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コンテナの普及に乗り出したIBM

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先週、日経新聞のサイトにこんな記事が出ていました。

日本IBM、クラウド技術の検証を後押し

見出しだけではわかりませんが、記事には「国内のシステム構築会社やソフト会社などを対象に、IBM製のコンテナ基盤システムを無償で提供する」とあり、コンテナ関連の記事のようです。もう少し背景を知りたくなり、IBMのリリースを直接読んでみました。

日本IBM、「コンテナ共創センター」を立ち上げ 国内SIer/ISVのコンテナ利用拡大目指す

このリリースによると、国内のSIerやISVにコンテナを使って貰うべく、「コンテナ共創センター」を4月1日に立ち上げるということです。その理由として「日本企業がデジタル・トランスフォーメーションを推進する上で、クラウドネイティブ技術の中核となるコンテナの利用拡大は必要不可欠」とし、さらにこう続きます。

一方、企業にソリューションやソフトウェアを提供するSIerやISVでは、一部のパブリッククラウド利用を除いては、従前のハイパーバイザー型の仮想化技術が採用されることが多く、コンテナ型の仮想化技術の採用が十分に進んでいないのが現状です。

IBMはRedHatを買収して以降、RedHatの持つコンテナプラットフォーム「OpenShift」をビジネスの中核に据え、様々なソリューションを発表しています。しかし、日本では思ったほどコンテナの利用が拡大していないのかも知れません。この発表からは、なかなかコンテナの利用が進まない日本市場(SIerやISV)への危機感が感じられます。そもそも、冒頭の日経の記事がタイトルに「コンテナ」を入れていないのも、日本では一般のビジネスマンへの「コンテナ」という言葉の浸透がまだ進んでいないことを示しているとも考えられます。

boueki_container_yard_terminal.png新しければ良いというものではない、しかし。。

ただ、コンテナに限らず、新しい技術に飛びつくエンジニアも多い中、日々の運用に責任を持つ堅実なエンジニアであればあるほど、移行には慎重にならざるを得ないという事情もあるようです。

Kubernetes、やめました

この方は、Kubernetesを試してみて、良いところも認めながらも、Kubernetesでできることは、VMやこれまでのIaaSでできることと変わらないのでは?という疑問を持ちます。そして、

Kubernetes 自体はしっかり理解するならば、かなり学習コストが高い部類になる

できることが同じであれば、実績のある(使い慣れた)技術を使う方が良い、と思うのは至極もっともな話でしょう。それを凌駕するだけのメリットや将来性、あるいはその他のプレッシャーが無い限り、移行へのインセンティブは働きません。

恐らく、その場合のメリットというのは、開発・運用レベルでは無く、経営レベルにあるのでしょう。この方も書かれているように、「インフラ費用が半分になる」なら、やる意味はあるのですよね。それが曖昧では、リスクが大きすぎると言うことです。経営層のビジョンと覚悟、明確な見通しが無ければ、現場としては怖くて手を付けられません。DXとは、それくらいの変革を必要とするものなのである、ということではないでしょうか。

マルチクラウドから分散クラウドへ

最近のIBMの発表で少し気になっていたのが、「マルチクラウド」という言葉を使わなくなったことです。RedHatの買収を発表したときには、「ハイブリッド・マルチクラウド」を目指すとしていましたし、買収が完了した直後の2019年8月に発表されたCloud Pakにも、IBM Cloud Pak for Multicloud Managementというアプリケーションスイートがあります。しかし最近の発表では「ハイブリッドクラウド」ばかりが目立ち、マルチクラウドという言葉はほとんど見かけません。

今回、コンテナ共創センターのリリースを読んでいると、「分散クラウド」という言葉が出ていました。あれ?何時からこんな言葉使い始めたのかな?と思って調べてみたら、どうも最近のようですね。

分散クラウド、ご存知ですか?

「分散クラウドは、2021年にグローバルで最も注目されている最新テクノロジー・トレンドの中で代表的なもののひとつです。」ということで、どうもIBMは今年はこの言葉を流行らせたいようです ^^; 昨年5月に発表されたIBM Cloud Satelliteあたりから使われ始めた様です。当時はベータとしての提供で、昨年の10月までには正式サポートと言っていたのですが、実際にはスケジュールが遅れ、先週(3月1日)からの提供となったようです。そのタイミングで、共創センターなどの発表も行なったということですね。今後はマルチクラウドでは無く、分散クラウドを使うのかも知れません。分散クラウドも実質的にはマルチクラウドの概念を含んでいそうですが、よりハイブリッド寄りの意味づけがされているようです。

IBMは、買収後もRedHatの中立的なイメージを壊さないよう細心の注意を払っています。この微妙な変化は、マルチクラウドを謳うRedHatとの差別化を図る意図なのかも知れません。

 

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BCN CONFERENCEでの基調講演が記事化されました

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