時価総額でトヨタを抜いたテスラ ビジネス速度はGAFA並み
7月の初めに、EV(電気自動車)のテスラの時価総額がトヨタを抜いたという記事が出ましたが、昨日の日経新聞で、それについての考察記事が出ています。
EVトップとはいえ、年間販売台数100万台にも満たないテスラの株価がトヨタを抜くとは、どういうことでしょうか?記事中にそのヒントがありますが、要はテスラは「DXに成功した企業」ということではないでしょうか。ビジネス速度とソフトウェアへのシフトが好業績を生み、将来への期待が高まった結果、株価が高まったということです。
記事には
米ハーバード・ビジネス・スクールで講師を務めるルー・シプリー氏は「テスラの技術革新のスピードは、自動車メーカーよりもグーグルやアマゾンに似ている」と指摘する。
とあります。「DX前」企業の代表格である自動車メーカーと「DX後」企業の代表であるGAFAの違いは、技術革新のスピード、つまり「ビジネス速度」なのです。ビジネス速度を上げるために、さまざまなデジタル技術を駆使し、組織構造やビジネスプロセスを作り替えること、それがDXということです。
でも書いたように、トヨタも本気で取り組んでいます。しかし今回のような結果になったのは、既存企業のDXがいかに難しいかを市場が理解しているからでしょう。世界的に見ても、既存企業がDXに成功した例は少ないのです。
GAFAはDXではない
ここでちょっと気をつけておきたいのは、世間ではGAFAをDXのお手本として取り上げることが多いのですが、これらの企業はそもそもDXを経験していないということです。DX=デジタルトランスフォーメーションとは、「デジタル変革」「デジタルへの移行」を意味する言葉で、旧来のビジネスモデルを持っている企業が、いかにしてデジタルに移行するか、という話です。これに対してGAFAは「最初からデジタル」なわけですから、トランスフォーメーションを経たわけでは無いのです。
これは重要なポイントです。新しい組織を一から作るときにデジタルをベースに作るのは比較的簡単ですが、確立したビジネスプロセスを持つ企業を根底からデジタルに移行させるのは、とてつもなく難しいことは想像に難くないでしょう。
特にトヨタのように、長い時間をかけて世界一の座を手に入れた大企業は、隅々に至るまで合理化され、まさに「乾いたぞうきんを絞る」とまで言われるような最適化を極めているわけです。現在のビジネスプロセスそのものが精緻に組み上げられた成功の証なわけで、これを「DXなんだからすべてをぶち壊して再構築するんだ」と言っても、そんなこと、とてもできるとは思えません。しかし、上に引用したようにトヨタはそれをやり遂げるつもりであり、それこそがトヨタを支てきたTPS(トヨタ生産方式)が指し示す方向なのでしょう。
先に「DXに成功した」と書きましたが、テスラも同様に最初からデジタルなわけです。ただ、モノ作りや販売という面では従来のやり方を踏襲せざるを得ない部分もありました。しかし、それについても大胆な変革を行ってきています。2019年の3月に、自動車販売では常識だった販売店網を、一部を除いて閉店したのです。
「スマートフォンから1分でテスラを買うことができる」というのも凄い世界ですが、結果としてこれが効を奏し、コロナ禍で対面接客が制限されて他の自動車メーカーが苦しむ中、4-6月期の決算は好調だったようです。
これもあって、冒頭の記事にあるように時価総額がトヨタを抜いた、ということですね。
テスラは自動運転中に事故を起こしたり、製造上の問題も指摘されるなど、問題も多い会社ですが、さまざまな批判はあれど、圧倒的なビジネス速度で問題に対応し、走り抜いてきました。やはり、DXの本質は速度なのです。対応速度が速ければ、問題があってもそれを迅速に改善し、悪い影響が広がる前に上書きしていくことができるのです。
テスラの快進撃はDXの成果であり、注目に値することは間違いありませんが、多くの既存企業が注視すべきはトヨタの動向でしょう。TPSは効率化・高速化を追求するためのメソドロジーです。「3年でアメリカに追いつけ」という、どう考えても不可能な命題にチャレンジし続け、ついには世界一の座を手に入れたトヨタだからこそ、不可能とも思われるDXを達成できるのではないでしょうか。
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