iTMS-J、Napster-J開始へ。現場はわかってた
購読型契約も可能(購読だけではない)で人気のNapsterが日本でサービスを始めるとか?そこに来てiTMS−Jの発表。調整にはずいぶん時間がかかったものの、この1年〜半年の市場の激変により、さすがに音楽出版社もビジネスを最大化するためには、どこらへんが落としどころかを再考せざるを得なくなってきているということか。
すでにこのあたりでは、エントリーが掲載されているわけですが、今回のiTMS-Jの1曲150円中心という価格帯と絡めて考えると、なるほどiPod課税をやりたがる理由もわかる気がするなぁ、と勘ぐりたくなる。こんなことなら、発表会に行きたかったなぁ(いや、実は関係者経由で問い合わせたところ丁重にお断りされたのですが)。
ず〜〜っと昔、もう忘れるほど昔に、ネット配信で音楽を売るならば、1曲あたり100円ぐらいが市場を最大化する上でも望ましいのでは。そんな事を書いたところ、猛烈に批判された事があった。
まぁ、100円の根拠は特になく、シンボリックだったから100円と(ITmediaの前身である当時のZDnet/Japanに)書いたというのもあるのだけど、そこで言いたかったのは、元の著作権者の1曲あたりの取り分はそのままに、流通やプロモーション形態の変化など、構造的な変化が100円に近い金額を実現できると思ったからだ。当時、メールでは音楽出版社だけでなく、ミュージシャンからも意見をいただいたが、どうも構造的な変化だけがなく実演家の取り分が減ると思っていたようだ。しかし、これはある種の流通革命であっって、産業の核となる部分を安売りするものじゃない。
実際、米国でのiTMSの事例では、アルバム1枚がまるまる売れた時に入る著作権者あるいは実演家の収入は、10ドルちょいのCDが売れた時とほぼ同じだと、現地のミュージシャンにきいたことがある。ただし異なるのは、それ以外の部分。
音楽流通にはよく解らないルールがあって、アナログレコード時代の不良品が多かった時代の瑕疵担保分や、CDなど”新技術”を採用して市場を拡大するための投資分とか、いろいろなものが積み重なり、さらに宣伝広告の費用などもあって現在の値段になっている。
門外漢の僕がいうと、また何かしら問題を引き起こすので可能な限りソフトに書くと、どうも音楽を作る創作家や実演家の取り分よりも、それ以外の部分での利権の方が”多いような気がする”。(あくまでも”気がする”だけです。念のため)
もし利権を失うところがあれば、そりゃぁもう、抵抗するのは当然でしょう。しかし音楽出版社が柔軟性を見せて(モーラの離陸失敗も、現状を見つめ直すいい機会になったのだと思う。あ、まだ失敗と言ってはいけないか)、今回二つのサービスが開始されようとしているというのは良い事だと思う。実際にビジネスをする人たちは現状を把握してくれていた。(もっとも曖昧に著作権料を配分する利権が失われる人たちは、なお抵抗していますが)
さて、SpeedFeedの小川さんがiTMSが成功した理由を書いていたけれど、僕が思うiTMS成功の理由は、インターネットならではのダイナミズムを音楽販売において実現したことだと思う。iTMSを使った事がある人ならば解るとおり、iTMSを使っていると様々な切り口のダイナミックなリンクが張られ、あるいは他人の作ったプレイリストを参考にしながら、その場で試聴して1曲単位で購入できる。
ある意味、(違法とされた)初期のNapsterのチャット機能が実現していた部分を、上手にオーソライズされたネットショップ上で実現し、そのままユーザーはシームレスに携帯プレーヤで音楽にポータビリティを持たせることができる。このダイナミズムこそ、iTMSが成功した最大の理由だと思う。
実際、この5年間で国内版はわずかに3枚ぐらいしか買っていない(と思う)僕でさえ、1曲単位ならiTMS-Jで買ってしまいそうだし、知らないアーティストの気に入った曲を探してとか、いかにもチャートの”ロングテール化”を促進しそうな買い方を日本のiTMSでもやるだろう。音質をほとんど気にしないソースはiTMS。それ以外がCDやSACDと、個人的には買い分けるようになるかな?
DRMによる音楽配信は、特定の曲単位で売り上げが明確であり、小さな名もないアーティストにも均等にチャンスがある。あるいは大手音楽出版社には悩みになるかもしれないが、今回のことが業界構造が変化するきっかけになればいい。