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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

2023年に向けて日本企業が注目すべきクラウド・コンピューティングのトレンド、ガートナーの発表資料から

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ガートナージャパンは2022年11月2日、2023年に向けて日本企業が注目すべきクラウド・コンピューティングのトレンドを発表しました。

ガートナーではクラウドの正しい理解の中で、

数百もの多様なサービス部品からなるサービス部品の集合体、さらに分散クラウドへと進化。分散クラウドには、サーバ、ストレージ、データベース、ネットワーク、セキュリティ、運用といったものはもとより、クラウド・ネイティブ関連、アナリティクス、人工知能 (AI)、モノのインターネット (IoT)、量子コンピュータ、人工衛星サービス、コスト最適化サービスといった、さまざまなサービスが含まれているとしています。

2023年に日本企業が注目すべきクラウドの主要トレンド

出典:ガートナー 2023年に向けて日本企業が注目すべきクラウド・コンピューティングのトレンド 2022.11.2

クラウドの正しい理解にあたって、6つのトレンドをあげています。

ミッション・クリティカル・クラウド

ミッション・クリティカル・クラウドとは、ミッション・クリティカルな領域におけるクラウドの適用に関する概念と具体的実装に関する議論のことです。これらには例えば、メインフレームのワークロードをクラウド化できるかといったようなことを含みます。実際に富士通のようにメインフレーム市場から撤退を表明するベンダーが現れる中、企業はこれまで以上にミッション・クリティカル・ワークロードのクラウド化の可能性を検討する必要性に迫られています。なおこのことは、ミッション・クリティカル・クラウドという新しいクラウドが出てきたというわけでは必ずしも無いことに注意が必要です。

Newオンプレミス

Newオンプレミスとは、従来型のシンプルなスタックから構成されるオンプレミスではなく、クラウド・ネイティブの要素を取り入れた新しいオンプレミスのことです。ハイパーコンバージド・インフラストラクチャ (HCI) ベンダーはもとより、ハイパースケーラーが提示しているハイブリッド・ソリューションにおけるオンプレミスも本カテゴリに含まれます。既にオンプレミス対クラウドの議論は過去のものとなりつつあります。オンプレミスかクラウドかに関係なく、従来型 (Old) から新しい (New) やり方/スタイルへの大きな転換が起こっていることにすべての人は気付くべきです。従来型のやり方/スタイルは、2030年には相当減少し、場合によっては無くなっている可能性があることを前提に戦略を再定義する必要があります

ソブリン・クラウド/地政学

地政学的な変化が大きくなる中、ソブリン・クラウドに関する議論が、より真剣なものになりつつあります。ソブリンとは主権という意味ですが、これにはさまざまな議論が含まれる状況になっています。例えば、欧州のように特にハイパースケーラーの力が強まる中で、いかにコントロールを自分たちに取り戻すかという議論もあれば、米国のように、自国にとって脅威となり得る他国からのアクセスのリスクをいかに軽減するかという観点での議論があります。日本ではこれらの議論に加えて、国内での有事の際にどう備えるべきかといったような議論も一部で真剣なものとなりつつあります。2022年に入り、各ハイパースケーラーは、ソブリン・クラウドを強化中ですが、議論、実践ともに発展途上であり、現状各社の取り組みに差異が見られることが注目できます。ここでは、例えば、ハイパースケーラーが危ないから国産クラウドにすればよいといった極端な議論にならないように注意が必要です。

サステナビリティ

サステナビリティの中でも環境サステナビリティは、主要ハイパースケーラーが戦略的に注力している分野になっています。よって、企業は、主要ハイパースケーラーがどのようなサステナビリティ戦略を展開しているかを確認し、彼らから何を学べるかを見つけることが肝要です。例えば、二酸化炭素 (CO2) 排出量の可視化や最適化に役立つツールや最適化支援サービスなどを注目しておくとよいと言えます。

