書評:沖縄力の時代
ITメディアから献本いただいた書籍についての書評を掲載します。
「沖縄力の時代」 野里洋 著
本書は石川県出身でありながら、半生を沖縄でジャーナリズムの仕事をしながら過ごし、沖縄を外と内の両面から見つめてきた著者によるものである。
私が本書を選択した理由は単純で、沖縄が好きだから。6年前にコンサルティング会社を退職し、4ヶ月の休暇を得たことがある。まだ晩夏で、ダイビングのライセンスを取ったばかりということもあり、数回の沖縄ダイビング旅行をした。その時の記憶は鮮明で、海の中の息をのむ美しさ、沖縄の人たちの優しい思いやり、そしてなにより美味しい料理と泡盛。
「沖縄力の時代」にはそうしたノスタルジーと、日本の中である意味違った歴史と文化をたどった沖縄だからこそ、日本を変えることが出来るのではないか、という期待だ。
まず本書で驚かされるのが、我々「ヤマトンチュ(本土のの人)」と「ウチナンチュ(沖縄の人)」の認識の違いだ。ヤマトンチュはあくまでも観光地として、楽しい思い出になる所だけをよく見て納得している。しかしウチナンチュは悲惨な歴史と米軍基地に占領された土地、という過去と現実を抱えながら生活をしている。
そこには超えられない「濠」がある、と著者は書いている。なるほど我々ヤマトンチュはなかなか沖縄の抱える現実まで入り込んで理解を出来るほどじっくりと過ごす時間を持っていないことが多い。ダイビングをして、民謡酒場で泡盛を飲んで、そして飛行機で帰る。沖縄の人たちとどこまで触れ合うチャンスがあるのだろうか。
米軍基地の問題は複雑だ。ニュースで報道された少女暴行事件。本書ではこの凶悪な事件の別な側面にも触れている。米軍兵は、朝鮮半島やイラクといった生死の境に置かれた緊張感から沖縄でやっと解放をされる。その時に彼らがつかの間の時間に自分を解放する。
決して許される事件ではないが、日本だけでは解決できないであろう、難しい現代の溝がそこに横たわっているのだ。
更に基地問題は沖縄の自立を阻害しているとの指摘がある。米軍基地の土地所有者は少なくない借地権による軍用地料を得ている。また多くの人が職を得ている。いますぐ基地が撤退したとして、沖縄は自立できるのか?正直沖縄だけでなく、日本全体で考えなくてはならない難しい課題である。
更にリゾート投資が、この経済低迷の時期に問題を起こしている。以前、瀬底島に行ったことがある。沖縄本島の中部にある小さな島。人口900名ほどの島に57億円かけて造られた橋で簡単に渡ることが出来る。美しいビーチがあり、シュノーケリングやダイビングをすると珊瑚礁に泳ぐ美しい魚たちに人生の楽園を見る。
そこにホテル建設が持ち上がり、美しいビーチを望む一角に巨大な工事が始まった。基礎が出来、ある程度の建設が進んだ段階で、なんと親会社が倒産して工事はストップ。無惨な状況で建築現場は放置されている。
観光客と雇用を当て込んだ地元は当惑を通り越して幻滅したのではないか...。
昨年のベストセラーで「テンペスト」がある。琉球の中国、欧米、そして江戸幕府に翻弄された歴史。ここから読み取れるのは、琉球の人たちは外交をうまくやることによって生き延びた、強みである。鎖国をしなかった唯一の日本人達。
本書で触れられているが沖縄の人たちはとてもオープンで人に優しい。えてして外国人に引け目を感じる日本人だが、沖縄の人は違う。誰とでも仲良く。それがカルチャーなのだ。私が名護ハーフマラソンで初めて会った人にとてもお世話になったが、東京では考えられない人の温かさだった。
沖縄にはヤマトンチュが持たないおおらかさと優しい心がある。せかせかとして忙しい日本人。そして経済的に厳しい環境。同じ環境に置かれながらおおらかに人生を豊かに楽しむ沖縄。そこに「沖縄力」の時代のヒントがある。
本書ではもう少しドキュメンタリー的に、沖縄の人を取り上げて深掘り出来たらもっと楽しく読めたと思う。