オルタナティブ・ブログ > Mostly Harmless >

IT技術についてのトレンドや、ベンダーの戦略についての考察などを書いていきます。

デジタル庁重点計画の「本気度」は?

»

先週末に、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されたということです。デジタル庁(準備中)のWebサイトに全文が掲載されています。

「デジタル社会の実現に向けた重点計画」を閣議決定しました

5月にデジタル庁の創設法案が可決されたことを受けて、早速本格的な情報発信を始めたということでしょう。このスピード感は、非常に大切だと思います。まあ、デジタル庁構想が発表されたのが昨年9月ですから、ここまででも結構な時間がかかっているわけで、アメリカあたりならもっと早かったのだろうと思いますが、それでも日本としては頑張った方かなと思います。

gengou_document_reiwa.pngこの重点計画は、本文だけで120ページ以上もあり、とにかく現時点での国内のデジタル化に関する懸念や取り組みを全部詰め込んだ感じです。本当に全部やるつもりなの?と思ってしまいますが、まずは「政府として課題は認識している」ことを示すという意味もあるのでしょうね。目標を高く掲げて全体的な方向性を示すのは良いことだと思います。今後、優先度を付けて対応していくということになるのでしょう。

全体的に、かつての電子政府のときのようにいまひとつ具体性に欠ける未来を語っているのではなく、個々の項目が非常に具体的で、現状の課題と目標がきちんと整理されていると思います。とりあえずこの資料は、日本が置かれている状況と課題、そして取り得る策を網羅的にまとめているという点で、非常に有用だと思います。民間企業にとっても、今後のDXへの取り組みの指針を考える上で役に立つでしょう。

網羅的にバランス良くまとめられた問題意識

なんといっても、目次だけで2ページありますから、それを載せるだけでもブログが終ってしまいます。メインの「第2部 デジタル社会の形成に向けた基本的な施策」の中の、本当に大項目だけを抜き出してもこれだけあります。

1.デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及
2.徹底した UI・UX の改善と国民向けサービスの実現
3.包括的データ戦略
4.官民を挙げたデジタル人材の育成・確保
5.新技術を活用するための調達・規制の改革
6.アクセシビリティの確保
7.安全・安心の確保
8.研究開発・実証の推進

「1.デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及」の最初が「(1)マイナンバーカードの普及、マイナンバーの利活用促進」です。コロナ禍で大きな話題になった部分でもあり、かねてより普及速度が遅いと問題視されていましたから、これは当然でしょう。

その他には、「2.徹底した UI・UX の改善と国民向けサービスの実現」に含まれる小項目は10個と最も多く、ページ数も最多(20ページ)が割かれています。この辺が政策の要になっていくのでしょう。そして、人材育成、セキュリティ、調達など、まんべんなく拾い上げているという感じがします。あとは、これらにどのような優先度と予算を付け、既存官庁とどこまで協力できるかが鍵になって行くのだろうと思います。

気になった点とは

全体的にはよくできた基本計画だと思いますが、気になる点もあります。ひとつには、大風呂敷を広げすぎてしまって、本当にどこまでできるのか、という点。もうひとつは、実現可能性を重視するあまり、問題の本質に向き合っていない可能性があることです。たとえばマイナンバーカードですが、私もカードの普及促進自体には賛成ですが、そもそもカードの仕様(番号を人に見られてはいけないのに表面に記載されている、とか)自身がバグっており、これをなんとかする方が先ではないかと思っています。しかし、既に発行してしまった分もあるので、難しいのかも知れませんね。このまま普及を進めても、本来の効果をどこまで期待できるのか疑問です。

そして、あちこちに出てくるこの言葉です。

「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」

まあ、国の政策の基本として掲げるわけですから、「着いてこられない人は置いていく」とは書けないでしょう。しかしITというのは、使う側の努力がなければ成立しないという側面もあるわけです。このあたりは、必要な教育を提供した上で、適切な自助努力も同時に求めていくというのが良いのでは無いかと思います。(追記:もちろん高齢者向けなど、最低限の手当は必要と思います)

懸念も疑問もありますが、良いスタートだと思います。これからこれらをどのように実現していくか、期待とともに注目していきたいと思います。

 

ITの最新トレンドをわかりやすく解説するセミナー・研修を承ります

figure_question.png時代の変化は速く、特にITの分野での技術革新、環境変化は激しく、時代のトレンドに取り残されることは企業にとって大きなリスクとなります。しかし、一歩引いて様々な技術革新を見ていくと、「まったく未知の技術」など、そうそうありません。ほとんどの技術は過去の技術の延長線上にあり、異分野の技術と組み合わせることで新しい技術となっていることが多いのです。

アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや研修を行っています。ブログでは少し難しい話も取り上げていますが、初心者様向けにかみ砕いた解説も可能です。もちろんオンラインにも対応できます。詳しくはこちらをご覧下さい。

BCN CONFERENCEでの基調講演が記事化されました

Comment(0)