生成AIが描くマーケティングの未来地図
生成AIの普及で、マーケティング部門はコピー作成やレポート作成を短時間でこなせるようになりました。こうした効率化は確かな成果ですが、AIを"業務の助っ人"で終わらせるか、"企業を伸ばす原動力"に育てるかで、ブランド価値は大きく変化していく可能性があります。
Gartner Marketing Symposium/Xpo 2025において、ガートナーのニコール・グリーン副社長アナリストは「AI活用を段階的に進化させ、最終的にビジネス成長を生み出す設計が必要だ」とコメントしました。
今回はGartnerが2025年5月13日に発表したGartnerのマーケティングに関する見解をもとに、AI導入の現状と課題、AI顧客時代への備え、今後の展望などについて取り上げたいと思います。
From Productivity to Impact: Unlocking the True Potential of AI in Marketing
生産性向上フェーズ
現在の多くの企業は、生成AIを記事の下書きやデータ集計に使い、担当者の手間を減らしています。たとえばコンテンツ制作にかかる時間が半分以下になり、広告運用のテストも自動化できるようになりました。
結果としてマーケティングROIは向上していますが、この段階は競合もすぐ真似できるため、優位性は長続きしにくいのが実情です。
ニコール氏は「効率化は出発点にすぎず、ここにとどまると効果が頭打ちになります」と指摘します。次のステップでは、AIに"自律的な行動"を任せて顧客体験を高める発想が欠かせません。
エージェント化フェーズ
エージェント化フェーズでは、AIがチャットやメールを通じて顧客と対話し、好みや購買履歴を踏まえて最適な提案を行います。キャンペーンのABテストや価格調整もリアルタイムで自動実行し、担当者は戦略策定に集中できます。
移行を成功させる鍵として5つをあげています。
①顧客中心の戦略を明確に描くこと
②AIの判断を人が確認できる運用プロセスを設けること
③AIの能力とリスクを公開して信頼を得ること
④顧客データを整え合成データも活用すること
⑤法務・倫理のガードラインを定めること
です。AIが動きやすい環境を用意しつつ、人間が責任を持つ仕組みづくりが重要となっています。
インフルエンサー化フェーズ
今後3~5年で、AIは購入判断まで担う「デジタルインフルエンサー」へ進化すると見込まれます。自動車が最適な充電スタンドを予約し、プリンターがインクを自動発注するなど、AI顧客が人に代わって購買を完結する時代です。マーケターは人間とアルゴリズムの双方に対してブランドを訴求しなければなりません。
まずは部門横断でユースケースを洗い出し、製品やサービスをAIが利用しやすい形に再設計することが求められます。また、AI同士のやり取りでもプライバシーや同意が守られるよう、データ処理のルールを明確にすることが必要となります。
リスクとガバナンス
AIの判断が誤れば風評被害や法令違反につながるため、リスク管理はマーケティング戦略の一部として扱うことが求められます。欧州AI規則のように規制が強化される動きもあり、日本企業も個人情報保護法や景品表示法を踏まえて備える必要があります。
CMOは法務やセキュリティ部門と連携し、「AI行動憲章」を策定するなどの対応が重要となります。アルゴリズム変更時の通知、生成コンテンツの出典開示、削除依頼への対応といった手続きを文書化し、誰が見てもわかる形で公開することが信頼獲得につながります。
今後の展望
生成AIによる効率化が定着した今、先行企業は2025~26年にかけてエージェント化フェーズへ本格移行するとみられます。その後、AIが意思決定を主導するインフルエンサー化フェーズでは、AI顧客が売上の一部を担う可能性があります。
まずは、AIに任せる範囲を段階的に広げながらデータ品質とガバナンスを強化すること。そして、顧客が人でもAIでも価値を感じるサービス設計を行い、新たな需要を生み出すためのCMOの役割が求められていくのかもしれません。