国内ソフトウェア市場12%成長、生成AIが需要を押し上げ
IDC Japanは2025年6月9日、「IDC Worldwide Semiannual Software Tracker」の最新結果を公表しました。2024年の国内ソフトウェア市場規模は前年比12.1%増の5兆3,729億円となり、生成AIブームやアプリケーションのモダナイズ需要が成長を押し上げたと分析しています。
パブリッククラウドサービス売上は22.1%増の2兆3,386億円へ拡大し、市場全体の43.5%を占有しました。AIプラットフォームとデータ管理、CRMを中心としたアプリケーション、セキュリティ分野が高い伸びを示し、2024年は日本企業のデジタル競争力を底上げする一年となりました。
一方で、地政学リスクや為替変動がIT投資の不透明要因となっており、2025~2026年の成長ペースはやや緩やかになる見通しです。
市場概況:12%成長の背景
IDCの試算によると、2024年の国内ソフトウェア市場は5兆3,729億円で、世界平均を下回りながらも二桁成長を維持しました。
生成AIの業務組み込みが進み、アプリケーションモダナイズやサイバーセキュリティ対策に対する需要が広がったことが主因です。企業は経済環境の変動に備え、効率化と競争力向上の双方を求めており、AI基盤の整備とクラウド移行が投資判断の軸になっています。結果として、クラウド課金モデルが予算編成の柔軟性を高め、市場全体の拡大を後押ししました。
AIプラットフォームとデータ管理の急伸
アプリケーション開発/デプロイメント市場は1兆3,455億円へと15.8%拡大しました。
生成AIモデルの学習基盤として高性能データレイクやデータガバナンス機能が必須となり、データ管理市場は前年比7.5%増です。AIプラットフォーム単独の伸びは67.1%に達し、開発者向けツールやLLM向けAPIの採用が一気に進みました。学習データの品質確保と自動コード生成の普及が開発スピードを引き上げ、日本企業の内製化比率を高めています。
生成AIが牽引するアプリケーション投資
アプリケーション市場は2兆3,844億円となり、CRMアプリケーションが14.6%成長しました。生成AIを用いたカスタマーサポート・パーソナライゼーションがCXを変革し、企業は迅速な顧客対応の実現とサービス差別化を図っています。コンテンツワークフロー管理やERMも二桁成長を記録し、ノーコード/ローコード環境との連携が業務自動化を加速しました。
AIエージェントが提案・判断を担う場面が増え、人材の付加価値創出領域へのシフトが始まっています。
サイバーセキュリティと基盤強化の動向
システムインフラストラクチャソフトウェアは1兆6,430億円で9.8%増です。
セキュリティソフトウェアが14.6%伸び、ゼロトラストとAI監視の需要が拡大しました。生成AIが社内外データにアクセスする機会が増えるにつれ、データ保全と権限制御が企業経営の重要課題になっています。
また、ストレージソフトウェアは生成AIの推論負荷を支える高速I/O需要を取り込み、7.3%成長しました。これらの基盤整備は、デジタルサービスの信頼性確保に直結しています。
マクロ経済の影響と企業の選択
円安とインフレ圧力、関税リスクなどが経営計画に影を落とし、2025~2026年のIT投資は慎重姿勢が見込まれます。しかし、IDCはCAGR10.2%で2029年に8兆7,261億円へ拡大すると予測します。
コスト抑制と競争力向上を両立するうえで、AIエージェント導入は「必要」とされ、ESG視点を踏まえたデータガバナンスやセキュリティ投資が着実に積み上がる見通しです。業務効率の高い企業が市場をリードし、ITベンダー側にも迅速な機能提供と導入支援が求められています。
今後の展望
2027年以降、生成AIはナレッジワーク全般へ拡張し、AIプラットフォーム市場が再び高成長局面に入るとIDCはみています。企業側はAIエージェントに合わせて業務プロセスを再設計し、データ品質とセキュリティを両輪で強化することが重要です。
政府も「AI基本計画」に沿った産業支援策を打ち出す見通しで、公的ガイドラインが整備されることで投資心理は改善すると期待されます。ITベンダーは環境負荷低減と透明性確保に配慮したサービス提供が求められ、国内ソフトウェア市場は持続的なデジタル競争力強化の中心的な役割を担うでしょう。