田 [訪問客と視察])。遠藤さんはフランス人の夫からの影響も強い。なお、これ以外のうち菊永、本間、矢島さんは、事業で海外と接点がある。
神森さん、関谷さんが、海外で育った過程でいかに影響を受けたかは、記事に生々しく表した。そうでなくとも、留学が大きな転機になった例が多い。
ときとして、人には思わぬ転機が訪れるものだ。ノースビレッジ農園の栗谷川柳子さんは、豪州留学で大変身した。オーストラリアへの留学で見聞きしたもの、感じたものが、栗谷川さんを揺さぶり、生まれ変わるほどの劇的な 変化をもたらした。これを機に、栗谷川さんは自分らしさを持つことができた。
サラグリーンさんも、ウガンダ旅行が転機になった。
梅津さんやANECCA北川幸奈さんのように、年単位の学位留学では、さらに転機を得る確率を上げることができるだろう。
みなさんも、海外と接することで、自分らしさや人生のテーマに気づくことができるかもしれない。
レジリアンス(逆境力)がある
数年前からレジリアンス(resilience=逆境力、再起力)という言葉をよく目にするようになったが、これは生きる上で大切なキーワードの一つだ。
本連載に出た多くの女性起業家は、逆境を乗り越えていまがある。小さい時の神森さんは海外で辛い想いをした。海外組は、いずれも逆境を乗り越えるトレーニングを体験し、これが血肉になっている。
そして彼女たちは、社会人になって、あるいは事業で、例外なくチャレンジの連続を経ている。それを突破し、跳ね返していまに至っているのだ。
ヴェスの久田真紀子さんは、リーマンショック後の大ピンチを、チャンスに転じて危機を会社の発展に持っていった。ピンチには、一度しゃがんでジャンプするとよいと言われているが、その実践は容易ではない。レジリアンスが足りなければ、一巻の終わりだった。
調子がいいときに業績を伸ばすだけでは、起業家は務まらない。しかし、ピンチに弱い経営者が案外と多いのが実情だ。スキルだけでなくしなやかなマインドセットが、レジリアンスには求められるのだ。
エンジンとともにステアリング
生命エネルギーや熱中といったことを言うと、カン違いして猪侍になる人がいる。猪侍は、威勢はいいが戦で役に立たない。起業家も然り。気合はあるが、猪突猛進でどうにもならないという例は少なくない。生命エネルギーを誤解して、ただの気合で猛進しても結果はついてこないのだ。
運は自らつかむものとばかり、どんどん前に出る本間さんも、出店でのパフォーマンスなど、アイデアと工夫をしている。iemoの村田マリさんは、冷静に市場の波と規模を読む。
それに、ベンチャーは壁にぶつかり方向転換を余儀なくされることがしばしばだ。また、成長していくと、次のステップへと進むことになる。そこでステアリングが求められる。平野さんは、思い出にフォーカスした写真共有アプリからセルフィー(自分撮り)を主としたコミュニケーションのためのアプリへ、攻める市場も当初のタイから台湾へと、転換した。村田さんがソーシャルゲームへと事業転換したときの様は、戦闘機パイロットがエンジンとステアリングを限界いっぱいに駆使したかのようだ。
強力なエンジンがあっても、それを活かす操舵が肝心なのだ。でないと、猪突猛進で出口もないまま終わりかねない。もっとも一般には、ステアリングにばかり気をとられて、困る前に困って、エンジンがかからない人が多いのが実情であり、両方しっかりしておきたい。
自分の人生を生きる
起業家になりさえすればよいというのではない。スティーブ・ジョブズの言葉「他人でなく自分の人生を生きろ」が基本だ。
Lalitpurの向田麻衣さんは両親に内緒で会社を辞めて起業し、家族会議で必死に説得をした。雇われのままでは行き詰った状況から抜け出せないとばかりに、本間さんは起業へと舵を切った。
師匠に言われて起業した形の久田さんやインフォブリッジグループの繁田奈歩さんも、きっかけを得た後は、立派に自分の道を突き進んでいる。
他人が言うことは、あくまで他人が言うことであり、しょせん自分で決めねばならず、やったことは自分に責任がある。つまり、ひとりひとり自分の人生に責任があるのだ。彼女たちは、それを実によく分かっている。
22名の女性起業家は、スーパーウーマンでも、特別でもない。読者のみなさんも、大きな可能性があり、自由であり、生きる上での権利行使は自分次第なのだ。