2027年までにエンタープライズAIワークロードの75%が、ハイブリッド型インフラ上で稼働する
生成AIの急速な進展により、企業がAIを活用し、新たな価値を創出する動きも活発化しており、その結果としてITインフラの在り方が重要となっています。AIの実証実験(PoC)を行う段階を越え、本格運用に至る企業が増え始めている今、新たなデジタルインフラをどう構築するかが各企業の成長戦略の鍵となっています。
こうした状況の中、IDCの最新レポートによると、アジア太平洋地域(日本を除く)では2027年までに75%のエンタープライズAIワークロードがハイブリッド型の用途特化インフラで稼働すると予測されています。コストやリスクへの配慮とともに、企業が求められるスピード感や競争優位の確立にどう対応するかが問われています。
今回は、IDCのレポートをもとにハイブリッド型インフラの意義と課題、今後の展望について取り上げたいと思います。
AI時代を支えるインフラ改革の必要性
AIを活用したデータ分析や自動化が企業価値の向上に直結する時代において、AI関連のワークロードをどのように運用するかは企業の競争力を左右します。これまでAI導入の第一歩としてPoCが注目されてきましたが、多くの企業はPoCからさらに先へ進み、実運用を通じて成果を最大化したいと考えています。
しかし、AIワークロードは演算処理能力やデータ量の増大により、既存インフラだけでは対応が困難になる場合があります。さらに、クラウドリソースを活用した柔軟な拡張性とオンプレミスのセキュリティ・可用性を両立させるには、複数の環境をバランス良く組み合わせることが必要です。ハイブリッド型の用途特化インフラは、そのバランスを最適化し、企業がコストやセキュリティを最適化する手段として注目を集めています。
ハイブリッド用途特化インフラが求められる背景
IDCによると、2027年までにアジア太平洋地域のエンタープライズAIワークロードの75%がハイブリッド型インフラ上で稼働する見込みです。これは、オンプレミスとパブリッククラウド、さらにはエッジ環境を組み合わせ、それぞれの強みを最大限に活かす形態です。
ハイブリッドインフラにすることで、機密データは社内サーバーで厳重に管理しながら、急激に膨れ上がる演算処理はクラウドリソースで柔軟に拡張するなど、ビジネス要件に合わせて最適なリソース配分を実現できます。AIの学習フェーズでは膨大な計算資源を利用し、推論フェーズでは負荷を抑えつつレスポンスを重視するなど、用途ごとに必要な性能を確保しやすい点が大きなメリットです。
また、地政学的リスクや各国の法規制への対応も企業にとっては深刻な課題です。ハイブリッド構成により、特定地域へのデータ移転を制限したり、拠点ごとの最適化を行ったりすることでコンプライアンスを維持しやすくなります。こうした多面的な要請に対応できる点が、ハイブリッド型インフラへの移行を加速させている背景に挙げられます。
ハイブリッド型インフラのコスト・複雑性などの課題も
ハイブリッド型インフラが多くの利点をもたらす一方で、導入にあたってはコストや運用の複雑性、セキュリティリスクへの対応など、多くの企業が懸念を抱えています。
IDCのリサーチによると、経営層はAIワークロードのコスト負担や、クラウドとオンプレミスを連動させるためのシステム構築が複雑化することを最も憂慮しています。また、可用性やスケーラビリティ、潜在的なサイバーリスクも大きなテーマになっています。
これらの課題を解決するために重要なのは、AIワークロードを運用する環境を戦略的に選定し、必要に応じてサブスクリプション型や消費ベースのモデルを活用することです。さらに、ゼロトラストセキュリティのように、ハードウェア面からセキュリティを強化する取り組みも注目を集めています。IDCは2029年までに、アジア太平洋地域の大手企業2000社がすべてハードウェアを基盤としたゼロトラストセキュリティを必須要件化すると予測しています。
AI運用を支えるIT運用の高度化、エッジシフト
ハイブリッド型インフラの普及に伴い、AI活用の現場ではいくつか顕著なトレンドが生まれています。
まずは、生成AIを活用したIT運用の高度化です。2027年までに、ITオペレーション分野への生成AI活用によって作業効率が20%向上し、経済価値および新規ビジネス価値として10億ドル規模の成果が見込まれているとIDCは報告しています。ITシステム監視や障害予測などの領域でAI活用が進めば、人的リソースをより価値創造型の業務に振り向けられます。
また、推論処理のエッジシフトにより、学習モデルの肥大化に対し、推論段階ではリアルタイム応答性やデータ収集の即時性が求められるケースが多くあります。2028年までにアジア太平洋地域トップ2000社の3割が、エッジ拠点への投資を2倍に増やすことで、高度なAI推論処理をよりユーザー側に近い場所で実施するようになると予測されています。
そして、ハードウェアセキュリティ強化です。AIモデルは膨大な量のデータを扱うため、外部からの不正アクセスや漏えい対策が極めて重要です。ゼロトラストの思想を土台に、CPUレベルやチップレベルでの暗号化・信頼性検証を行う仕組みを導入する動きが今後一層進むと見られます。
今後の展望
今後、AIを活用する取り組みがさらに高度化し、企業はハイブリッド型インフラを中核に据え、データやアプリケーションを多層的に扱う体制を整える必要があります。そして、学習と推論の処理を状況に応じて柔軟に組み合わせることで、ビジネス効果を最大化できる可能性があります。また、ハードウェア起点のセキュリティ対策によって、サイバー攻撃からの防御やデータ漏えいリスクを最小限に抑える取り組みが求められています。
将来的には、AIワークロードの負荷を自動的に分析し、最適なリソース割り当てをリアルタイムに行う「スマート・インフラ」の実現も期待されています。こうした柔軟なインフラ基盤をいち早く確立し、継続的な運用最適化を図れる企業が、デジタル競争において優位に立っていくことになるのかもしれません。
出典:IDC 2025.3