ブロックチェーンのもうひとつの活用法:Verifiable Credentialsとは
ブロックチェーンについては、だいぶ前から追いかけてはいるのですが、このところブログで取り上げる頻度は落ちていました。派手な動きでは無く、地道な実装/PoCが主流になってきているということでしょうか。今調べたら、このブログでの最後の投稿が2019年の6月ですね。Libraが発表され、大騒ぎになった頃です。Libraはその後各国の通貨当局が懸念を示し、一時は存続が危ぶまれましたが、今では名前を変えて生き残っています。ただ、当初の計画とはだいぶ違ったものになりそうです。
Libraを抑えこんだ一方で、各国の通貨当局は独自のデジタル通貨発行に動いています。結局、通貨(国家権力の源泉ともいえます)のコントロールを民間企業に取られたくなかったのでしょうね。ただこれらは、必ずしもブロックチェーンの利用を前提としたものではなく、ブロックチェーンの動向とは分けて考えるべきでしょう。(エルサルバドルがビットコインを法定通貨に採用するなど、それはそれでこの分野は面白いのですが)
さて。上にも書いたように、ブロックチェーンは適用分野を着実に広げています。つい先日も「NFT」が注目を集めましたが、仮想通貨以外の分野での利活用が期待を集めています。政府機関も引続き並々ならぬ興味を持っているようで、つい先日も経産省がブロックチェーン・ワークショップなるものを開催していました。
このように、さまざまな分野でブロックチェーンの活用の可能性が模索されているわけですが、GAFAなどのプラットフォーマーは、いまひとつ冷淡だったように思います。もちろん各社とも、ブロックチェーンのマネージドサービスなどを提供していますが、それは「これを使ってみんな、何か新しいことを考えてね」というスタンスであって、実際に自社のサービスに使うといったことはなかったと思います。
ところがここへきて、Amazonが仮想通貨による支払いを検討しているのでは、という記事が出てきました。
まあ、「デジタル通貨とブロックチェーンのプロダクトリーダー」の求人広告を出しただけなのですが、Amazon(とその新社長のアンディ・ジェシー氏)これまでブロックチェーンサービスは提供していても、実用性については否定的だっただけに、この動きには注目が集まっています。クラウドサービスの提供者では無く、ECサイトの運営会社として、決済方法に仮想通貨を使おうという動きだからです。もともとECとは相性が良いと考えられる仮想通貨をAmazonが採用すれば、仮想通貨の利用が一気に広がる可能性もあります。そして、そこはAmazonですから、単にビットコインでの支払いを受け付けるだけ、というわけではないでしょう。(それだけならすぐにでもできます)専門家を求めるということは、何か他の利用方法も考えているのだろうと思います。どのような展開になるのか、楽しみですね。
Azure AD VC
調べてみると、3月にはMicrosoftもブロックチェーンについての発表を行っています。
Azure Active Directory verifiable credentialsは、その名の通りAzure ADの機能を強化するもので、ブロックチェーンを利用した身分証明です。Verifiable Credentials(VC:検証可能な資格情報)自身は別にMicrosoftの発明品では無く、Web標準化団体であるW3Cが提唱した業界標準技術であり、Azure Active Directory verifiable credentialsはそのMicrosoft版の実装と言うことになります。
この手のテクノロジーはとにかく説明が難しいのですが、上のリンクからわかりやすそうな部分だけを抜き出してみましょう。
例えば、ジョブマッチングサービスなどで相手の学歴がハーバード大学卒と書いてあっても、その情報を書き込んだのが相手本人の場合、信憑性に欠けます。虚偽かもしれませんし、「少しの間公開授業に出ていた」レベルかもしれません。
ありがちなパターンのように思えます。本人が言っているというだけで信用するわけにはいきませんよね。少し前にも芸能人の学歴詐称が問題になりましたが、これなどは本人の主張をそのまま肩書に使っていたということでしょうから、疑いすら持たなかったと言うことでしょう。
しかし、その情報がハーバード大学と紐付いていることを即時に検証できる仕組みがあれば、安心してスムーズな人材採用を行えます。
普通は、ハーバード大が発行した証明書を出せ、とか、ハーバード大に問い合せて「本当にこの人はおたくの大学を卒業しましたか?」ということになります。しかし、これは相当に面倒くさいです。証明書は偽造できるかも知れませんし、いちいち問い合せられたら大学側も大変でしょう。それならばシステムにしてしまえ、ということになりますが、大学毎にシステムが違ったりするとこれも面倒です。そこで、共通の手続きを決め、みんなでそれを実装することでどんな証明書も同じプラットフォームで扱えるようになる、というのがVCの目的です。だからこそ、標準化団体であるW3Cが主導しているのです。
証明書の流通などは、ブロックチェーンが注目を集め始めた頃から期待されていた分野ですが、やっと実際の活用へ向けた具体的な動きが出てきたということでしょう。Microsoftはいち早くそれを自社の認証基盤であるAzure ADに組み込んだと言うことですが、これは認証基盤をクラウドの中核に据えていこうというMicrosoftの戦略に沿ったものと言えるでしょう。今後さまざまな認証基盤がこれをサポートするようになれば、仮想通貨以外でのブロックチェーンの活用へ向けた起爆剤となることが期待されます。
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