コロナ禍であぶり出される「ブルシット・ジョブ」は、DXの起爆剤となるか?
「ブルシット・ジョブ」という言葉があるそうです。
ブルシットの直訳は「牛の糞」ですが、英語圏のスラングで、人を罵倒するときに使われます。「糞野郎!」といった感じでしょうか。「でたらめ」とか「うそ」という意味もあるようですね。
自分の仕事には意味がない。世のため人のためにもなっていない。コロナ禍の中で、そんな事実にふと気づいてしまった人たちがいる。見渡せば、世間はそんな「クソどうでもいい仕事」ばかりで......。
記事の中で「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」(デヴィッド・グレーバー著、岩波書店)という本が紹介されていますが、訳者の方によると、著者はブルシット・ジョブ(BSJ)のことをこう説明しているそうです。
「BSJとは、あまりに意味を欠いたものであるために、もしくは、有害でさえあるために、その仕事にあたる当人でさえ、そんな仕事は存在しないほうがマシだと、ひそかに考えてしまうような仕事を指している。もっとも、当人は表面上、その仕事が存在するもっともらしい理屈があるようなふりをしなければならず、さらにそのようなふりをすることが雇用上、必要な条件である」(なぜ「クソどうでもいい仕事」は増え続けるのか?)
まあ、よく見かける光景ではあります。日本に固有のものかと思っていましたが、海外にもあるのですね。全然関係ありませんが、検索してみたらダイニングバーでブルシットという名前を付けているお店が何軒かあるようです。わかって付けてるのかなあ。。
日本の生産性向上の鍵?
世界的な問題だとしても、日本ではBSJが突出して多い、あるいはなかなか撲滅しづらいとというようなことは無いのでしょうか。日本のホワイトカラーの生産性が海外に比べても低いことの背景に、日本固有の理由があるのかも知れません。たとえば終身雇用制や年功序列制は、こういった要らない仕事の温床になっている可能性があるとも考えられます。
逆に考えれば、日本には生産性向上の無限の可能性が残されているとも言えます。昨今RPAがもてはやされ効果を上げているのも、元が非効率すぎたために、ちょっとした改革でも大きな成果が得られるからではないでしょうか。RPAは海外よりも日本での盛り上がりの方が凄いと言われています。
DXへの思わぬ起爆剤になるのか?
コロナ禍で皆が急激にリモートワークへ移行した結果、こういったBSJがあぶり出されてきたというのは、思わぬ効果かも知れません。これまでは「薄々感じていた」とか「何か変だな」と思っていた人がほとんどだったでしょうが、「見えてしまった」からには、なんとかせざるを得ないという動きが起きるかも知れないからです。リモートワークへの移行ががゆっくりとしたものであったら、BSJはその間に形を変え、あるいはそれほど人目に付かなかったかも知れません。押印なども、いきなり「見える化」されてしまったために急激に廃止の方向へ追いやられているとも言えます。
これまで、EAだのBPRだのといった「理想的なビジネスプロセスを見つけ出す」アプローチがもてはやされた時期がありましたが、結局は不合理なプロセスを駆逐するまでには至りませんでした。これらは世界的にも失敗例は多かったのですが、日本では現場の抵抗もあって進まなかったとされます。日本でERPが想定した効果を上げられていないのは、ここに原因があったとも言われます。
最近のRPAに至っては、不合理なプロセスを無くすことを諦めたソリューションにすら見えます。しかし今回、誰の目にも無駄が明確に見えてしまったことで、今後それを排除する方向に企業が向かうのだとすれば、これは立派なDXへの道筋となります。リモートワークの思わぬ成果と言えるのでかも知れません。
昨年はリモートワークへの移行を「DX」として持て囃す時期がありましたが、私はそれには懐疑的でした。RPAもリモートワークも、ビジネスプロセスの改革を伴わない「外形的」な変化でしかない、と思っていたためです。しかし、リモートワークがBSJを可視化するということには気がつきませんでした。そう考えると、RPAでもビジネスプロセスの洗い出しをしますから、BSJを発見できるチャンスはあるわけで、プロセス自身の見直しに繋がる可能性はあるのかも知れません。
BSJ排除に抵抗する「闇の勢力」?
リモートワークに移行できずにいる企業もまだまだ多いですが、今回の緊急事態宣言で問題視されていたのが、昨年の緊急事態宣言時にリモートワークへ移行した企業が、解除後にはすぐに通常の勤務に戻ってしまったということがあったと言われますし、今回の宣言中にも行政はさらなるリモートワークの推進を訴えていましたが、あまり進まなかったとも言われます。これなどは、BSJが明るみに出ることを恐れる闇の力(笑)が働いたとみるのは、うがち過ぎでしょうか?
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経済産業省のレポートで触れられた「2025年の崖」が話題になっています。多くの企業がこれに取り組み、乗り越えようとしていますが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の全体像が掴めず、有効な策を打ち出せずにいる企業も多いのではないでしょうか。バズワードに惑わされず、本質を見極め、自社にとっての最適な道筋を見つけるためには、DXの成り立ちや未来へのトレンドについてを理解しなければなりません。
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