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着実に実績を積み上げる Arm アーキテクチャ ~3大クラウドで採用

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Google Cloudが、Armベースの仮想マシンの提供を開始したということです。

Google Cloud、Ampereチップを搭載した初のArmベースのVMを発表

記事によると、「Microsoft AzureとAmazon Web Servicesに続き、同社初のArmベースの仮想マシンの提供を開始しました。」ということですので、これで3大クラウドがすべてArmベースの仮想マシンの提供を始めたことになります。

AWSは数年前からArmからのライセンスの元で独自にGravitonなどのプロセッサを設計して、それを使ったインスタンスを提供しています。MicrosoftはGoogleと同じくAmpereのチップを使った仮想マシンを4月からプレビュー提供しています。Ampereのチップは「Tencent、Equinix Metal、オラクルでも採用されている」ということですので、多くのクラウドデータセンターで広く採用されることになります。AmpereはIntelの出身者が中心になって2018年に設立された新しい会社ですが、短い期間でここまで実績を積み上げてきたのは立派です。

余談ですが、データセンターでの採用が進んでいるNvidiaの新しいGPUアーキテクチャも「Ampere」と呼ばれています。Ampereの前のアーキテクチャはVoltaで、Ampereは2020年に発表されたようで、私もこれまであまり明確に区別できていなかったのですが、今回調べてみると、片や会社名、片やアーキテクチャ名と言うことで、まったく関係は無いようです。ただ、2020年はNvidiaがArm買収を発表した年でもあり、ArmライセンシーのAmpereと何らかの関係があったのかも知れません。いずれにせよ、なんともややこしいことです。今回GoogleやMicrosoftが採用したのは「Ampere社がArmアーキテクチャをベースに開発したAltraという名前のチップ」ということになります。

computer_single_board.png数年前にArmが64ビットアーキテクチャを発表した段階で、いずれはデータセンター向けのプロセッサでもArmの採用が進むだろう、と言われていました。絶対的なパフォーマンスではIntelのほうが上(今ではAMDかも知れませんが)ですが、高密度化による排熱の問題やそれを冷却するための電力コスト、そして地球温暖化への配慮もあり、電力効率で優れるArmが採用される余地は大きいと考えられていたのです。しかしHPなどがArmベースのサーバーを発表したものの、期待に反してArmの採用は限定的でした。

これにはいくつか理由が考えられますが、ビッグデータの取扱いやAIなどの需要の急増により、依然としてデータセンターでのニーズは省電力よりもパフォーマンスにあったということでしょう。そのため、AI処理用のプロセッサやGPUの採用の方を急ぐ必要があったということだと思います。また、クラウドベンダーはそもそもサーバーベンダーのサーバーを購入しない、ということも(大手クラウドベンダーのサーバーはほぼ自社製です)あったのではないでしょうか。

それでもここへ来てMicrosoftとGoogleがAWSを追ってArmの採用に踏み切ったのは、環境負荷への影響が無視できなくなってきたことや、ウクライナ危機で電力共有そのものに不透明性が出てきたことにも原因があるのかも知れません。

マルチスレッドでは無くマルチコアを選択したAltra

Ampere AltraはArmのサーバー向けプラットフォームであるNeoverse N1をベースにしています(ちなみにAWSのGraviton2もN1ベースです)が、これは絶対性能値でも消費電力当たりの性能値でもIntelやAMDのサーバー向けCPUを上回るレベルに達しているということです。Ampereは元Intelの出身者が中心になっていると書きましたが、そこがミソで、こちらの記事では以下の様に書かれています。

Ampere AltraはIntelやAMDのサーバー用プロセッサに搭載されているSMTによる複数スレッド機能をあえて搭載せず、1コア1スレッドとなっているのが特徴です。

SMTはSimultaneous MultiThreading(同時マルチスレッディング)のことで、IntelではPentiumの頃から採用されています。Wikipediaでは以下の様に解説されています。

単一CPUで複数スレッドを同時実行することで、擬似的な対称型マルチプロセッシング (SMP) 環境を提供することができる

要は「CPUは1つしかないのに、あたかも複数あるかのように見せかける」ための技術で、本当はマルチプロセッサがいいけど、集積度やコストや諸般の事情により、あるものをうまくやりくりしてそれっぽく見せている(実際に少しはパフォーマンスも上がる)というものだったわけです。今ではマルチコアが当たり前になって、マルチスレッドの意味も薄れていますが、無いよりはあった方が良いので使われている、という感じでしょうか。

Ampereの幹部はIntel出身のため、この辺がよくわかっているのでしょう。Ampereでは潔くマルチスレッドを止めてマルチコアに集中し、それが評価された、ということではないでしょうか。恐らく、小さなタスクを大量に捌かなければならないデータセンターサーバーのような使い方では、マルチコアの方が向いているということなのかも知れません。Ampereは、プロセッサの性能がコア数に比例して向上することを示しています。(IntelとAMDのプロセッサでは比例していない)

そして、ArmはNeoverseの次のプラットフォームも発表していますが、Ampereはそれは採用せず、次期CPUはArmアーキテクチャながらも回路は自社設計になるとも言っています。これはAppleがAシリーズやMシリーズで行ったことと同じであり、Qualcommがやろうとしていることでもあります。Intelの知見が入ることで、さらに飛躍的な性能の向上があるかも知れません。今後の動きに目が離せない会社といって良いでしょう。

 

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