変化に対して健康的かつ柔軟に対応できるスキル「チェンジ・リフレックス」の重要性
ガートナーは2025年10月9日、ロンドンで開催された「Gartner HR Symposium/Xpo Conference」で、新たな調査結果を発表しました。
それによると、企業が掲げた変革目標を実際に達成できた社員はわずか45%にとどまっています。調査は2025年4月、世界の中堅から上級管理職約1,000人を対象に実施されたもので、変化への抵抗やストレスが依然として高い水準にあることが明らかになりました。
職場の変化を「チャンス」ではなく「負担」と感じる人が増える中、ガートナーは「Change Reflex(変化反射力)」という新しい概念を提唱し、社員の適応力とメンタルヘルスを両立させる新戦略を提示しました。今回は、同社の分析が示す課題と、企業が変化を「持続的成長」に変えるための鍵について取り上げたいと思います。
変化の波に疲弊する社員たち
ガートナーの調査によれば、36%のリーダーが「チームは変化が定着するかを見極めようとして行動を遅らせる傾向にある」と回答しました。また、39%のリーダーは「変化そのものがチームのストレスの主要因になっている」と答えています。
ガートナーHRプラクティスのディレクター、ニール・ウールリッチ氏は、「変化はもはや管理不能であり、頻度もスピードも複雑さも増している」と警鐘を鳴らします。変革を推進する人事責任者(CHRO)は、これまでの「トップダウン型指示」から脱却し、社員自身が変化に対応できる基礎力を培う新しいアプローチを取る必要があると指摘しました。
企業が求めるスピードと、社員の心理的限界との間に広がるギャップが、今や組織パフォーマンスを阻害する大きな要因になっているのです。
「Change Reflex」――変化を"直感的に"乗り越える力
ガートナーが提唱する「Change Reflex(変化反射力)」とは、変化に対して健康的かつ柔軟に対応できるスキルを、日常的に繰り返し練習し"第二の天性"として身につけることを意味します。
同社が2,500人の社員を対象に行った別の調査では、「自分に関連する変化反射力を活用できた社員」は、そうでない社員に比べて3.5倍高い確率で健全な変化適応を実現していました。さらに、メンタルウェルビーイングも2.2倍良好だったという結果が示されています。
これは、変化に強い組織を築く鍵が"ルールや手順"ではなく、"反射的な対応力"にあることを示しています。マニュアル化された行動よりも、変化の文脈を理解し、自律的に最適解を選び取る習慣が求められているのです。
ガートナーが示す「6つの変化反射力」
ガートナーは、変化への健全な適応を促す上で特に効果の高い「6つのチェンジ・リフレックス」を提示しました。
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新しい経験への開放性
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時間の効果的な管理
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ビジネス環境の理解
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テクノロジーの活用能力
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他者との協働
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感情の自己調整
これらのスキルは、特定の業務スキルではなく、あらゆる変化に応用可能な"汎用的能力"です。社員がこれらの力を日常の中で繰り返し使うことで、変化対応が自然な反応として身につくとガートナーは強調しています。
HR部門が担うべき"変化に強い文化"への設計
ウールリッチ氏は「HRリーダーは、どの反射力を伸ばすべきかを見極め、社員が実践できる場を設計する役割を担う」と述べています。
その実現には「マイクロモーメント(micro-moment)」と呼ばれる手法が有効です。これは、日常業務の中で変化対応を練習できる小さなタスクのことを指します。たとえば、チームメンバーの役割変更、ツールの導入、新しい業務手順の試行などが該当します。
HR部門は、こうした機会を意図的に設計し、社員が小さな変化を積み重ねる仕組みを整えることが重要です。また、タレントマネジメントプロセスと連携させることで、社員の成長度合いや反射力の定着を可視化し、組織全体で"変化に強い文化"を形成することができるといいます。
今後の展望:変化を"文化"として内面化する組織へ
ガートナーの分析は、変化の時代における人材マネジメントの転換点を示しています。企業がこれまで依存してきた「命令と統制」型のアプローチでは、変化の速度と複雑性に追いつけません。
これからは、社員一人ひとりが自らの判断で変化に反応できる「反射力型組織」への進化が求められています。そのためには、HRが"学びの設計者"として機能し、日常の中に変化練習の場を埋め込むことが不可欠です。
変化は避けるものではなく、鍛えるもの。ガートナーが示した「Change Reflex」は、変化を恐れず、健康的に適応できる企業文化を築くための新しい道筋を示しています。