Web アプリの AI 対応を加速する ORT Web
MicrosoftがORT Webを公開しました。WebAssemblyとWebGLでAIの推論エンジンを実装するものです。
マイクロソフト、WebAssemblyとWebGLで推論エンジンを実装した「ONNX Runtime Web」(ORT Web)をオープンソースで公開
「WebAssemblyとWebGLで推論エンジンを実装」と言われても何のことやらわかりませんが、これは一言で言うと、ブラウザ上でのWebアプリのAI処理を高速化する仕組みです。プラットフォームに依存しないAI環境を実現する上での重要なマイルストーンとなります。
WebAssemblyというのは、(このブログでも書いたつもりでいたのですが、書いていないようですね)WebブラウザからPCやスマホのハードウェアを直接利用できる仕組みです。何故そんな仕組みが必要かというと、Webアプリというのはハードウェアから非常に遠いところで動くため、動作が遅いからです。通常はハードウェアの上にOSが乗り、その上でブラウザーが動き、その中でJavaScriptが動いていろいろな処理を行います。
ブラウザーでの処理が遅い理由
そもそもWebブラウザーは「閲覧」のためのソフトであり、最初はその上で何か処理をする気は無かったのですが、やはりローカルで動かした方が便利なものもあり、「後付け」でスクリプトを動かす仕組みが導入されました。それがクラウド時代になると、AJAXという形で広く使われるようになります。そうなると、どんどん高速性が要求されるようになり、これまではブラウザーやJavaScriptの高速化でそれに対応してきました。それでも、ブラウザー上で動くという制約から、ハードウェアの性能を100%引き出すことは難しかったのです。
コンピュータには(スマホも立派なコンピュータです)CPUが搭載されており、さまざまなプログラムを実行します。ワープロや表計算、そしてブラウザーのようなプログラムです。最近は画像処理やAIにパワーが必要になってきたために、CPU以外にもいろいろなアクセラレータを搭載するようになっています。その代表が画像処理用のGPU(Graphics Processing Unit)であり、AI処理のためのNPU(Neural Processing Unit)などです。(AI処理用のプロセッサには他にもいろいろな呼び方があります)
ところが、ブラウザーというのは画像処理でもAI用途でもない「普通の」アプリとして扱われますから、そのままではGPUやNPUを使いません。(ほとんどの場合、その必要もありません)あったとしても、プラットフォーム毎にそれが違うようでは、個別にチューニングを行う必要があり、Webアプリの持つマルチプラットフォーム性が犠牲になります。
その一方で、今ではWebアプリケーションが扱う分野は広範にわたるようになっており、画像処理やAIも当然入ってきますし、今後それが増えていくのは間違いありません。Webアプリも、もっともっと高速処理をしたいのです。Webアプリがハードウェアの持つ機能を100%引き出せるような標準的な仕組みがあれば、ネイティブアプリの開発に人手やお金をかける必要も無く、簡単にマルチプラットフォームでの高速化を実現できます。
WebAssemblyの狙い
そのためには、普通のブラウザーでも、CPUの素の性能とか、その他の便利で高速なサブプロセッサを使いたいわけです。ハードウェアに直接アクセスできれば、ブラウザー自身の高速化にも繋がります。これを実現しようとして、主要ブラウザベンダーが開発したのがWebAssemblyなのです。Webブラウザーから、それが動いている個々のハードウェアに特有な高速化機能、CPUの素の性能を使うことができる仕組みです。わかりやすい例で言えば、3次元グラフィックスを駆使したゲームをブラウザー上で行えるようになるなどです。
この記事の冒頭で「プラットフォームに依存しない」、と書きましたが、これまで書いてきたように実はそれは半分嘘で、「プラットフォームの能力をWebアプリでも最大限に引き出すためのマルチプラットフォームの仕組み」という方が正しい言い方でしょう。今回それをONNXというAIモデルの標準フォーマットに対応させたことで、機械学習によって得られた推論モデルをブラウザ上で高速に実行できるようになり、その際には各々のハードウェア特性を活かした高速化や利便性の向上が可能になると言うことです。AIによる画像認識をスマホで行う場合、これまではネイティブアプリを作らなければなりませんでしたが、それがWebアプリを作るだけでそのハードウェアの性能を活かしたAI処理を行うことができるようになるのです。
Webアプリをひとつ用意するだけで、ハードウェアが高速な機種では高速に、そうでない機種であればそれなりに動く、ということが実現できます。大きな流れで言えば、エッジコンピューティングへの道のりの中にWebAssemblyも組み込まれているという見方もできるでしょう。
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