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IE のサポートがついに終了 ~2度と慌てないために

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先週水曜日、「Internet Explorer」のサポートが終了しました。IEはWindows95と同時にリリースされましたから、実に27年間にわたって使われてきたことになります。IT関係者であれば、IEのサポートが終了することはわかっていたと思いますが、中には「サポート終了を知らなかった」という担当者もいるそうで、ネットでは以下の記事が話題になっています。

「Internet Explorer」サポート終了に自治体「なんで急に」報道 Twitterで「さすがに草」などの声

自治体のデジタル行政推進課の職員が「何で今、急に」とコメントしたと報道されたことがネットで話題になり、「全然急じゃない」「デジタル行政推進課なのに情弱」「担当は冬眠していたのか」などと一斉に突っ込みが入ったようです。まあ、無理もありません。記事にあるように、IEのサポートが終了するのは1年前にアナウンスされています。少なくとも「急に」ということは無いはずです。

halloween_grave.pngそれどころか、Microsoftはもっと前から「IEのサポートをやめる」つもりでした。そちらのほうはIT関係者でも知らない人はいるかも知れませんが、少なくともWebシステムに関わる人であれば、かなり前から「IEは早晩無くなる」ということは見通せたはずです。

かつては差別化に役だったが、徐々にMicrosoftにとっての重荷になっていったIE

IEは1995年に登場し、OSにバンドルされたことから、当時No1シェアを誇っていたNetScape Navigatorをあっという間に逆転し、一時Webブラウザー全体の95%を占めたと言われます。(第1次ブラウザ戦争)ところがその過程で機能拡張合戦が行われた結果、Internetが定める標準機能とは異なる機能が追加されたり、同じ機能でも振る舞いが異なるなどの問題が置きました。Webサイトや企業システムは圧倒的なシェアを持つIE用に最適化を行ったため、IEでないと正常に動作しないサイト/システムが生まれてしまったのです。ある意味、囲い込みに成功したわけですが、Internetは基本的に皆で話し合って仕様を決めていくもの。Microsoftの独自仕様には厳しい目が向けられました。

その後、新たな標準規格であるHTML5への流れが生まれ、第2次ブラウザ戦争が起きます。業界全体がHTML5へ向かう中、Microsoftも戦略を転換し、2006年のIE7以降はHTML5への移行を進めました。IEはその後11までバージョンを積み重ねましたが、IEとの互換性を維持しながらHTML5への対応を進めるには限界があります。自分で蒔いた種とはいえ、IEは徐々にMicrosoftにとって重荷になっていったのです。

2015年、Windows10がリリースされ、標準のブラウザーがIEではなく新規開発のエンジンを搭載したEdgeに切り替えられました。このとき、IEのサポートは近々終了するだろうという観測が広がりました。

RIP Internet Explorer(IEよ安らかに)

MicrosoftはEdgeにIEとの互換性を持たせ、IEを引退させる計画だったと言われますが、結局それは実現されず、Windows10には新しいEdgeと古いIEが同居することになりました。この時点ではIEは生き延びたのですが、それでも寿命はあと数年だろうと考えられていたのです。

ただ、この時点でのEdgeはあまり完成度は高くなかったようで、新ブラウザーの評判は芳しくありませんでした。開発が思うように進まず、シェアも伸ばせないことから、Microsoftはついにブラウザーの自社開発を諦め、Googleが開発しているChromeのエンジンを使うことにします。この新しいEdgeは2020年にリリースされました。この時、懸案だったIEとの互換モードも搭載されています。ここまでくれば、もうIEのサポート終了への障害はなくなったも同然です。そして2021年にIEのサポート終了が正式に発表されたのです。

IEは無くなる運命だった

ここまでの経緯を見ていれば、少なくとも2020年、早ければ2015年には「IEはヤバイ」ということはわかっていた筈です。IEに依存するシステムを運用している担当者はもちろん、そのシステムを納入した業者側も、このような動きを察知して先手を打っておくべきだったのです。

とはいえ、「そんなの理想論だ」「わかっていても、どうにもならないんだ」という意見もあるでしょう。しかし、だからといって今のままで良いわけではありません。

歴史は繰り返します。WindowsXPやAdobe Flashのサポート終了の時にも、何年も前から警鐘が鳴らされてきたにも関わらず、ユーザー/業者側の対応は結局後手に回りました。(もちろんきちんと対応できた企業も多かったのですが)そして今、技術の進化はどんどん速くなっており、こういったことは今後も続く(というか、さらに増える)ことが予想されます。だからこそ、システム開発をなるべく行わずにクラウドサービスを組み合わせて利用するなどのアプローチが模索されているわけですが、今一度考えなければならないのは、計画段階でシステムにライフサイクルを定めるということです。

システムを開発する際に、「このシステムはxx年使う。それが終了したら、有無を言わせずにその時点で最新の技術を使って作り直す」ことを決めておくのです。今でも民間企業では、3年から5年のスパンでシステムを刷新するのが一般的ですが、これは主に会計処理上の問題から期間が決められており、技術革新を考えるとこれでは長すぎます。システムの用途や使用している技術によって期間を定め(数ヶ月ということもあるでしょう)、作り直していく必要があるのです。そのためには、今のやり方を変える必要があるでしょう。クラウドやアジャイル開発を最大限に活用し、業務の進め方を根底から変えなければなりません。それこそがDXということになるでしょう。

特に官公庁においては、予算システムにシステム更新のタイミングをあらかじめ組み込んでおく等の対策が必要でしょう。

 

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