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AI の勉強をする必要は無い。AI が向こうからやってきてくれるから。

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Googleが、AIの知識が無くてもAIを活用できるというサービスを始めました。

Google、データさえあれば素人でもAIを構築できるサービスを展開

つまり、AIを使うためにAIを勉強する必要が無くなった、ということですね。これはコンピュータの歴史から言っても、正常な進化と言えるでしょう。技術は必ずコモディティ化するからです。(しかし、AIのコモディティ化の速度は過去に例が無いほどに速いとは思います)昨年あたりは、どんどんAI技術が進んで、一般の人はそれについていけずに不安になっていました。しかし、技術の方から人間に歩み寄ってきてくれています。

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もちろん、お仕着せの解析だけでは他社との差別化ができないような、競争の激しい業界では別の話でしょうが、AI利用のハードルが下がることは良いことです。これがさらに進んで、これからは様々なサービスにあらかじめ(見える形でも見えない形でも)AIが組み込まれている、という状況になっていくでしょう。(今でももちろんなっていますが)

ポナンザの山本さんが言う「技術的失業」とは

そんな折、昨年電王戦で人間の名人に初めて2連勝した将棋ソフト「ポナンザ」の開発者である山本一成さんのブログに、以下の様なエントリがアップされました。

Alpha Zeroの衝撃と技術的失業

Alpha Zeroは、2015年に人間のプロ棋士を破ったAlpha Goの最新バージョンです。上のGoogleのサービスとは直接関係は無いとは思いますが、この時期にこういった「AIの自動化」の話が重なったのは、偶然では無いように思えます。

山本さんによると、Alpha Zeroは「人間流、以前のコンピュータ流とは異なる第3の道」を歩んできたということです。Alpha Goもポナンザも「以前のコンピュータ流」に分類されます。過去の棋譜を大量に読み込ませて学習させ、コンピュータ同士を対戦させることで強化するのです。しかし、Alpha Zeroとその原型であるAlpha Go Zeroは、過去の棋譜は読み込まず、いきなり自分自身との対局を行って強くなっていったということです。

山本さんはこれを「Alpha Zeroは強いだけではなく、全く異なる思考方法でチェスと将棋の山を登って来た」と表現し、自らについて「多分これが技術的失業なのだろう」と綴っています。これまで山本さん(を含むコンピュータ流の研究者)が極めようとしてきたアプローチとは全く異なるアプローチが圧倒的に有効である可能性が突きつけられ、この先はもう、これまでのアプローチの研究を続けることは無意味である(あるいは無意味であるかも知れない)ということが突きつけられた、ということ、それを「技術的失業」と表現したのでは無いでしょうか。

もはやAIにビッグデータは必要無い?

今は第3のAIブームと言われます。第1のブームが1960年代で、このときはパーセプトロンなどの現代に繋がる研究成果がありましたが、コンピューティングパワーが足りなかったり、アルゴリズムが成熟していなかったりで実用になるAIは実現できませんでした。第2のブームが1980年代、人間の知識をルール化して推論を行おうというエキスパートシステムを目指しました。日本でも第5世代コンピュータプロジェクトが立ち上がりましたが、このときも目に見える成果をあげられませんでした。(ただ、このとき育った人材が今の日本のAI研究を支えているという見方もあります)人間の知識は明文化できないモノが多く、ルール化できなかったのが一因と言われています。

この反省に立って、人間がルールを作るのでは無く、大量のデータからコンピュータが自動的にルールを生成して学習するという仕組みが生まれ、第3のブームに繋がります。これが機械学習です。AIのために大量のデータ(ビッグデータ)が必要とされるのは、こういった理由からでした。

しかし、Alpha Zeroの登場で、ビッグデータは必ずしも必要無くなるのかもしれません。もちろん、まだAlpha Zeroの適用分野は未知数であり、囲碁やチェスでは無く画像認識という分野では、まだビッグデータが有効、といったことなのかも知れません。ただ、先週書いたように、画像認識の分野でも少ない学習データで成果をあげている例も出てきています。(Alpha Zeroとは異なるアプローチと思いますが)

冒頭に紹介したサービスは、面倒な設定をしなくても手持ちのデータを与えるだけで機械学習してくれる、というところを自動化するサービスですが、恐らくAlpha Zeroの技術が一般化すれば、やりたいことを指示するだけで勝手にAIができてしまう、ということになるのかも知れません。「過去の例に倣う」ことで成長してきたAIが、自ら道を切り開き始めた、ということなのでしょう。これは、将来から今を振り返った時に、大きな転換点だったということになるのかも知れません。

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