結局、IBMは変われないのか? ~ホワイトハーストが退社することの意味とは
IBM社長のジム・ホワイトハースト氏が退任するとのニュースがありました。
ホワイトハースト氏はRed Hatの元CEOで、2018年にRed HatがIBMに買収された折には、ゆくゆくはIBMのトップになるのでは、と噂された人です。その後、買収完了後の2020年4月にIBMの社長に就任しました。メインフレームからの脱却とクラウドへの移行に遅れたIBMを、立て直すことができるのではないかと期待されていた人です。
ホワイトハースト氏は、その深い業界知識と、Red Hat時代に培われたオープンソースコミュニティの信頼を武器として、IBMの変化を推進する絶好の位置につけていたことは間違いない。彼は、簡単に代わりを見つけられるような人物ではないし、今日の発表も後任については触れていない。
この中で、「ジムはIBMの次のCEOだと思っていた」という話が出てきますが、実は今のIBMには「CEO」と「President」の2人が居るのです。ホワイトハースト氏はPresident(社長)で、CEO(経営最高責任者)はIBM出身のクリシュナ氏(正確には会長兼CEO)なのです。どちらでも似たようなもののように思えますが、要するにクリシュナ氏の方が偉い、ということですね。このあたりに、今回の突然の退任劇の伏線があったのではないかと思います。
後述するように、IBMがRed Hatを買収する際に、ホワイトハースト氏がCEOになるだろうという話がありました。IBMはここ10年近く毎年売上を落としており、先行きが不透明な状況が続いていました。これまでとは違う、思い切った経営改革が必要とされていたのです。そこで、340億ドルという巨額買収に打って出た、というのが一般の見方です。外部からは、これまでのようにIBM出身者がトップになるのではクラウドの時代に対応できない、オープンソースの旗手であるRed Hatを買収し、新しい発想と才能の元で経営の舵取りをしてもらえば良い、と見られていたのです。
ホワイトハースト氏もそれを了承(あるいは期待)していたのではないでしょうか。ところが、
IBM取締役会は、結局ホワイトハースト氏ではなくクリシュナ氏を会長兼CEOに選んだのです。この辺の経緯はわかりませんが、ホワイトハースト氏は、やはり自分がトップとしてIBMの改革を行いたかったのではないでしょうか。アメリカの会社で、No1とNo2では権限も発言力もまるで違います。思う存分改革を行うのであれば、No1でなければとても実現できません。それでなくても大変な仕事なのです。
クラウドWatchの記事では、
ホワイトハースト氏の「もう一度CEOとしてやりたいが、IBMでは実現しそうにない」という言葉を紹介しています。私は、これが本音なのだと思います。本当はCEOだと思っていたのが、そうではなかった、将来なれるかというとそれも怪しいと判断したということでしょう。IBMではCEOといえど60歳前後で退任するのが習わしなのだそうで、ホワイトハースト氏は現在54歳、クリシュナ氏が59歳です。クリシュナ氏の退任を待ってCEOになったとしても、CEOで居られる期間は短いと考えたということのようです。
ちなみにこの記事でも、「Barron's、Wall Street Journalなど多くは、Rometty氏のCEO退任時に、Whitehurst氏がCEOと目されていたにもかかわらず、取締役会はKrishna氏を選んだと伝えている。」と書いています。取締役会がIBM出身者に拘った結果、今回の騒動に至ったのだとすると、責任は重いとしか言いようがありません。
IBMはどうなるのか
ホワイトハースト氏の退任により、IBMが社運を賭けた買収の戦略を練り直す必要があるのは間違いありません。クラウドWatchの記事に、『「IBMがRed Hatになる」のか、「Red HatがIBM」になるのか』という下りがありますが、今IBMにとって問題なのは、まさにこの点なのです。この買収は、「IBMがRed Hatになる」ための買収だったはずで、ホワイトハースト氏の退社により「Red HatがIBMになる」ようでは、無意味などころか、Red Hatにもダメージを与えてしまうでしょう。
IBMがRed Hatを買収した当時、私もこんな記事を書きました。
IBMには、「IBM的な考え方」を払拭し、クラウド時代へ頭を切り替えてくれるリーダーが必要だったのです。初心を忘れてしまったIBMが、今後ホワイトハースト氏に代わる人材を社内から発掘することはできるのでしょうか。
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