スパコンの能力を最大限に引き出す"城"【スパコン京を見に行こう!第2弾】
SPARCお姉さん長島の「スパコン京を見に行こう!」ブログ。第2弾は「京とご対面!」ということで、実際に京が設置されている建物に行ってきたよ!というお話です。
スーパーコンピュータを使うためには、それ相当の設備が必要とされています。どこの国のスーパーコンピュータも、専用に作られた設備の中に、大切な宝物のように収められております。
スパコン「京」が収められている理化学研究所 科学計算研究機構。日建設計によって設計、大林組によって建設されたこちらの施設は、計算機棟、研究棟、熱源機械棟、特高施設の4つで構成されています。
「京」が設置されている計算機棟は、外から見ると6階建てと同じぐらいの高さですが、中身は地下1階、地上3階建ての建物。3階に設置されている「京」と、1階に設置されているグローバルファイルシステム、そしてそれらを冷やすための空調機械室があります。
静寂さ、さえ感じる計算機室
ついに来ました!!そう、これが見たかったの!
ダッダーン!!
(ダッダーン、ポヨヨンポヨヨン、ってマッチョな外国人のお姉さんが出てくるCM、昔ありましたね。)
見学室から、この「京」が並ぶ圧巻の計算機室を見ることができます。
サーバールームに入ったことのある方はわかると思うんですが、大きなサーバはかなりの騒音がするんです。しかし、この計算機室。静寂ささえ感じました。
というのも、よく見るとこのお部屋、柱がない。見渡す限りの「京」。
計算機室の広さは3000㎡(60m x 50m、最大で60m x 60m まで拡張可能)、この広さを柱無しに作り上げています。これは「京」の配置上の制限をなくすために、無柱の部屋にしているんだそうです。
サーバなど大きなマシンを設置するときには、色々と懸念すべきことが出てきます。
お家の電化製品で例えてみますと...電子レンジを買ってきたとしましょう、動かすためには電源が必要ですが、コンセントの口までコードの長さが足りない時は、延長コードを付けたりしますね。また、壁にべったりレンジを付けて設置するのではなく、レンジの背後や側面には、熱を逃すための放熱スペースをとらなくてはなりませんね。もちろん、レンジを使うためには、前面も開いてないといけません。それにアースも...。色々考えなくてはなりませんが、まぁ電子レンジ1台ぐらいは、そんなに難しくはないですね。
ただ「京」の場合、あの広い部屋に864台設置しなくてはなりません。
さて、あなたの家に864台の電子レンジを設置するには、どうしたら良いでしょうか。電源のクチが足りません、電源コードだけでも凄まじいことになるでしょう、さぁ大変(笑)(実は「京」以外にも、あの計算機室には216台の磁気ディスク装置が設置されています)
そんな苦労を無くしましょう、ということで採用されたのがフリーアクセスフロア。
「京」の床下に、電源供給のための分電盤や、配線、冷却水の配管などが隠されています。電子レンジで言うところの、延長コードが不要になったり、延長コードはあと何本必要なんだ?!ということを考えなくてよくなる、ということですね。
また、スパコンとしての性能を上げるためにも、配線が短い方が好都合。
複数の「京」と「京」をつないで計算を行うため、通信を行う線の長さは物理的に短い方が良いんですね。部屋の柱を無くし、「京」を設置する自由度を高めることができました。そしてそれは、通信線を短く、且つ長さを均一にすることができるので、スパコンの計算速度を速めることができるんです。
静寂さを感じる"騒音のなさ"や冷却については、次回のブログでご紹介する予定です。
建物じゃなくて橋だった!? 無柱を叶えた建築技術
ここまで出てきた数字をまとめてみましょう。
- 計算機室の広さは3000㎡(60mx50m)
→ オリンピックなどの競技用プール2つ分ぐらい - 「京」1台あたり約1.35トン(1350kg)
→ おおむねセダンタイプの車1台ぐらいでしょうか - その「京」が864台(それ以外にも216台の磁気ディスク装置)
→ 大きな冷蔵庫のような筐体が1080台
競技用のプール2つに、セダンタイプの車が1080台...。
おふざけはこれぐらいにして...笑
3階のフロアに、この重さを支える部屋を無柱で実現するのは簡単なことではなさそう、という想像はつくかと思います。
さて、どうやって実現したのか。2つの技術が、そこにはありました。
●その1:橋梁技術
まさかの橋の技術。
この計算機棟、「トラス橋」という橋梁技術を用いた建築手法で建てられているんだそうです。トラス橋とは、三角形が続く構造によって変形しにくくなっている橋のこと。
東京ゲートブリッジも超巨大なトラス橋。
身近なものだと、段ボールが挙げられますね。段ボールの側面を見てみると、小さな三角形がずーっと並んでいるかと思います。ただの紙なのに、あれだけの強度が出せるのはトラス構造だから。
この橋梁技術を用いて「京」が置かれているフロアを作っているため、無柱の広い部屋を作り出すことができたんだそうです。
●その2:免震構造
地震が起きると、建物の倒壊を防ぐために柱が踏ん張っています。がしかし、計算機室には柱がない。これでは地震が来たと同時に壊れてしまう...?
そんなことないですね、計算機棟は建物全体が免震構造で作られています。柱が無くても地震に耐えられるように、積層ゴムや複数のダンパーを設置することによって、地震動が建物に伝わりにくくしています。この免震については、第4弾でご紹介する"免震ピット"で細かくご説明します。
紫綬褒章を受賞した「京」の開発責任者と初対面
ダーッと並んだ「京」の姿を見て興奮気味な私。ルンルン気分で1階の展示コーナーへ。すると見たことのあるお方が...。「京」の実装構造やプロセッサについて紹介しているブースに、井上愛一郎さんがいらっしゃいました。
この方、以前、富士通で「京」を開発していた開発責任者。富士通の常務理事、フェローとなり、現在では理化学研究所の計算科学研究機構 統括役になられています。科学技術分野における発明・発見や、学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績を挙げた人に贈られる「紫綬褒章」を、2013年に受賞されています。
彼が富士通にいた頃のことを私は直接よく存じ上げないのですが、お名前をよくお聞きしていたのと、写真でお顔を認識していたので、思わず声をかけてしまいました。SPARC64プロセッサの横で熱く語る彼を見て、生意気ですが、一緒に仕事をしたらどれだけ楽しいんだろう...と妄想してしまうのでした。
次期スパコンについて
1階の展示エリアに気になる文字が...。
『ポスト「京」とフラグシップ2020プロジェクト』
文部科学省が推進する「フラグシップ2020プロジェクト」の下、2020年の運用開始を目指したポスト「京」の開発が始まっているよ、ということで簡単な展示が行われていました。ポスト「京」は、現在の「京」の約100倍のアプリケーション性能を目標としており、基本設計を富士通が担当することになりました。
ポスト「京」における重点課題も、5分野における9つの課題がすでに決定されています。
- 健康長寿社会の実現
- 防災・環境問題
- エネルギー問題
- 産業競争力の強化
- 基礎科学の発展
上記のような社会的科・学的課題を解決するために、幅広く利用できることを目指してハード/ソフト/アプリの開発を協調的に設計(コデザイン)しています、ということでした。
説明員の方と少しお話したのですが、「一番の問題は電力なんです」ということでした。アプリ性能約100倍を目指すポスト「京」ですが、電力目標は現状の3倍程度に設定されています。果たしてどうなるか。
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無事「京」に会えましたー!!
さて、次回は、その「京」を動かすための電力を供給している熱源機械棟のお話しをしたいと思います:-)