Apple Vision Pro が AR デバイスでは無く空間コンピュータである理由
先週のWWDCで、Appleから待望のARヘッドセットが発表されました。
一般メディアではその価格設定($3,499:日本円で50万円弱)が注目されがちですが、IT系のメディアでは大絶賛です。特に、実機を体験できたジャーナリストの方々(日本人で今回体験できたのは10人に満たないと言われています)は「本当にすごい」「むしろ安いくらい」「久しぶりに興奮した」などと、一様に褒め称えています。ただ、必ずと言って良いほど「使ってみないとわからないが」という言葉が添えられており、言葉で説明するのは相当に難しいようです。その分、記事のタイトルが煽り気味になるのかも知れませんね。
冒頭に「ARヘッドセット」と書きましたが、AppleはVision Proを「空間コンピュータ」と呼んでおり、発表ではVR/AR/MRなどの「なんとかリアリティ」系の用語や「メタバース」という用語を使っていません。これはデバイスでは無く、コンピュータそのものなのだ、ということのようです。
であれば、3500ドルという価格設定もそれほど無茶なものではないということなのでしょう。なにしろ、処理能力では世界のトップクラスに位置するM2プロセッサが載り、4Kのディスプレイが2個ついて、自前の入力デバイス(指)で自在に操作できるわけですから。iPhone 14 proの1TB版は現在24万円なので、それが両目で2台と考えれば、妥当(??)という見方もできるのではないでしょうか。
ちなみに、皆さんお忘れかも知れませんが、Microsoftは数年前からMRヘッドセットの「Hololens」を販売していて、その価格は42万円からです。50万円でも全然大丈夫ですね。
Appleが目指したのはメタバースともWeb3とも違う、まったく新しい体験
もちろん、Vision Proを使えばメタバースへの参加やアバターを使ったコミュニケーションを行うこと「も」できます。しかし、それが主目的では無いのです。これはコンピュータですから、これまで通り仕事をし、動画を楽しみ、ゲームをし、他の人とコミュニケーションを取ることができます。それを、ARという現実世界との融合の元で行う事ができる、というのが、Appleの目指す「新しい体験」なのではないでしょうか。
Vision Proのコストを引き上げている要因と考えられる、片目4Kのディスプレイですが、体験した本田さんの話によると、ウインドウ内のテキストも鮮明に読み取ることができるということです。画面内に仮想的なキーボードを表示させてジェスチャーでタイプできるなど、Officeなどを使った業務もできるように作られていると考えられます。外部に物理的なキーボードを付けることも可能だそうですので、ゴーグルを被ってキーボードやマウスを操作する、という使い方もできそうです。一般的なVRゴーグルは外が見えないため、ブラインドタッチできる人でないとキーボードを打つことができません(ブラインドタッチできても、そもそもキーボードがどこにあるのかわからないなど、非常に使いにくいです)が、外が見えるAR/MRであればそれも容易でしょう。
思えば、iPhoneが出たときにも、それは「コンピュータ」であって「ケータイ」では無かったのです。MacOSベースの本格的なOS、アプリケーションの開発環境、フルスペックのWebブラウザーなど。そしてJobsは、世界中の通信キャリアに「パケット無制限」の契約オプションを設定させました。パケットを気にしながらコンピューティングなどできない、と考えたのでしょう。パケットを使いすぎて高額な請求に驚く「パケ死」が社会問題化していた日本においても、これは革命的なことでした。
廉価版はどうなる?
とはいえ、50万円という価格では、iPhone並の普及は難しいでしょう。今後の課題は、低価格化と小型化になります。ブルームバーグによると、Appleは来年~再来年にも廉価版を市場投入する計画があるようです。
Vision Proの日本での発売は来年後半と言うことですので、その頃には廉価版の情報も何か出てきているかも知れません。いずれにせよ、これはやはり体験してみないと何も言えませんので、どこかで体験できる機会ができることを期待しましょう。