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離陸する電子書籍ビジネス(4):日本市場の行方

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これまで米国を中心に電子書籍ビジネスや電子書籍リーダの攻防について整理をしてきましたが、日本の市場はどうなっているのでしょうか。

電子書籍リーダーの市場は日本が先行していました。ソニーの「リブリエ」やパナソニックの「Σ Book」が2004年に発売されており、注目を集めました。しかしながら、端末価格が高く、紙の書籍市場を死守しようとする出版業界の抵抗もあり、コンテンツが充実することなく、販売台数は伸び悩んだ結果、撤退を余儀なくされています。

その後、日本でのケータイ文化を背景に、携帯電話向けの書籍コンテンツの売上が急速に拡大してきました。2007年前後では、ケータイ小説ブームが起こったのは記憶に新しいところです。電子書籍ビジネスは、コミックや写真集が中心となっており、アダルト系のコンテンツが大半を占めています。2008年の市場は推定で464憶円となり、今後も拡大が見込まれる市場です。

世界において、アマゾン「キンドル」に代表されるように電子書籍ビジネスの市場が急速に拡大しており、今、改めて出版業界の対応の行方が注目されています。

日本市場における電子書籍の普及の課題については、野村総合研究所の「これから情報・通信市場で何が起こるのか 2010年版」によると、以下の3つがあげられています。

  • 著作権処理問題 ・・ 新刊本の電子コンテンツ化に対して著作者と出版社の抵抗が根強い
  • 出版社、取次店、書店間で生じる利益相反 ・・日本は書籍取次店の寡占度が高く業界全体への影響力が高いため、取次店や書店の抵抗が強い
  • 電子書籍の標準フォーマットが未整理 ・・複数の独自フォーマットによる乱立

また、「再販売価格維持制度」といったように出版社が決定した販売価格を維持する仕組みが定着しているため、電子書籍としてのメリットのある価格を提供するのは現状では難しいということも指摘されています。電子書籍のフォーマットについては、日本でも独自のフォーマットが乱立しており、アマゾンの独自フォーマット「AZW」に対応する電子書籍も登場していません。現在、PDFでは読むことができますが、PDFの場合は、電子書籍のビューアーとしては、現状では機能は十分ではありません。

以上のように、日本市場での課題は山積していますが、ケータイ小説などでの成功体験をいかして、いかに、世界の市場に柔軟に対応していくかが、大きなポイントとなっていくでしょう。 

日本の企業ではソニーが世界市場において、35%というシェアを確保し、さらなる拡大を目指していますが、その他の企業はどのような形で事業に参入しているのでしょうか。

シャープは、液晶を搭載する様々なデバイスに電子書籍コンテンツを配信する「クラウド・ブック・サービス構想」を掲げ、シャープは電子書籍リーダーの開発を進めています。シャープが得意とする液晶テレビ、携帯電話/スマートフォン、電子辞書、モバイルPC向けに、各々最適なレイアウトやユーザインターフェイスを提供する技術を用いて、サービス提供していくことを検討しています。シャープの液晶と端末の強みを活かした戦略と言えるでしょう。

また、ブリジストンは、2009年10月に「超薄型オールフレキシブル電子ペーパー端末」の開発に成功したことを発表しており、その技術開発の商品化への動向が注目されます。

その他、独自フォーマットではありますが、ボイジャーが提供する電子書籍ビューアで約9割のシェアを誇る「BookSurfing」も今後の国内の電子書籍市場の拡大において、大きな役割を占めることでしょう。

 

そして、国立国会図書館の動向も注目です。国立国会図書館は、「Japan Book Search(仮称)」の立ち上げに向け協議会を発足しており、国会図書館の900万冊を超える図書と1300万点を超える逐次刊行物の蔵書を電子化するプロジェクトの検討を進めています。著作権処理の扱いなど、課題は山積していおり、どこまで実現するのか不透明なところはありますが、プロジェクトの規模が大きいだけに、事業が始まり、軌道に乗った場合は、日本の電子書籍市場に与えるインパクトは大きいでしょう。

 

電子書籍のデジタル化に向けたコンソーシアムの動きも始まっています。社団法人日本雑誌協会でのデジタルコンテンツ推進委員会を基盤に、様々な企業が参加する「雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアム」を設立し、事業化に向けて、2010年1月に総務省の「ICT 利活用ルール整備促進事業(サイバー特区)」で雑誌デジタル配信の実証実験を行います。参加モニターに対して、99誌のコンテンツを配信します。実証実験にひあ、出版社50社、印刷、通信、出版取次、電子書籍配信、広告代理店、ISPなど様々な事業者46社が参加します。本事業では、中間フォーマットの検討や著作権への対応、そして広告モデルのビジネスなど、様々な可能性を検討しています。


そして、ここ数日、紙面を賑わしているのが、「日本電子書籍出版社協会(仮称)」の設立の動きです。講談社、小学館、新潮社、集英社、文芸春秋、学研ホールディングスなどの国内の大手出版社21社が集まり、2月に設立します。参加予定の21社は国内で占めるシェアは90%を占めているようです(コミックを除く)。

主な取組みとしては、

・書籍を電子化する際の規格の共通化(共通フォーマット等)
・著作者や電子書籍販売サイトとの契約モデルの構築(例:手数料などによる収益配分)
・電子書籍リーダーのメーカー、著者、出版各社との交渉窓口
・電子書籍のデジタル化に伴う二次利用ができるための法整備

著作権法では、デジタル化の許諾権は著作者にあるため、書籍の利用について法的権利をもたない出版社にとっては大きな危機感があります。そのため、アマゾンが著作者に直接交渉をし、電子書籍出版に向けた出版権を獲得できれば、その作品を最初に本として刊行した出版社であっても何もすることができないのです。アマゾンの場合、電子書籍で出版した場合、印税が35%になるということですが、販路も拡大できるメリットがあるため、著作者にとってはとても魅力的にうつるのでしょう。

今後、日本の出版社連合とアマゾンとの主導権の攻防がどのような方向に進むのかが、注目されます。


2009年、「Google Book Search」の集団訴訟などが、出版業界に大きな衝撃をもたらしましたが、電子書籍の流れは今後確実に進むことになるでしょう。電子書籍のビジネスモデル場合は、印刷、製本、運送、返品、倉庫での管理といったコストがまったくかかりません。そして、販売価格維持制度が電子書籍の場合、適用されないとしたら、紙と比べるとかなり割安な価格で購入できる可能性が高いでしょう。日本国内においての電子書籍ビジネスのガラパゴス化が進んでいく可能性も指摘されており、これからの流れの中で日本市場における電子書籍ビジネスがどのような形で離陸していくのか、この1年が大変重要な年になるといえるでしょう。

※関連記事

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