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拡大する 2 つの PaaS

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IDCが国内のPaaS市場の予測を発表しました。それによると、2025年までの間、年率20%以上の成長が見込まれるようです。

国内PaaS市場、2025年まで20%台の成長続く--IDC予測

そのPaaSですが、今回のIDCの調査では「アプリケーションPaaS」と「インテグレーションPaaS」の2つに分けて成長率を予想しています。アプリケーションPaaS(aPaaS)やインテグレーションPaaS(iPaaS)という言葉は以前からあったものですが、この2つを対比させているのはあまり見ません(私が見落としていただけかも知れませんが)。aPaaSは数年前からガートナーが言っていたと思いますが、その後それほど見かけることは無かったので、言葉としてはあまり普及していないイメージでした。それがIDCでも使われるようになったということは、これらの対比に一定の意味が出てきたからなのかも知れません。

これらの違いとしては、aPaaSは従来からのPaaSで、iPaaSはaPaaSやその他のクラウドサービス、そしてオンプレミスをも連携させるための基盤となるPaaSということのようです。なんだかややこしいですね。こちらの「SaaS for SaaS」という説明は、なかなか的を射ているのではないかと思いました。

SaaS市場拡大で伸びる「SaaS for SaaS」という新領域

kumiawase_business.png元々PaaSというのはクラウド特有のサービス形態です。以前にも書きましたが、クラウドと言う言葉が生まれる前は、SaaSはASP、IaaSはホスティングなどと呼ばれていたものです。しかし、PaaSに類するサービスはクラウド以前には無かったのです。

SalesforceのAPI公開がきっかけとなったPaaS

Salesforceが持つ機能をAPIレベルで顧客に開放したForce.comがPaaSの始まりとされます。Salesforce自体が最初のSaaS企業と言われていますから、そこから派生したPaaSはクラウドの申し子と言って良いでしょう。PaaSはその後、アプリケーションではない、アプリケーションを構築するための機能を提供するサービスとして多様化してきたのです。

私は、顧客がSalesforceにAPIの公開を求めたのは、Lotus Notesのマクロのような機能(あるいはExcelのマクロ)を必要としていたからではないかと考えています。Lotus Notesはグループウェアの走りですが、これが受け入れられた背景には強力なマクロ言語があったためと言われています。グループウェアというのは、メールや会議室、データベースを共有する仕組みですが、その中にワークフローを管理する仕組みが入っていました。そのため、社内の申請や承認などをオンラインで行うことができたのです。そのためには、組織のレポートラインなどの「組織図」的な情報が入っていなければなりません。そして、これを使うことで、会議室予約のようなアプリケーションを作ることができます。Lotus Notesは、強力なマクロ言語を提供することで、グループウェアの持つ機能を利用して、会議室予約とか交通費申請のような、それまではできなかった「ワークフロー」をオンライン化することができ、その機能がユーザー企業に受け入れられたことで普及の一因となったと言われています。

つまりは、グループウェアやSFAのような多機能で堅牢なシステムの一部の機能を使い、それらを組み合わせて日常の業務で使いやすい小型のアプリを作ることができる機能、それがマクロであり、今のPaaSに繋がっていると言うことです。元々はエンドユーザーのための機能だったのですね。

ただその結果、Lotus Notesのマクロを使って社内のさまざまな業務が自動化されまくったところまでは良かったのですが、逆にそのせいでLotus Notesを使い続けなければならない、という状況が発生し、一部の企業では高額なメンテナンス費を払い続けなければならなくなっている、という話も聞きますが、これは余談 ^^;

これから面白くなるPaaS

IaaS、PaaS、SaaSは「クラウドサービス」として一緒くたにされますが、これらは本来別々に考えられるべき存在なのではないかと思います。これらは元々、ハードウェア、ミドルウェア、アプリケーションに相当するもので、それらが同じ土俵で比較されることはありませんでした。誰も、MicrosoftとDellの売上やシェアを比較しようとは思わないでしょう。この辺は、今後変わっていく可能性があります。今回IDCがPaaSの中でaPaaSとiPaaSを分けたのも、PaaS内でもう少し詳細を見ていこうという、良い兆しなのかも知れません。

IaaSというのは、結局はハードウェアの機能を以下に安定的に、安全に、安価に提供できるかが勝負ですので、ベンダー間の技術レベルによる差別化は行いにくい分野です。最終的にはデータセンターの規模や自動管理の手法が決め手になりますので、先行するAmazonに追いつくのは容易ではありません。Microsoftはなんとかなるでしょうが、その次のGoogleですら危うい状況と言われます。日本のクラウドベンダーなどはコスト面では太刀打ちできないでしょう。(日本は「きめ細かい」サービスが求められますので、その辺が他のマーケットと違うと思いますが)

一方のSaaSは、アプリケーションの総合的な使い勝手やシェアなどが問われる分野で、これも先行するSalesforceやMicrosoft、Adobeなどに対抗するのは至難の業といえます。

PaaSは、他社に使って貰いやすい部品を提供する分野ですので、まだまだ技術革新の余地がふんだんに残されており、だからこそ、年率20%という高い成長が見込まれているのでしょう。これからは、安いIaaSを使い、PaaSを組み合わせてアプリケーションを作って自社で利用/他社へ提供、という構図が一般化しそうです。

 

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