『空飛ぶ広報室』 10の広報マインド
先日、とある広報勉強会で『空飛ぶ広報室』のモデルとなった荒木正嗣さんのお話を聞く機会がありました。
ご存じの方も多いとは思いますが、『空飛ぶ広報室』とは、航空自衛隊の広報室を舞台とした有川浩さんの小説で、TBSで2013年にドラマ化もされています。この中で登場する「鷺坂正司」という(ドラマでは柴田恭兵さんが演じる)広報室長兼報道担当官のモデルが、荒木正嗣さんでした。
実はこの小説が執筆されたきっかけは、「航空自衛隊を題材にした小説を書きませんか」という荒木さんから有川さんへの提案であったという話を聞き、自衛隊の印象がガラリと変わりました。
さらに裏話を聞くと、そもそもは有川さんが「戦闘機に乗ってみたい」というところが発端であったらしいのですが、いずれにせよ航空自衛隊の広報という仕事に対して積極的に取り組まれていたことは間違いありません。実際にお会いしてみて、その「仕事」に対する真摯(しんし)かつ熱量を持って臨んでいるという姿勢そのものが、結果として「良い広報」につながっているということを感じさせられました。
荒木さんが勉強会で語られた「10の広報マインド」にもそれが表れています。広報以外の職種でもヒントになることが含まれていると思いますので、ここに転載いたします。
■『空飛ぶ広報室』 10の広報マインド
- 航空自衛隊の広報活動は任務遂行を円滑にするもの
- 主役は装備品よりも隊員! 自衛隊員も普通の人!
- 広報は特別な仕事ではない (どんな仕事でも基本は同じ)
- 総論賛成、各論反対に負けない (組織的な信頼関係の構築)
- 広報は裏方に徹する (現場を輝かせ、危機から現場を守る)
- 心意気の広報 (人生意気に感ず、巧名誰か複論ぜん)
- リーダーの仕事は正しい方向性を示し、環境を整えること
(自ら動き、根回し、トップを押さえ部下に後ろ盾を与える) - 勇猛果敢、支離滅裂(スピード、柔軟性)
- チームワーク、組織的な活動が重要 (広報室は小規模部隊)
- 守り切れている時が攻め時
どれも興味深い項目なのですが、今回はこのうち「2.主役は装備品よりも隊員!自衛隊員も普通の人!」を取り上げます。
荒木さんの言葉で印象的だったのが、「人がいなければドラマはない。人が感動するのは人のドラマ。装備単体で取り上げられるのではなく人の話を伝えたい」というポイントでした。『空飛ぶ広報室』での取り上げられ方も、装備や戦闘機にフォーカスするのではなく、あくまで自衛隊員それぞれの仕事ぶりや内面を描くもので、そうでなければ実現していなかったということでした。
その他にも、「本来の職務を見てもらうことが信用に値する」、「ブランド化とはイメージアップではなく信頼の確立である」といった言葉の端々に、広報の仕事に対する一貫性がうかがえてとても刺激を受けました。
私が主に関わっているモノづくりの業界でこうした人にフォーカスした広報活動があるかと振り返ると、Makuakeなどに代表される「クラウドファンディング」を利用するベンチャー企業(大手企業の社内プロジェクトで利用される例も増えてきた)で、特にこういった「誰が開発しているのか」、「どんな想いで開発したのか」といったところに焦点をあててメッセージを出しているところが多いですね。
「製造業における主役は製品」と考えると、もちろん製品そのものの利便性や新規性といったところが広報のメインメッセージになるとは思いますが、現場の開発者や設計者が前面に出ていくような広報の仕方があってもいいし、メディア側としてもそうした「中の人」にもっと迫っていきたいとも思っています。
▼関連リンク:
・作家と広報の仕事は少し似ています―直木賞候補作『空飛ぶ広報室』の作者・有川浩氏 - 広報会議|AdverTimes(アドタイ)