AI時代の国際通信を支える陸揚局は足りているのか 帯域急増と沿岸許認可の狭間で
調査会社のモルドール・インテリジェンスが2026年8月に公表した調査によると、世界の海底ケーブル陸揚局市場は2025年の42億1000万ドルから2026年に44億8000万ドル、2031年には62億3000万ドルへと年平均6.82%で拡大する推計が示されました
背景には、人工知能(AI)の普及に伴う国際データ通信の急増と、大手クラウド事業者が専用回線を自前で整備する動きがあります
今回は、「ハイパースケーラーによる単独所有の拡大」「国家安全保障と立地分散の動き」「許認可やセキュリティ対応などの実務的制約」をもとに、海底ケーブル陸揚局の背景と今後の実務への影響について、取り上げたいと思います

拡大する海底通信網と陸揚局が担う役割の推移
2025年から2027年にかけて新たに計画された海底ケーブルプロジェクトは130億ドル規模に達し、2026年から2029年に運用開始を予定する案件は総額160億ドルを超えています
陸揚局内の設備構成を見ると、2025年時点で海底光端局装置(SLTE)が市場全体の32.51%を占めており、陸揚拠点の中心的な役割を担っています
加えて、光ファイバーの心線数や波長数の増加に伴い、回線状況を常時監視する監視制御機器の需要も高まっています
ハイパースケーラーの独自整備が変える調達と所有構造
市場構造の変化を牽引しているのが、大規模クラウド事業者の投資行動です
米メタが2025年に発表した総延長5万キロメートルに及ぶ「プロジェクト・ウォーターワース」や、米アマゾンが公表した米国とアイルランドを結ぶ伝送容量320テラビット毎秒以上の「ファストネット」は、その代表例といえます
単一所有型システムの市場規模は、2026年から2031年にかけて年平均7.53%で拡大する見込みです
デジタル主権と地政学リスクが促す拠点の地理的分散
通信インフラの安全保障や強靱化を重視する各国の政策支援も、陸揚局投資を後押ししています
欧州委員会は2026年2月、コネクティング・ヨーロッパ・ファシリティー(CEF)を通じて海底ケーブル関連プロジェクトに3億4700万ユーロを配分し、そのうち6000万ユーロを修理機器の確保に充てる方針を決定しました
地域別に見ると、アジア太平洋地域は2025年時点で陸揚局市場の38.63%を占める最大の市場となっています
沿岸許認可と安全基準強化がもたらす開発現場の制約
市場が順調に拡大する一方で、陸揚局の新設や運用には実務上の高い障壁が存在します
米国では2025年に海底ケーブル保護法が可決され、重複する一部の手続きが簡素化されたものの、地域ごとの環境基準を順守する負担は依然として残されています
第二の課題は、セキュリティ規制の強化に伴うコスト負担です
キャリアニュートラル拠点とモジュール化による投資の最適化
こうした開発リスクやコスト増に対応するため、事業者の間では陸揚局の運用形態を見直す動きが広がっています
インドではシフィが2025年10月に、東海岸のビシャカパトナムで中立型陸揚局とエッジデータセンターを併設する複合拠点の開発に着手しました
また、工期の短縮と初期投資の抑制を目的として、工場で事前に製造した設備を現地で組み立てるモジュール型やプレハブ工法の採用も増加しています
今後の展望
海底ケーブル陸揚局の機能変化は、通信インフラの更新にとどまらず、後背地に位置するデータセンター開発や電力網の再編へと影響を広げると推測されます
今後の動向を捉える上では、各地域における沿岸許認可の所要期間や、セキュリティ規制の適合に要する追加費用の推移が重要な先行指標となります
国際データ通信の拡大と地政学的な要請が交錯するなかで、通信網の強靱性と投資効率をいかに両立させるかが、持続的なインフラ運用の軸となります