DXの成功は、結局のところ経営者にかかっている
Amazon CEOのジェフ・ベゾスが私財で買収したワシントンポストが、その後見事にDXに成功したということです。
これを読むと、DX成功の理由は目標設定、潤沢な資金、経営者の強力な意志などと読めますが、要はベゾスの卓越した経営手腕によるものと見るのが妥当でしょう。ベゾスは新聞については素人であることを自認してそれを公表もしていますが、記事では編集方針などには口を出さなかった代わりに、DXについては徹底的に関与したとあります。
技術関連の社員数はテック企業と比較しても引けを取らない規模で、また技術者はベゾス氏に直接連絡することが許されている
これはちょっと怖いですね。。後に書くように、ベゾスの怖さ・厳しさは業界に轟いています。「直接連絡することが許されている」というのは、「直接指示が来る」ことも意味するわけで、いわばベゾスの直轄組織だったのでしょう。技術者は結構大変だったのではないでしょうか。
つまり、ベゾスはこの場合オーナーと言うよりはDXコンサルタントとして機能していたということなのでしょう。しかし、それならベゾスなり誰かをコンサルタントとして雇えば良さそうなものですが、それでは駄目なのがDXの難しいところです。「オーナーがDXコンサルタントだった」から、DXに成功できたということなのではないでしょうか。言い換えれば、オーナーという絶対権力を持った人物が、DXを強力に推進するという強い意志のもとで強烈なプレッシャーをかける必要があった、ということです。
しかし同時に、買収額の2億5千万ドルに加え、DXのためにさらに5千万ドルを投資したということですから、そのことからも、社員にはオーナーの本気度が伝わったことでしょう。
2014年の末には、早くも復活の兆しが現われています。
解雇や失職の不安が無くなり、記者が仕事に集中できるようになったということです。士気が高まり、歯車が良い方向に回り始めたのでしょう。そしてポストは「成長分野はデジタル」という方針を明確に打ち出したのだそうです。
ベゾスの元でデジタルに転換
最初のNewsWeekの記事にも、デジタルへの転換が重要だったと書いてあります。
紙ベースであれば、どれだけがんばっても地方紙でしかありえない。ところがオンラインであれば、国政が強みの全国紙になれる。ジリ貧の状態で気持ちも沈みがちだった同紙の従業員が、このMTPで士気が回復したであろうことは想像に難くない。
そしてAmazonはポスト用に開発したコンテンツ管理ツールを外販することで年間1億ドル近い収益を上げていると言うことで、その部分の相乗効果も大きいようです。
Wikipediaには、2013年に買収後、2014年には地方紙のオンライン版の課金制度を撤廃した、とあります。当時は(今でもそうかもしれませんが)ニュースにお金を払うという意識は少なく、課金を続けても読者が増えないだけだと見切ったのでしょう。最初は無料にして、コンテンツが充実してから課金するというフリーミアムを取り入れたものと考えられます。
ベゾスにはいろいろな逸話があります。先のWikipediaにも、「きわめて優秀だが、ミステリアスで冷血な大物経営者」という評が載っていますが、倹約家で自分にも人にも厳しく、「ジェフ・ベゾスは北アメリカ的な企業モデルを推し進めている雇用者の残酷さを象徴している」とまで言われています。しかしそれにより、Amazonをここまでの企業に育て上げたのです。
Amazonは元からデジタルだが、古い企業をデジタルに変えるのは難しい
DXのお手本のように言われることもあるAmazonですが、実はAmazonはDX(デジタル変革)を経験しているわけでは無いと私は考えています。「変革」とは、古い企業体質の会社がデジタルネイティブに「変わる」ことを指すわけで、その意味では、Amazonは最初からデジタルだったわけですから、「変革」は経験していないのです。
一方で、古い企業が体質を「変革」するのは、簡単ではありません。長年にわたって隅々まで古いやり方に最適化されているわけで、いきなり一部分のみ「最新化」しようとすると、社内の抵抗に遭ったり、ビジネスがむちゃくちゃになって業績を落とす可能性すらあります。全社的な調整をとりながら、迅速に進めていかなければならないわけで、これは相当に大変な作業になります。
社長が強い意志と高度なITリテラシーを持って、陣頭に立って進めなければ、実現できるものではありません。しかしベゾスは、ワシントンポストという、先細りの運命を持った古い体質の会社を、見事に変革させることに成功したのです。彼の経営手腕が並ではないことの証左でしょう。
Wikipediaには、「ベゾスは年に一度、Amazonの株主宛に5つの原則を繰り返し述べた手紙を送っている。」とあります。
5つの原則とは、競争相手ではなく顧客をみる、マーケットを握るためにリスクをとる、従業員のモラルを高める、企業文化(組織文化)を育てる、人に活力を与える、である
これはまた、DXに臨む経営者の心構えとしても有効なのでしょう。
「?」をそのままにしておかないために
時代の変化は速く、特にITの分野での技術革新、環境変化は激しく、時代のトレンドに取り残されることは企業にとって大きなリスクとなります。しかし、一歩引いて様々な技術革新を見ていくと、「まったく未知の技術」など、そうそうありません。ほとんどの技術は過去の技術の延長線上にあり、異分野の技術と組み合わせることで新しい技術となっていることが多いのです。
アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや勉強会を開催しています。是非、お気軽にお問い合わせ下さい。