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メモリドリブンは「ポストノイマン」の本命となるか

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HPEが、かねてより開発していたメモリドリブンコンピュータの開発キットの販売を開始しました。

HPE、メモリドリブンコンピュータのプロトタイプを含む開発キットの販売開始。

メモリドリブン(メモリ指向とも)コンピュータは、従来のノイマン型コンピュータとは異なるアーキテクチャを持つ、非ノイマン型のコンピュータです。その名も「The Machine」。HPEの期待の大きさがわかります。発表から5年を経て、開発キットの販売開始に至りました。出荷は来年だそうです。

上の記事にあるように、ノイマン型がCPUを中心とするのに対し、メモリドリブンは大容量のメモリを中心に据え、まわりをCPUやGPU、AI用プロセッサなどが取り囲み、その間をファブリックで繋ぐというものです。これにより、ノイマン型特有の制限を回避できるとしています。

90%がデータ移動!?

「The Machine」の開発が発表されたのは2014年。発表の中で当時のHPのCTOのMartin Fink氏は、

「われわれは何十年もの間、同じアーキテクチャを使い続けており、それをずっと同じ方法で行っている」

としたうえで、

OSやプロセッサがしていることの90%は、「異なるストレージ層の間で単にデータをやり取りすることだけだ」

と述べています。これは、どういうことなのでしょうか?

フォン・ノイマン・ボトルネックを解消できるメモリドリブン

現代のほとんどのコンピュータは、ノイマン型コンピュータです。フォン・ノイマン博士が考案したとされ、Wikipediaによると、

プログラム内蔵方式のディジタルコンピュータで、CPU(中心となるプロセッサ、今日では一つの部品としてまとめて考えることが多いが、オリジナルの報告書では制御装置と演算装置に分けている)とアドレス付けされた記憶装置とそれらをつなぐバスを要素に構成され、命令(プログラム)とデータを区別せず記憶装置に記憶する。

ということで、要は「CPU-バス-メモリ」という構造を持つコンピュータのことです。

この構造だと、データ処理のためにはメモリからデータをCPUに送り、結果をメモリに書き込まなければならないため、データが大量になってくると、通路となるバスの幅や速度が十分に高速で無いとシステム全体のパフォーマンスが上がりません。先のHPのCEOの発言は、ノイマン型ではデータの移動が多すぎて、この問題を完全に避けることはできないことを指しています。これが、フォン・ノイマン・ボトルネックです。

ice_chupet.pngこれに対してメモリドリブンは、データが移動するのではなく、メモリのまわりの各種プロセッサがデータにアクセスしに行くため、このボトルネックが生じないとしています。しかも、バスが中心にあるノイマン型と違って、ファブリック型ですから、複数のプロセッサが同時に異なるメモリにアクセスでき、スループットが向上します。さらに、メモリは不揮発性と言うことで、ストレージに階層ができないため、ストレージ階層間でのデータ移動も起こりません。データ移動を徹底的に排除しようという思想から生み出されたアーキテクチャと言って良いでしょう。

ムーアの法則の限界

しかも、数年前からムーアの法則の終焉が取り沙汰されるようになりました。一方で、IoTやAIにより、処理しなければならないデータ量はこれから加速度的に増えていくと予想されています。ムーアの法則の終焉を乗り越え、ノイマン型の限界を打ち破り、しかも電力消費も抑えられるアーキテクチャが求められるようになったのです。世界中で様々なアーキテクチャへの取り組みが行われていますが、その中でHPが出した回答が、メモリドリブンだったのです。

「ポストノイマン」という黄金時代

「ポストノイマン」を狙っているのは、メモリドリブンアーキテクチャだけではありません。広い意味ではGPUなども非ノイマンに入るとする見方もありますが、量子コンピュータやニューロモーフィックチップなどが、典型的な非ノイマン型と言って良いでしょう。IBMは、演算能力を持つメモリというのも発表しました。

少し前にこんな記事が出ていました。

ムーアの法則が終わると、暗黒時代ではなく黄金時代が始まる

ムーアの法則によってノイマン型コンピュータの性能が毎年向上していた時代は、「コンピューター科学者にとっては腕の振るいどころが限定される時代でもあった」とし、ムーアの法則が終焉することで「コンピューターアーキテクチャーの新しい黄金時代(A New Golden Age for Computer Architecture)がやってきた」というのです。

世界中のコンピューター科学者にとって、自らの腕を試す黄金時代がやって来ているということだ。

ひとつの時代の終わりは、次の時代の始まりを意味する。そう考えると、行き詰まりも悪いことでは無いのかも知れません。

 

「?」をそのままにしておかないために

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