「AI-Readyデータ」が経営の生命線に
株式会社インプレスは2026年1月13日、企業のデータ活用の最新実態をまとめた『生成AI時代のデータマネジメント調査報告書2026』を発売しました。生成AIがビジネスインフラとして定着しつつある現在、多くの企業が直面しているのは「AIというエンジンはあるが、高品質な燃料(データ)が不足している」という構造的な課題です。
本調査では、RAG(検索拡張生成)などの高度な活用を見据え、半数以上の企業がデータをAIが読み解ける状態にする「AI-Ready化」に着手している状況が明らかになりました。これは、データマネジメントの目的が、従来のコンプライアンスや可視化といった「人間による利用」から、AIによる高度な推論を支える「機械による利用」へとシフトしていることを示唆しています。
今回は、本調査から読み取れる企業の投資動向の変化、注目される「データメッシュ」などの新概念、そして、組織が直ちに取り組むべき「データの質の転換」について取り上げたいと思います。

「人間用」から「AI用」へ。データの本質的価値の転換
生成AIの登場以降、企業が保有するデータの価値基準は劇的に変化しました。これまでは人間がExcelやBIツールで分析するための「構造化データ(数値やマスタ)」が重視されてきましたが、現在は議事録、企画書、チャットログといった「非構造化データ」にこそ、企業の独自の知見や競争力の源泉が眠っていると認識され始めています。
調査によると、RAGやファインチューニングを通じて社内データと生成AIを連携させようとする企業は7割を超えています。ここで重要となるのは、単にデータをデジタル化するだけでは不十分だという点です。AIが文脈を正しく理解し、ハルシネーション(嘘の回答)を防ぐためには、データに意味づけを行い、機械可読性を高める「AI-Ready化」が不可欠です。
半数以上の企業がこの「AI-Readyデータ」への取り組みを開始しているという事実は、日本企業において「データは整理整頓するもの」から「AIに学習させるための資源」という認識への転換が進んでいることを示しています。これは、DXのフェーズが「導入」から「実装・高度化」へと移行したことの表れと考えられます。

出典:インプレス 2026.1
投資意欲の向上と「5%の壁」の突破
データマネジメントに対する企業の本気度は、予算配分の変化に明確に表れています。IT投資予算全体に占めるデータマネジメント関連の比率において、「5%以上10%未満」と回答した企業が前年度の約1.5倍となる25.3%へと急増しました。長らく日本企業では、即効性のあるアプリケーションへの投資が優先され、地味な基盤整備への投資は後回しにされる傾向にありました。
しかし、生成AIの精度がデータの品質に依存することが広く認知された結果、データ基盤への投資はコストではなく「競争力を左右する先行投資」であるという合意形成が経営層の間で進んでいる状況です。「予算が確保しにくい」という課題を挙げる企業が初めて3割を下回ったことも、この潮流を裏付けています。
今後は、限られた予算を「どのデータをAI-Ready化するか」という選別に集中させることが求められています。すべてのデータを完璧に整備することはコスト対効果の観点から現実的ではありません。ビジネス成果に直結するハイバリューなデータを特定し、そこにリソースを集中させる戦略的な投資判断が必要となります。
「集める」から「繋ぐ」へ。データメッシュへの期待
企業のデータ活用を長年阻んできた最大の障壁が、部門ごとにシステムが分断される「データのサイロ化」です。従来は、これらのデータを巨大なデータウェアハウス(DWH)に一箇所に物理的に集めるアプローチが主流でした。しかし、データの量と種類が爆発的に増加する現在、中央集権的な管理手法は限界を迎えつつあります。
そこで注目されているのが、「データメッシュ」や「データファブリック」といった新しいアーキテクチャです。これらは、データを物理的に一箇所に集めるのではなく、分散したデータを論理的に結合し、必要な時に必要な場所からリアルタイムで活用するアプローチです。調査では、これらの採用を検討する企業が前年から倍増しており、高い期待が寄せられています。
この変化は、組織論とも密接に関わります。データ管理をIT部門に丸投げするのではなく、各事業部門(ドメイン)が自分たちのデータのオーナーシップを持ち、自律的に管理・提供する「分散統治型」への移行を意味します。技術の導入だけでなく、データに対する責任分界点の見直しが、成功の鍵を握ると想定されます。
組織の壁を越える「データロジスティクス」の設計
技術や予算が整いつつある一方で、依然として残る課題は人材と組織です。データマネジメントは、営業、製造、経理など複数の部門を横断する取り組みであるため、強力なリーダーシップと調整力が求められます。しかし、多くの企業ではデータ活用を推進する専門組織やCDO(最高データ責任者)の設置が追いついていないのが現状です。
AI時代におけるデータマネジメントは、単なる管理業務ではなく、社内の知知を流通させる「社内物流(ロジスティクス)」の設計と言い換えられます。新鮮で信頼性の高いデータを、必要なAIエージェントや社員に遅滞なく届ける仕組みを作れるかが問われています。
そのためには、データアーキテクトやデータエンジニアといった専門職の育成・採用が急務です。同時に、全社員のデータリテラシーを向上させ、「質の低いデータを入力することは、AIのパフォーマンスを下げることと同義である」という意識を浸透させる文化醸成が重要となります。
今後の展望
本調査結果は、2026年が日本企業における「データドリブン経営の実装元年」になり得ることを示しています。生成AIという強力なドライバーを得て、データマネジメントはIT部門の裏方業務から、経営戦略の中核へと昇華しました。今後は、データを「溜める」ことよりも、AIがいかにスムーズに「消化」できるかという、供給プロセスの品質が企業の知能指数を決定づけることになります。
企業には、データメッシュのような分散型アーキテクチャへの移行を検討すると同時に、非構造化データの資産化を加速させることが期待されます。他社との差別化は、汎用的なAIモデルの性能ではなく、そのAIに何を学ばせたか、つまり「自社データの独自性と品質」によって決まるからです。
