iPhone12、5Gのミリ波対応が米国に限定されたのはアレが間に合わなかったから?
かねての噂通り、10月13日(現地時間:日本では14日早朝)にiPhoneの最新機種である12が発表されました。
ラインナップやスペックは事前のリークとほぼ同じでした。昔はAppleの発表は徹底的な秘密主義で、サプライズを演出したものですが、様変わりですね。ネットには、発表は「答え合わせだった」などという人もいます。ただ、5G対応についてはそもそも事前の情報も錯綜していましたし、予想を裏切られた人も多かったようです。
「ミリ波」なんていう言葉、初めて聞いた人も多いのではないでしょうか。あちこちに説明があるのでここでは省きますが、要するに5Gの最高速度はミリ波で無いと出せないのに、ミリ波を使った通信ができるのは米国向けモデルのみということです。5Gといいながらフルスペックでは無い、これでは看板に偽りありではないか、というわけですね。
事前情報では、ミリ波対応が一部の機種・地域に限定される可能性は指摘されていました。
この9月初旬の記事では、
ニュースサイトFast Companyの9月3日の記事によると、新たに発表されるiPhoneのうち、最速の5G通信に対応するのは最上位機種の「Pro Max」のみで、しかも一部の国限定になるという。さらに、「Pro」に関しては一般的にミッドレンジの5G端末で用いられている、低いグレードの5G通信のみに対応するという。
と書かれています。結果としては、全機種5G対応だが、「最速の5G」に対応したのは「一部の国」(アメリカ)だった、ということですね。アメリカのユーザーにとっては良かったと言えます。
ミリ波なんてまだまだ飛んでいない
ただ、記事中にもありますが、日本を含め、世界のほとんどでは、5Gのミリ波なんてまだまだ整備されていません。
164カ所って、空港や駅前など、本当に限られたところでしか使えないのです。この先カバーエリアは広がるでしょうが、ミリ波というのは直進性が高く、電波が障害物を回り込んで届かないため、アンテナが見える場所でしか使えませんから、4Gのように「どこでもミリ波が使える」という状況には恐らくならないでしょう。そういう意味では、スマホ側がミリ波に対応するのはまだ1-2年くらい後でも実質的に困ることは無いと言えます。Appleが今年のモデルでとはいえ、今後は使える場所が増えるでしょうから、対応しているに越したことはありません。
ミリ波限定はアンテナが足りなかったから?
ネットでは、ミリ波対応がなぜ米国に限られたのか、ということについてさまざまな考察がなされています。
この記事では、全機種ミリ波に対応しているにもかかわらず、ミリ波のアンテナが装備されているのはアメリカ版だけなのです。つまり、今後ミリ波の環境が整備されたとしても、今年のモデルではその恩恵を受けることはできません。
上の記事ではミリ波対応がアメリカに限定されたのは、アンテナ設計の難しさとアメリカのキャリアからの要望が強かったためとしています。まだ実物を見ていませんが、デザイン的な問題もありそうですね。
私はそれに加え、ミリ波用アンテナに供給上の問題があったのではないか、と考えています。
それというのも、今年の2月にAppleは5G用のアンテナモジュールについて外部(Qualcomm)からの調達に頼らず、自社開発する方針を打ち出していたからです。
記事には「Appleが新型iPhoneに求めている洗練されたデザインに適合しないため」とあります。別の記事によると、Qualcommのモジュールを使うと本体が少し厚くなってしまうのだとか。
以前、
というエントリを書きましたが、Appleは脱Qualcommを狙ってIntelから5Gモデムチップを調達しようとしていました。しかしIntelの開発が遅れ、結局事業そのものをAppleが買収したものの、遅れは取り戻せず、最終的に喧嘩中のQualcommからモデムチップを調達せざるをえなくなったのです。この上アンテナまでQualcommに頼りたくない、ということだったのでしょう。
しかし、上の記事にあるようにAppleはアンテナの設計があまり得意ではなく、その結果開発が遅れ、技術的問題に加え調達が間に合わないという理由から、対応を制限せざるを得なかったのではないかと考えられます。供給量の見積りを見ながら、ギリギリまで「全世界でPro Maxのみミリ波対応にするか、それとも地域限定にするか」で悩んだのではないかと思います。その結果、さまざまなパラメータのバランスがとれたのが「アメリカ限定」だったのではないでしょうか。
自前主義を強めるAppleですが、5Gについては誤算が続いているようです。
「?」をそのままにしておかないために
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