ペトルーシュカと今日の料理がごちゃまぜ、は立派な変奏曲
「のだめカンタービレ」第10話 コンクール本選のシーン。のだめがストラヴィンスキーの「ペトルーシュカからの3章」を弾いていると、「今日の料理」のテーマが混ざってしまう。原作的には、ペトルーシュカとごちゃまぜになって、作曲してしまっている、ということなのだが、ドラマ的に分かりやすさを狙ってか、今日の料理の主題を、ままペトルーシュカ風のタッチで演奏していた。
金曜日の音楽ネタなのだが、旬の話題ということで、今日は、このシーンを変奏技法という切り口で分析してみようと思う。
クラシック音楽では、主題(メインの旋律)があって、それが展開されるというパターンが多い。ソナタ形式などはその典型で、第1主題と第2主題が提示され、その後展開されて再現される。主題は、切り刻まれたり、全然違った表情にされたりと、いろいろ加工されるわけだ。
主題を変化させる方法には、古くは長調を単調に変えるとか、リズムに変化をつけたり、装飾的な音を加えたり、といった方法があるが、近代では、その手法も多種多様、バリエーションも広がってきている。ソナタ形式でも、展開の手法が多様化しているので、豊富なバリエーションを駆使して、全体的に膨張傾向にあり、古典に比べると、どんどん曲が長くなっている。
管弦楽法などによる色彩的な変化のつけ方、和声的な変化など、表情ががらっと変わる劇的な手法がある一方で、関連性を認識させる基本は、やはり、旋律パターンとリズムパターンだ。問題の箇所をリズムパターンで見てみよう。
ペトルーシュカの主題のリズムは、次のとおり(矢印は次の音への高低差を表す)。
譜例1:
これに対し、今日の料理。
譜例2:
リズム上の違いはわずか一箇所。最初の箇所 A だけだ。ペトルーシュカの変奏として今日の料理を「料理」しようというのであれば、まず、最初のリズムを、A' を A に入れ替えるべきだ。試しにペトルーシュカのリズムで今日の料理の最初のフレーズを歌ってみてほしい。
ここで何かペトルーシュカのような気がしてしまうのは、最初の1拍の音型だ。同じ度数ではないにしても、音の変わる向き(高低の変化)はざっくり同じである。このような音型パターンも、主題の同一性を感じさせる重要な要素で、ベートヴェンの運命のようにタタタ・ターンとやれば、どんな音価でも、運命の主題だ!と思うものだ。
音の変わる向き、すなわちベクトルも、変化のツボとなる。ベクトルを上下さかさまにすれば、反行型、前後さかさまにすれば、逆行型となる。ペトルーシュカタッチの和音バリバリのピアノ協奏曲であるバルトークの「ピアノ協奏曲第2番」は、まさにこうした変奏のオンパレード、「対の遊び」である。ペトルーシュカと今日の料理に当てはめると、C'は、Cの反行型ということになる。となれば、逆に差異の際立つ B と B' をさりげなく入れ替えてやるとか、混在の手法がいろいろ思いつく。この種の技法を駆使すると、ペトルーシュカなのか、今日の料理なのか、いや全然新しい音楽だ、あれ、でも似ているというトリックを仕込むことができる。
ドラマに関しては、分かりやすさを優先して、ツウをうならせることはできなかったが、天性の感覚だけでこうしたエッセンスをほどよくまぶしたものが、のだめ版「ペトルーシュカ変奏曲」だろうと想像する。