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AI が奪うのは特定の職種では無く、特定のレベルの仕事なのではないか

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Facebookでこんなエントリが流れてきました。

AIは、ブルーカラーではなく、ホワイトカラーの仕事を奪うのではないだろうか。

蒸気機関に代表される第1次産業革命では、「動力」が機械化されました。そのため、力仕事が機械に代替されたり、馬車が鉄道/車になって馬が失業したりしたわけです。それに対し、AIは知的活動の機械化であるため、影響を受けるのは主にホワイトカラーということになります。もちろんブルーカラーにも影響はあるでしょうし(ブルーカラーにも知的作業はありますからね)、それも小さくは無いとは思いますが。

さて、この中に

基本的に、医者のような人件費が高く、人を雇うのが難しい仕事ほど、機械に置き換えることのメリットは大きいのです。
近い将来、機械に置き換えるコストのほうが高くつくような単純作業だけが、人間に残されるのかもしれません。

という記述があって、AIをコストから考えるのは、面白い視点だと思いました。ただ、私としては、単純作業と高度な作業の両端が人間に残されて、その間の部分がAI化されていくのではないか、と考えています。お医者さんの仕事の中でもAI化されていく部分は当然あるでしょうが、完全に置き換えられるほどにはならないでしょう。

ai_music.png

単純「すぎる」作業はAI化のメリットが少ない

「単純作業」こそAIに置き換えられる、という意見がありますが、そこにはコストの問題があります。AIの導入・運用費用と人件費との比較の問題ですね。今の所AIは非常にコストがかかりますから、人間を代替してコスト的に見合う仕事は限られます。今後コストが下がって行くにしても、最低賃金の人間に対抗できるようになるかどうかはまだわかりません。

2年前に野村総研とオックスフォード大学が共同で「AIに代替される職業」を発表しましたが、これにはちょっと違和感があります。

日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に

何が違和感かというと、「職業」(というか職種)で分けているからです。私の考えは上に書いたように、特定の職種では無く、様々な職種の「真ん中」あたりがじわじわとAIに置き換わっていくのではないか、というものです。ただ、どの辺から、どのくらいの速度で置き換わっていくかについては、職種による差はあるでしょう。

作曲するAI

「AIに代替される職業」の中では、所謂「クリエイティブな」仕事はAIに代替されないということになっていますが、現実には、今でも実験的ながら作曲したり絵画を描くAIが存在します。クオリティ(それを定義し評価することは非常に難しいのですが)的には、人間の一流と比べられるものでは無いのでしょうが、それなりのものはできるようです。

ウワサのAI作曲の実力やいかに 記者がやってみたら...

例えば、コンテンツとして売られているBGMのような、言葉は悪いですが「何か鳴っていれば良い」というレベルのニーズであれば、これで代替できるでしょう。ホームビデオのBGMなど、これまでコストが問題で使われていなかったところでも使われたりするかも知れません。作曲のようなクリエイティブと思われていた世界でも、AIに置き換えられる部分は存在するということです。

弁護士/高級官僚もAIで代替可能?

最初に紹介したブログでも触れられていますが、アメリカでは、弁護士の仕事がどんどんAIに置き換えられているということです。弁護士と言えば知的職業の代表のように思えますが、ここで置き換えられるのは「パラリーガル」という弁護士の補佐的な仕事。アメリカは判例主義なので、過去の判例を調べるという仕事がかなり大変らしいのですが、これまでその仕事は駆け出しの弁護士が担っていたわけです。パートのおばちゃんに任せるわけにも行きませんもんね。でも、こういうパターンマッチング的な作業は、絶対的にAIのほうが有利なんですよね。ということで、アメリカではこの部分の作業がどんどん置き換えられているそうです。まったくもってアメリカらしい話です。

その反面、こういった仕事は、弁護士のキャリアパスでもあったわけです。誰もがいきなり敏腕弁護士になるわけではありません。いろいろな経験を積んで、成長していくわけですよね。アメリカの状況は、弁護士のキャリアパスを根底から破壊しつつあるわけです。その場合にはAIが教育も担うことになるのかも知れませんが。

あと、日本の中央官庁の仕事も結構AI化できる可能性があるという話もありました。中央官庁の仕事は法案の作成ですが、これはかなりの部分、過去の法律との整合性のチェックや判例の確認のような作業に費やされるということで、この部分は恐らくAI化が可能な分野です。官庁間で同じスキームも使えそうに思えますし、これがAI化できると、もの凄いコスト節約になるのでは無いでしょうか。

最後はコストが決める

つまり、どのような仕事にも、AIで代替できる部分と、そうでは無い部分があって、代替できるところについては人間対AIのコスト対決になる、ということだと思います。AIで代替できる仕事でも、コストが合わなければAIは入ってきません(AIを適用しようとする経営者はいない)。そう考えると、これからの私達の選択肢は、以下の様なものになるのでしょう。

  1.  どの職種でも、AI化されない高度な部分を目指してスキルを磨く
  2.  AIよりも単価の安い超単純作業に甘んじる
  3.  ユーザーが極端に少ない(=AI化がペイしない)サービス業などに参入する

私は3番が面白いのではないかと思っています。ニッチを狙う戦略ですね。これはでも、AI化がペイしない、ということで、ニッチを狙う以外の戦略もあり得るのかもしれません。

私はライカなどの昔のカメラを何台か持っていますが、その世界ではメーカーがもう面倒見てくれない(とか、メーカー自体が存在しないとか)ようなカメラの修理をしてくれる修理屋さんは大変ありがたい存在です。しかし、この分野に何千万円もかけて参入してくる企業は無いでしょう。市場規模が小さすぎて、そんなことしてもペイしませんから。ということは、中古カメラ屋さんは(市場が今後もの凄く拡大しない限り)安泰ということになります。

インターネットのおかげでこういったニッチなビジネスもやりやすくなっていますから、様々な分野でこれまで不可能だった細分化がどんどん進んで、豊かな趣味の世界が形成される可能性もありますね。それはそれで良い未来なのかなとも思います。

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