IBMのNotes売却:グループウェアはどうなる?
IBMが、Notes/Dominoを含む複数のソフトウェアを、18億ドルでインドのHCLに売却するということです。
NotesとDomino以外に売却される製品は、Appscan、BigFix、Unica、Commerce、Portal、Connectionsということですが、以下の記事によると、Unica、Commerce、Portalはオンプレミス版ということです。
HCL Technologies to Acquire Select IBM Software Products for $1.8B
IBMといえば、10月末にLinuxディストリビューターのRed Hatを340億ドルで買収すると発表したばかりです。TechCrunchはRed Hatの買収でお金を使ったからキャッシュが欲しいのだろう、と書いています。まあ、それもあるのでしょうが、Red Hatを買収してこれからはクラウド企業になる、と言ったわけですから、オンプレミスのソフトを整理するのは自然な流れとも言えます。Notesも元々はオンプレミスのソフトですし、まだオンプレミスで使っているところも多いのではないでしょうか。TechCrunchの記事では、NotesのユーザーはEMEA/APACに多いと書いていますが、裏を返すと、IBMのお膝元であるアメリカでは少なくなっていると言うことなのでしょう。
しかし、調べてみたら、既に昨年、Notesの開発についてHCLと提携していたのですね。
IBM、来年Notes/Dominoの新版「バージョン10」リリース。今後はインドのHCL Technologiesとの戦略的提携による開発へ
今回、完全にIBMの手を離れたということですね。それどころか、Tivoli、RationalはNotesより前に共同開発の提携を行っているということなので、ずいぶん前から製品ラインナップの整理が進んでいたようです。
グループウェアは時代遅れなのか?
Lotus Notesが登場したのが1989年ですから、まだインターネットの利用は本格化していない頃です。(IIJが国内でサービスを開始したのは1993年ということです)インターネット以前の電子メールは、電話回線を使ったバケツリレー方式で配信されていました。当然リアルタイムで送受信できるわけでは無く、夜中の電話料金の安い時間帯にサーバー同士が電話を掛け合い、メールやファイルを送受信するというのが一般的だったと思います。そのような時代に、電子メールとファイル共有を統合し、低速な回線でも夜中に様々な情報を同期してくれるグループウェアの存在はありがたかったわけで、お金のある大企業を中心に導入がすすみ、今も多くの企業が使い続けているということでしょう。逆にインターネット時代になるとグループウェアのメリットは薄まっていったはずで、Notesと同じ事が、もっと速く、もっと便利にできるはずです。
Notesが未だにEMEA/APACで使われているというのは、未だに通信回線が低速で不安定な地域が多いということなのかも知れません。その意味では、Notesのようなグループウェアが必要とされる地域がある一方で、通信環境が良くクラウドへの移行が進んでいるアメリカなどでは、Notesを新規に導入するお客さんは少なくなっているのでしょう。それがIBMの決断を後押ししたのかも知れません。
やめられないNotesのスクリプト
初期にNotesを導入した企業の多くが今でも使い続けているようですが、それには理由があります。Lotus Notesはグループウェアであり、同時にアプリケーションの開発プラットフォームでもあったのです。Notesには、オフィスの定型業務を自動化するLotus Scriptというスクリプト言語が搭載されていました。
このスクリプト言語が非常に強力で、少しプログラムができる人であれば、会議室の予約システムとか、交通費の申請システムのようなものが簡単に作れるのです。Notesを導入した企業では、ユーザー部門がこれを使って様々なプログラムを書き、それを便利に使っているため、やめたくてもNotesをやめられない、という状況に陥っているという話はよく聞きます。
NotesのスクリプトはPaaSの先祖
Notesのスクリプトがここまで受け入れられたのは、企業に「ユーザー部門で簡単に業務アプリを作りたい」というニーズが昔からあったことを示しています。しかしNotesは昔も今も高価で、中小企業ではなかなか導入できません。そのニーズを埋めたのが何かというと、Excelなどのオフィスソフトのマクロでした。経理部門などでExcelを使って集計を行っているというような話をよく聞きます。しかし、Excelのマクロでは、ある程度のことはできても、Notesとは違ってユーザー管理とか権限管理、アクセス権管理などが無いため、少し高度なことはできません。
1999年にSalesforceがサービスを開始し、ユーザーが増えていった結果、Salesforceの機能を使って業務アプリを作りたいという要望が出てきました。これを受けてSalesforceのAPIを公開したのがForce.comであり、これが世界初のPaaSと言われています。Salesforceはユーザーデータベースを持ちアクセス管理も行えることから、Notesのスクリプトと似たような事ができたのです。この後PaaSという分野が確立され、Force.com以外のPaaSが発展するにつれ、Notesの優位性も薄らいでいく結果となったのでしょう。
グループウェア自体がすぐに無くなるかというと、通信回線やユーザーニーズの面から地域的な要因が大きいと言えるでしょう。日本でもサイボウズなどが人気ですし、インドなどの新興国地域では今後まだまだニーズはありそうです。HCLもそれを考えて買収に踏み切ったのだろうと思います。