クラウド・ネイティブ/サービス・ファクトリ

サービス・ファクトリは、サービス開発とデリバリを工場のように行う概念です。この概念は、企業がバイモーダルのモード2に相当するデジタル・サービスの展開を強める際の基本的な考え方として重要なものとなります。サービス・ファクトリを実現するためには、ユーザーは、ハイパースケーラーはもとより、クラウド・ネイティブ、継続的インテグレーション/継続的デリバリ (CI/CD)、コードとしてのインフラストラクチャ (IAC)、オブザーバビリティ (可観測性) といった考え方を理解、実践できるスキル、さらに、サイト・リライアビリティ・エンジニアリング (SRE) のような変化する環境の中で、クラウドが止まってもサービスを止めないようにするためのエンジニアの方法論や、具体的なエンジニア・スキルの獲得、向上を加速する必要があります。

新たなビジネス・アーキテクチャ

企業は、業務システムのクラウド化ということでマイグレーション、リフト&シフトについてよく検討しますが、これは、いわゆる「引っ越し」の議論になります。しかし、現在は、江戸から明治時代になったくらいの大転換の時であると捉えられます。このような中、単に「引っ越し」だけの議論をしても明治には行けません。よって、そこにだけコスト、エネルギー、時間をかけているわけにはいきません。企業は、2030年、またそれ以降に通用するテクノロジをベースにした新たなビジネス・アーキテクチャの検討に直ちに入る必要があります。そこでは業務も無くなる前提での検討を行う必要があり、そのためには、経営者の次世代のテクノロジとビジネスへの理解、リーダーシップと実行能力が不可欠となっていきます。また、新しいアーキテクチャを描き、実践できる高度なスキルを持ったクリエーター的なエンジニアが必要となります。

ハイパースケーラーのトレンドについても言及しています。

AWS、Microsoft Azure、Google Cloudなどのハイパースケーラーは、引き続きさまざまなイノベーションを行っていますが、全体を通じて注力のポイントはまだら模様になりつつあります。例えば、ミッション・クリティカル・クラウド、ソブリン・クラウド、サステナビリティをとっても、各社の取り組み姿勢には差がある状況です。分散クラウドの行方、プライベート5G、ローカル5Gなどは、2023年のひとつの大きな注目ポイントになる可能性があります。

COE/CoP/人材投資/クラウド戦略

クラウドは「自分で運転」することで、ビジネス効果を最大化できる可能性があるテクノロジです。このことへの理解が進み、ユーザー企業が自らクラウドを使いこなすスキルを高めようとする動きが加速しています。そのためにクラウド・センター・オブ・エクセレンス (クラウドCOE) を作り、推進する動きは、2023年も顕著に見られるようになるでしょう。さらにコミュニティ・オブ・プラクティス (CoP) という概念を加えた、より実践的な動きも見られるようになるでしょう。CoPとは日本語では実践共同体と言えます。すなわち、これは議論ではなく実践することを目的とした共同体であり、こうした取り組みにより、企業はより高みを目指すようになります。それは、作業者ではなく、クリエーター的なエンジニアがさらに活躍する場と機会をもたらします。

クラウドはサービス部品の集合体です。すなわち、サービスは、既に沢山あるわけですが、問題は、こうしたサービスを駆使できる人材が不足していることです。このようなことから、企業が、今後、システムの戦略を策定する際は、必ず人材戦略をその骨格に柱として組み込むべきです。すべての企業は、クラウド・ファーストとは人材ファーストであると捉える必要があります。

そして、

すべての企業は、クラウド戦略を、業務システムの移行先としてだけではなく、産業革命的なメガトレンドへの対応として捉え、推進していく必要があります。

とコメントされているように、クラウドは自社活用だけでなく、産業や社会のプラットフォーム的な位置づけが強くなっていくでしょう。

すべての企業は、クラウド戦略を、業務システムの移行先としてだけではなく、産業革命的なメガトレンドへの対応として捉え、推進していく必要があります。

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