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AIがデバイスの付加価値になる

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エッジAI処理に新しいデバイスが登場しました。デジカメなどで使われるイメージセンサーに、AI処理機能を組み込んだチップが発売されたのです。

ソニーがAIチップ内蔵の画像センサーを製品化

AI処理が一般化するにつれて、AIチップの市場は数年前から活性化しており、様々なデバイスのAI処理能力を強化しようとしています。しかしこれまでは、AI処理能力を持たせたチップを様々なデバイスに外付けするか、AppleのA13やファーウェイのKirinのように、armベースのCPUにアクセラレータとして搭載して処理を高速化する形態が主でした。ところがSonyは、イメージセンサーにAI機能をビルトインしてしまったのです。これは、なかなか理にかなっています。

figure_tsumitate.png画像センサーとAIの相性は良い

ディープニューラルネットワークベースの深層学習は様々な分野で使われていますが、もともとは画像認識の分野で進化してきたテクノロジーであり、現在でも画像処理(コンピュータビジョン)で広く使われています。画像処理と言えば処理する画像が必要ですが、これまでは、画像センサーからの画像を外部のメモリに書き出し、それをCPUなりAIアクセラレータなりで処理していたわけです。

しかし、画像が高解像度化すると、データが巨大になり、メモリへの転送にもそれなりの時間がかかります。転送に時間がかかり、処理にも時間がかかると、リアルタイム性が失われ、監視カメラや自動運転車などの用途では問題が生じる場合があります。

Sonyのリリースにあるように、このチップは画像センサーの裏側にAI処理のためのチップを貼り付けたような構造になっています。恐らくはピクセルデータが下層のAIエンジン(DSP)にダイレクトに接続されているような構造になっているのでは無いでしょうか。(この辺、どんな形で繋がっているのか興味があるのですが、ブロック図を見つけられませんでした)つまり、データ転送の手間が無くなり、イメージセンサーから直接AI処理結果を出力できるのです。また、AIモデルを書き込むためのメモリも搭載されており、モデルを入れ替えることで様々な処理が可能になります。これは、なかなか面白い可能性を持っていると思います。

NPUではなく、独自DSPというネーミング

他社はこの類いの処理機構をニューラルエンジンとかNPUとか言いますが、Sonyは「AI処理に特化した独自のDSP」と言っています。中身は要するに積和演算ですから、やってることは同じなのでしょうが、やはりSonyはオーディオメーカーなんだな、と思わせますね。DSPは信号処理用のプロセッサで、オーディオ製品では広く使われています。DSPの技術は潤沢でしょうし、ちょっと弄るだけですぐにAIに転用できます。

何故セキュリティも安心なのか

もうひとつ、Sonyのリリースにも書かれているのは、セキュリティです。エッジでAI処理を行うというのは、ひとつにはデータ転送を抑え、ネットワークトラフィックを削減し、レイテンシを小さくするために必要ですが、もうひとつの大事な意味は、元画像を外部に出さずにすむことで、それはネット上にも流さずにすむ、ということです。

通常のイメージセンサーは画像をそのまま外部に出力し、それをCPUなりAIプロセッサなりが処理をします。そこに十分な処理能力がなければ、ネットを通じてクラウドに送信して処理を行います。しかしこのセンサーは内部でAI処理を行った「結果」を出力することができるため、チップ内だけで処理が完結できるような使い方であればチップの外に画像を出さなくても良いことになります。これはセキュリティ上大きなメリットです。チップ外に出力する場合でも、クラウドまで持って行く必要は薄れます。

リリース中で「メタデータ」と書かれているところがそれです。犬の画像を処理して、それが犬であることを認知し、「犬」というデータを出力できるのです。こうすると、元画像は外部に出てこないため、まわりにいろいろなもの「写りたくない個人とか」が写っていても、プライバシーは守られるというわけです。「犬」がいるかどうかを見分けるための用途であれば、これで十分なわけです。また、画像の特定領域のみ切り出して出力できるということですので、(リリースには書いてありませんが)恐らくは「犬」の部分だけ出力してくることも可能なのではないでしょうか。これもセキュリティの向上に役立つでしょう。

狙いは車載?

Sonyは現在スマホ用のイメージセンサーでは世界シェアの50%を握る最大手ということですが、このセンサーはスマホ用にはスペックが高すぎるように思います。やはりこのセンサーのターゲットは、今後需要の拡大が見込める車載や監視カメラでしょう。

Sonyは今年初めのCESでコンセプトカーを発表して話題を呼びましたが、Sony自身は車の量産計画は無いと表明しています。これについて、車を作ることが目的なのではなく、それに搭載するイメージセンサーの重要性をアピールするためのものだったのではないか、という記事がありました。

【量産するワケじゃない】ソニーがEVプロトタイプを世界初公開 なぜ量産しない?

EVになると他業種からの参入が相次ぐ、という話も聞きますが、ダイソンが撤退するなど、そう簡単なものでも無いようです。それよりは、得意な分野に集中する方が良いと言うことですよね。

 

今回の発表は、システム全体としてではなく、システムに使われるデバイスとして何ができるかを提案したということで、面白い取組みと言えます。上に書いたように、イメージセンサーとAIの組み合わせは相性が良い事例と言えますが、今後は他の組み合わせもどんどん出てくるでしょう。ムーアの法則が限界を迎え、集積度やクロック周波数を上げるのは難しくなっていますが、こういう「組合せのアイデア」は無限にあるでしょうし、エッジ処理やIoTの時代になれば、さまざまな可能性が広がります。

そしてこういった分野は、日本メーカーが強いところでもあります。今後この分野には期待したいですね。

【2020.5.19 16:15追記】

このチップについて協業の発表がありました。AzureからAIモデルをチップに書き込むのでしょうね。

ソニーと米Microsoft、映像解析システムで協業 イメージセンサーにAzure AI搭載

 

「?」をそのままにしておかないために

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