手描き楽譜の憂鬱
クラシック音楽の多くは、作曲者が没後50年以上が経過していて著作権が消滅しているものが多く、これに加えて近年では、ネット上に楽譜のライブラリも整備されてきているため、フルオーケストラの楽譜であっても、比較的自由に揃えることができる。
ただ、特定の版を使いたいとか、近現代ものを演奏するような場合は、広く流通しているものではないので、レンタルというのが一般的だ。レンタル楽譜を借りると、前の演奏者の書き込みがあって、弦楽器であればボーイングなど、参考になるものも多いが、ときにくだらない落書きが残っていることもある。
今年の夏の演奏会では、ブラバンではしばしば取り上げられるという、レスピーギ の「地の精のバラード」のオリジナル、オーケストラバージョンを演奏する。作曲年は1919年。当然レンタル楽譜になるのだが、どうも20世紀ものになると、手書き楽譜が多い。
手書きの場合、音符の間隔が音価に比例していなかったり、加線の間隔が均等でなかったりと、直感的に見て、音にしずらいことが多い。ちゃんと譜読みをして、練習しとけ、ということなのだが、それでも読みにくい楽譜は演奏していると疲れる。
今回のレスピーギの楽譜は、まさにそのパターンなのだが、さらにつらいことに、なんと(!)、ト音記号や調整記号が省略されているのだ。
例えば、冒頭はイ長調。シャープ(♯)が3つ付いている。1段目には、もちろんこれらは記載されているが、2段目からは省略。しかも、途中で転調するから、ずっとシャープ3つと思ってるわけにもいかない。
さすがにこのレンタル譜を使った先輩たちも、勘弁してくれと思ったようで、余白に調整記号を追記し、調性が変わるところに巨大なビックリマークを書き込んでいた。
ちなみに、ヴァイオリンパートの場合、ト音記号しかないが、ヴィオラの場合、ハ音記号とト音記号、チェロに至っては、ヘ音記号、ハ音記号、ト音記号を、音の高さに応じて使い分けるので、アタマに書いてないというのは、相当痛い。
とはいえ、本番が近づいてくると、読み間違いは言い訳にならない。読解は今のうち。曲は華やかで楽しいが、楽譜だけが、まったくもって憂鬱である。