IBMがハイブリッドクラウドに拘る理由
先週書こうと思って違うことを書いてしまいましたが、IBMのRedHat買収についてです。
それにしても、発表の翌週にIBMとRedHatの両CEOが日本に来てイベントに登壇したのですね。イベントのスケジュールは前から決まっていたのでしょうけれど、凄いタイミングです。
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なぜ「ハイブリッドクラウド」なのか
今回の発表で面白いなと思ったのは、発表文にわざわざ「ハイブリッドクラウド」と書かれており、タイトルにも使われていることです。別に、「クラウド」で良いんじゃ無いかと思いますし、発表文中にもある「マルチクラウド」でも良いのではないかと思います。では、なぜハイブリッドクラウドなのか?
私はそれは、IBMの収益基盤が未だにオンプレミスにあることが原因なのではないかと思っています。ハイブリッドとは、オンプレミスとパブリックの組み合わせであり、ハイブリッドを謳うことで、オンプレミスに基盤を持たないクラウド事業者(AWSやGoogle)との差別化を強く打ち出そうということではないでしょうか。
Googleのシュミット氏が命名したとされる「クラウド」サービスは、元々今で言うパブリッククラウドを指していました。しかしIBMは、早くからプライベートクラウドに取り組んできました。「クラウド」しか無かった時代から、現在のパブリック、プライベート、ハイブリッドという区分けを作ってきたのはIBMだ、と主張しています。
この中で、「2008年当時に多くの人が考えていたクラウドとは、パブリッククラウドだけでした」とあり、「IBMは早い段階から、プライベートクラウドやハイブリッドクラウドの世界が重視されることに着目し、そちらの方向へ投資を振り向けてきました。」とあります。そして、2009年頃からIBMのサイトでハイブリッドモデルに関する記事が出始めます。
以来一貫してIBMはハイブリッドに拘っています。私はこれは、IBMに先見の明があった(もちろんその可能性もありますが)というよりは、当時の(そして今も)IBMの収益基盤がオンプレミスであり、クラウドは脅威でしか無かった、という事情があったからでは無いかと思っています。できればクラウドは普及して欲しくない、普及するとしても、オンプレミスも残って欲しい、という思惑だったのではないでしょうか。(それがクラウドへの取り組みを遅らせ、結果として現在の状況に至っているわとも言えますが)2008-9年頃はIBMを初め、DELLやHPなどの「クラウド以前」の企業がプライベート/パブリッククラウドをプロモーションしていました。
AWS、Googleといったクラウドネイティブなプレイヤーには、オンプレミスでの基盤はありませんから、プライベートクラウドには入り込めず、その結果ハイブリッドも選択肢にありません。(その後、バーチャルプライベートクラウドというさらに複雑な話に発展していきましたが。。)この頃は、パブリッククラウドこそが真のクラウドであると主張するクラウドネイティブな企業と、プライベート/ハイブリッドモデルもクラウドに含むとするオンプレミスに基盤を持つ企業との間で、いろいろな論争がありました。
現在ではパブリック/プライベート/ハイブリッドの区分けは定着し、IBMと似た立ち位置にいたMicrosoftはいち早くハイブリッドモデルへの転換を果たして業績を伸ばしています。自ら言い出したのに出遅れた形のIBMですが、RedHatの買収で一気に巻き返しを図れるのかどうか、注目です。