iPhone 8/X の本当の新機能は A11 bionic だ
毎年恒例、Apple の新 iPhone の発表が 12 日深夜に行われました。最近は事前のリークがもの凄く、それもかなり正確なため、びっくりするようなことはなくなりましたが、それでも実際に発表されてみないとわからないことは沢山あります。
ここ数年言われ続けているのは、「かつてに比べて驚くような新機能が出てこない」ということですが、これは仕方ないでしょう。毎年イノベーションが起こるわけでもありませんし、そもそも毎年機能がどんどん増えていっても、使う方がついていけません。
今年の発表も、概ね事前のリーク通りでしたが、使われている部品で気になるものがありました。A11 bionic です。A11 自体はこれまでの経緯から予想はできましたが、その中に機械学習用エンジンが載っていたのです。以前のエントリで書きましたが、これは今後のスマホの方向性を決める可能性を秘めており、尚かつ今のところ Apple にしかできないことなのです。
独自開発で高効率化・AI シフト
A11 では A10 に比べて CPU コアなどが強化され、GPU や イメージ処理エンジンなどが、Apple 独自開発のものに置き換わっています。A10 までの GPU は、Imagination Technologies からライセンスを受けていました。これのあおりで、Imagination Technologies は事業部門の売却に追い込まれ、Apple との間で訴訟に発展しています。なんと、売り上げの半分が Apple からのものだったとか。
GPU のアーキテクチャは機械学習に向いており、最初は GPU を機械学習にも使っているのかと思いましたが、どうやら専用の「Neural engine」というのが搭載されているようです。
これについては、まだ詳しい情報が無い状態で、いろいろ調べているのですが、実態はよくわかりません。それどころか、下の二つの画像、A11 bionic のNeural engine と ISP (Image Signal Processor) のチップ上の場所が同じじゃありませんか?
(Apple のキーノート動画よりキャプチャ)
Apple もいいかげんだなあ。。ただまあ、ISP の一部を Neural engine として使っている可能性もありますよね。画像処理も信号処理も、結局は行列計算と積和演算の組み合わせなので、使い回しは効くのかもしれません。でも、それをいうなら、GPU と ISP も共用できる部分もありそうです。中身はどうなっているんでしょう?
ともあれ、今回 Apple が自前の SoC で AI をハードウェアサポートしたことは、大きな意味があります。この可能性については、先日のエントリでも書いていました。
これは、製品/サービス企画、ハードウェア、部品、OS をすべて自前で設計できる Apple の強み(時と場合によってはこれが弱みにもなるわけですが)なのです。6 月に発表された CoreML も ARkit も、A11 bionic のこの機能があってこそ真価を発揮するということです。
Apple は「機械学習」と言っていますが、恐らく現状では Google の TPU のように、推論に特化したエンジンになっているのではないかと思います。今回の発表では、このエンジンの使い道は AR や Face ID 向けとされていますが、当然汎用に使えるわけで、今後デバイス側で AI 処理が行えるようになれば、いろいろと用途は広がっていくでしょう。
Google も電話を作る?
そんな折り、こんなニュースが飛び込んできました。
記事にあるように、HTC 救済のためなのかも知れませんが、ひょっとすると、Google もまた、「自前のスマホ」が欲しくなったのかも知れません。TPU と組み合わせた SoC 作るとかすると、結構面白いのではないかと思うのですが。。
と書いていたら、Wired に先を越されてしまいました。
この記事にもあるように、Google は以前 Motolora の携帯電話事業を買収して、結局は売ってしまいました。このときの買収は Motolora が持っていた特許を取得することが主目的だったと言われていますから、売却は既定路線だったのかも知れませんが。Wired はこうも書いています。
ARやヴァーチャルアシスタントなどの新技術は、強大な処理能力が必要なうえ、ハードへの最適化が鍵を握る。アップルのAR開発キット「ARKit」がうまく機能している大きな要因のひとつは、最新の「A11 Bionic」プロセッサーと、「ニューラルエンジン」の存在である。
正にこのブログで私が書きたかったことを書かれてしまいました ^^; 今後 Google が Apple 型の垂直統合モデルを目指す動機は十分にあると思います。そうなると、先に書いたようにデバイスに TPU が載ってきたり、デバイス側で機械学習を行う「Federated Learning」をハードウェアでサポートする事も可能になるでしょう。
ただ、スマホは、作ることはできても、流通とかサポートとかが難しいのですよね。Google はかつて Samsung 製の Google Phone を自社ブランドで出して、失敗しています。今回はその教訓を活かせるでしょうか?