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開発ツールビジネスの再生に格闘。マーケティングの視点で解説

ツールによる効率化の先にあるもの

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DevCo(ボーランドの開発ツール事業を引き継ぐ新会社の仮称)という新しい事業体でやりたいことがおぼろげながらも見えてくるようになって、「開発者フォーカス」という言葉がクローズアップされてきました。この会社は開発者のためのものでなければならない、開発者の助けになる会社であろう、という考えです。これまでボーランドは、管理監督するマネージャと現場の開発者の両方にフォーカスしていましたから、その一方に専心するというのは納得できる決断です。

しかし、それを推進していく立場で冷静に考えてみると、ただいたずらに「開発者のために」といっても、それが具体的にどういうことなのか、なかなか難しい課題であることに気付かされます。

現場の限られた予算を考えれば、開発ツールは安いに越したことはありません。無償で高機能なツールが手に入れば大歓迎でしょう。しかし、それでは事業は成り立ちませんから、お金をいただくことになります。あるいは、もっと高い別のインフラ(ハードウェアやミドルウェアなど)のためのツールとして無償で提供することもできますが、これも特定のインフラにロックインされてしまって、あまり好ましくありません。つまり、開発ツールを供給し、どのように収益をあげていくかを、開発者視点でもう一度考え直さなければならないということです。

もう一つ重要なのは、その「助ける」中身です。「開発の効率化」というのは、よくいわれるフレーズですが、はたして効率化して行き着いた先はどこなのでしょうか?― もっと働く? 余暇を楽しむ?

ツールがもっとも得意とする開発効率化のポイントは、単純作業の自動化です。ルールが明確で、一括変換したり、雛型にあわせてソースを自動生成するような作業は、目に見えて効果があります。こうしたツールの支援によって開発者が恩恵を受けても、より大きな枠で見たところの単純労働に開発者が従事させられるのであれば、その仕事は魅力的には映らないでしょう。むしろ、ツールの支援によって単純作業から開放された先にあるのは、開発者の創造性であるべきです。

開発ツールはソフトウェアを創造することはできません。ツールはあくまでも効率化によって、時間を生み出すだけです。この時間をいかに使うか、それが開発者にとって創造性が関与しうる余地だと思います。

こう考えてみると、私たちは、ツールによって時間を生み出すことには努力を払ってきましたが、その先にあるものについては、無関心すぎました。むしろ、開発者の創造性の発露とは関わりなく、ビジネスの効率化とか、プロジェクトの成功といった、全体の効率化や管理に目を向けすぎて、その中での「個」の働きについてフォーカスをあてずにきたようです。日本語には、「匠」といういい言葉があります。中世ドイツでいえば、「マイスター」でしょうか。

逼迫した開発の現場では、こんな書生論みたいなことをいっている余裕はないかもしれません。しかし、開発ツールを供給し、ソフトウェア開発をリードしていかなければならないベンダーが、その職業に理想を掲げられないようではどうしようもありません。

現場の苦労を少しでも和らげ、その先にあかりを灯す、それが使命なのではないかと考えています。

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今、9月7日に開催予定のデベロッパーキャンプの準備を進めています。このイベントは、5月25日に開催した第1回に続くまだひよっこのイベントです。でも、DevCoのこうした精神を具現化する開発者のためのイベントとして育てていきたいと考えています。

次回は、このイベントにまつわるお話しをしようと思います。

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