美浜原発の思い出
今から20年ほど前の話になるが、
私は大学の講義の一環で、
福井県にある美浜原発を見学のため訪れたことがある。
電力関係の教授の口利きということもあり、
また、我々がエンジニアの卵ということもあったのだろう、
原発では、熱烈な歓迎を受けた。
我々のメンバーは5名ほどであったが、
普段は一般の見学者には見せないような場所まで案内してくれた。
そして最後には、小さなセミナー室に招かれ、
所長自らが私たちに、
「原発では原爆のような爆発は起きない理由」
「原発の必要性」
「原発の安全性」 を説明してくれた。
特に、「原発の安全性」についてはかなりの時間を割き、
トラブルが起こった際に起動する何重にも施された
"危険防止装置"の精度の高さを誇らしげに解説してくれた。
しかし、我々は、所長の説明がひと通り終わったところで、
この見学に先立って打ち合わせをしていた原発に関する疑問点を、
遠慮なく所長にぶつけることにした。
それは、
「もし、原発が現状の対応強度を超えるミサイルなどの攻撃を受けた場合、
"危険防止装置"もろとも原子炉が破壊されたらどうなるのか?」
ということであった。
この質問に対して、所長はどう答えるのか、
我々は大変楽しみにしていたのだが、
驚いたことに次のような答えを繰り返すばかりであった。
「そのような事態は、絶対に起こりません。。。」
絶対に起こらないというのは、
攻撃が絶対にないという意味なのか、
"危険防止装置"もろとも破壊されるということがないという意味なのか、
再度尋ねてみたが、明快な答えは得られなかった。
その他諸々、原発の安全性について質問してみたものの、
「想定外のことは起こりえない」という趣旨の回答が続いた。
そして、とうとう押し問答をしているうちにちょうど時間となり、
所長は、「原発は安全だし、必要なものです」といった言葉を残し、
我々の目の前から立ち去っていったのである。
今から思えば、"原発業界"全体が、
その危険性を考えたくない空気に包まれていたのであろう。
だがしかし、ちょっとした知識がある人ならば、
我々のような学生でさえも、
「原発は100%安全ではない」ということは明確なことであった。
そして、今回起こった福島第一原発の事故。
詳細なことはまだまだ不明であるが、
想像力を働かせれば、
事故直後にバックアップの電源が
失われたことが致命的な問題になったと思われる。
もし、"原発業界"全体が、
「原発は100%安全ではない」という考え方を前提に
日々改善を目指して実行していれば、
今回の事故も、ある程度の段階で防げたのでないかと思われ残念である。
どちらにしろ、
一日も早い福島の復興を願うばかりである。
<追記>
美浜原発周辺では、
海水の循環によって水温があがり、熱帯魚がすみついている。
(わざわざ放流したのかどうかは判らないが。。。)
このことを、美浜原発の人達はうれしそうに話していた。
私には、熱帯魚が住み着いている事実は気味悪く思われ、
彼らとの温度差を感じずにはいられなかった。